先輩と後輩



ドラマか漫画か小説か、何かで目にした1年早く生まれただけで偉そうにって言葉、確かに場合によっては1か月だったり1年だったり、それだけの差で先輩後輩が決まるなんて随分かもしれない。でもそれが3年、5年と増えれば増えるほど大切さがわかるわけで、ましてや高校生と中学生じゃ1年だろうが充分大きな差だ

学校が違うってことは、眠そうに黒板を見る横顔も、給食で向かい合ってドキドキも、一緒に受けれる合同授業も、朝礼で校長先生の話をだるそうに聞く姿も、何も無いし何も見れない。それどころか放課後一緒に帰ることすら難しいし、何もしなければ会う事すらなく日々が過ぎるわけで、つまりそういう事なのだ

いくら少女漫画で憧れの先輩なんて人がいても、大抵は同じ学校内だし、最終的にはこんなに近くにいたのに気づかなかったなんて!と、同級生か幼馴染と恋に落ちる。つまりそういう事なのだ

ずるい、羨ましい、いっそ留年して待ちたい。結婚してほしい。どうせ蘭丸くんだって同級生がいいんだろ!一緒に帰ったり隣の席で教科書忘れて机くっつけたりするんだろ!私だって蘭丸くんと同じ学校、欲を言えば同じクラス、もっと言えば隣の席で、ドキドキ!トキメキ溢れる学生生活! を送りたかった、ばかー!

なんてひたすら悪態をついている原因はただ1つ、ほんの数10分前の出来事

授業が終わってからいつもの様に雷門中に向かった私だけど、おかしい。幸い練習はまだ始まっていなかったものの、肝心の蘭丸くんがいない。いくらピンクを探しても見当たらない。2年生は全員揃っているのにいない。

先生に呼び止められているだとか、何か手伝わされているだとか、困っている人がいたらスルーするか声をかけるか迷うお人よしの蘭丸くんにそんなことがあるのか、まさか、迷いはするけどさ。しんさまと一緒に行動しているならあるいは、手伝おうか?って聞くしんさまに、いや、俺がやっとくから先に行っとけって、あるな。あるかもしれない。でもそこは部活があるので!って言わなきゃ!そもそも誰だよ、練習があるって知ってるくせに足止めさせる奴は!

1人で不貞腐れてる私を見かねた倉間に霧野なら呼び出されていないって教えてもらって、誰にか聞いてみたら珍しく言いよどむし、詰め寄ってみれば告白ですって!!な、なんだって!!いや、ほんとになんだって??


ってことで冒頭に戻る。私だって蘭丸くんを呼び出して告白したかったよ、そして申し訳なさそうにまだよく知らないのに……。とか断られたかったし、良く知ればいいのね?って詰め寄りたかった!いや、これしたな。というか、蘭丸くんがいくら忙しくてもそれを今呼び出すなんてどういう了見?練習が終わるまで待つことも出来ないなんて、同じ学校のくせに!放課後じゃなくてもチャンスは山ほどあるのに、昼休みとか蘭丸くんなにしてる?お弁当?学食?購買??誰と食べてる?私も食べたい、蘭丸くんを。そこをよりによって放課後!いつも邪魔してる私が言えたことじゃないけど、毎日本当にすみません!ありがとう!

別に蘭丸くんが好きなら、別にいいですけど、私は別に……。なんていつも言ってるけど、全然嫌。本当だったら今すぐ乗り込んでやりたい。校舎裏の告白なんてシチュエーション乗り込むしかないし、蘭丸くんと付き合いたいなら彼女の私と決闘しなさい!って言って大人げないって呆れられたい!と、ここで疑問。そもそも知っているのか?彼女がいる事……。

サッカー部の人達は勿論知っているけど、私が雷門中で出入りするのはここだけだし、放課後だし、皆知らなかったりする?もしかして蘭丸くんって結構言い寄られてたりする?あんなにかっこいい男人類が放っておくわけがない?学校って、告白の宝庫?

