好きだと気づかないミヒャエル・カイザー
「オイ」
「なに?」
着信を知らせる音が鳴り、画面を見てみれば“ ミヒャエル ”の文字。またか、と呆れたため息をこぼす。本当は出たくないが後々に面倒くさい事になりかねないので腹をくくって出てみれば開口一番が“おはよう”でもなく“オイ”だった
なんとなく彼が電話をかけてきた理由はなんとなく察しているがあえて尋ねる
「しらばくれるな。聞いてないぞ」
「だからなにを?」
「今日お前が出かけることをだ」
ネスから聞いたぞ。なぜネスが知っていて俺が知らない。
皇帝ことミヒャエル・カイザーはよっぼどお怒りなのか電話口の向こうでぎゃんぎゃんと吠えているが、
「(いや…知らないよ)」
そもそも私、ネスくんにも言ってないんだけど。
今日は前々から友人と約束をしていた日だ。新しく出来たと話題になってるお店が美味しいらしく、話の種に行ってみようと言う事になり、いつにするかと話し合うも友人や私にバイトがあったりとお互い日が合わずなんとか合わせられた日が今日だった。
一日一日今日という日を楽しみに過ごしていたが、数日前の天気予報では曇り時々雨だとお告げをされた。もしかしたら行けないかもと落ち込んでいたが天は味方をしてくれたらしい
曇りだと言われてた天気は雲一つない晴天にかわり、天気予報を見ても今日は