今蘭丸くんといる女の子の方が私の知らない蘭丸くんを知っているかもしれないし、蘭丸くんが私について知っていることよりその子について知っていることの方が多いかもしれない。だって私、学校の蘭丸くんを何も知らない。同級生と付き合った方が楽しいかもしれない、やだ!勝てないよ!同じ学校ってだけで勝てない!勝ち負けとかじゃないけど

観客席で項垂れて1人で百面相、多分傍から見れば完全におかしな人、傍から見なくてもおかしな人、それはいつもかも。こうなってくると馬鹿でかいサッカー棟が憎い、孤独だ

ここがアメリカだったら蘭丸くんはきっと飛び級して、飛び級出来なくても私はなかなか進級できなくて同じ学年だったかもしれないし、結婚できたかも。結婚しよう、え?無理?知ってるよ。もう戻ってきた蘭丸くんが「大丈夫?籍入れる?」って言ってくれないと人生頑張れないよ。「ごめんな、やっぱり俺……。」なんて言われたら無理、1ミリときめく私は低燃費。その後も関係なく付きまとって、彼女が不安がるからやめろって怒られたすぎる、わかるかっこいい、でも私はそれを彼女側で聞きたいよ。聞けることある?ないわ、なぜなら付きまとうのは私だけだから

1人でごちゃごちゃ展開してるうちになんだかそろそろ練習開始するみたいだけど、まぁ蘭丸くんはまだ来てない。そんなに長いもんなんですか、スピーチで告白されてんのかな、いいな、私も霧野蘭丸のかっこよさで論文書こうかな。霧野蘭丸のここがかっこいい!を纏めたレポートでも提出しようかな、一応読んでくれそうな所がいいな、好きだな


「そんなところでなにしてるんだ」

突然上から降ってきた聞きなれた声に驚く。あらなに、帰ってきたの、お帰りなさい?思わず怪訝な顔になってしまう私にもっと怪訝な顔をする蘭丸くん

「うずくまってたら気になるだろ」
「それはなんというか、申し訳ないことをしてしまいましたね」
「まだ少し時間があるからいいけどな、そんな顔する必要ない」

そんな顔って何。必要ないって何。告白のこと言ってる?誰かが伝えたのか、私がこうなってるならそうだと思ったのか、ていうか何、もしかしなくてもめんどくさい?気使われてる?今に始まったことじゃないといえばそれはそうだけれども

「……留年しようかな」
「何の話だ」
「いや、留年すれば同じ学校に通えるし」
「何の為に」
「だって、学校にいる間の蘭丸くんのこと全部知りたいし、一緒じゃないとできないこと沢山したいし、他校の先輩でいるより絶対付き合ってて楽しいし」
「そんなこと気にしてたのか?」

言葉が止まらない私を気にも留めずに、ただただ不思議な顔をする蘭丸くん。何も理解できないって顔。そんなこと?重要でしょ!私が気にしすぎてるだけじゃないでしょこの話は

「俺も同じこと考えたことあるけどな」
「そんなの考えたらきりがないだろ。俺達には俺達だけの関係があるし、俺は俺しか知らないあずみがいるだけで充分なんだけど」

唖然。これはなにか都合のいい夢?そもそも蘭丸くんもそういうこと考えるんだ、そして悩んだんだ。私のことで私にかけられる迷惑以外のことに悩んだんだ。サッカーと親友以外で、私のことで悩んだんだ。

私よりずっと年下なのに、知らないうちに大人な答えに落ち着いていた蘭丸くんに改めて惚れ直す。と同時に己の余裕のなさにちょっとの焦り。こんなの抱えきれないよ、霧野蘭丸のここがかっこいい論文30000字でいい?全然足りない。よくこんなセリフをそんな真剣な目でさらっと言える。自分で後から恥ずかしくなるくせに、ほら顔真っ赤、でも私もきっと赤い。かっこいいなぁ!ずるいなぁ!

と、ここまで数秒。なんにも口に出せない私に、俺は一緒にいて先輩だとか感じた事はないし、なんてなんとなく傷つく余計な一言を添えてからみんなの元へ向かう蘭丸くんの背中を見ながら思う。きっと私が中学生だったら蘭丸くんはこうして接してくれないし、きっと蘭丸くんが高校生だったらこんな大事なことに気付かなかったかもしれない

同じ学校じゃなくても全然大丈夫、私は欲張りだから本当は大丈夫じゃないけど、私が先輩で、蘭丸くんが後輩でよかった





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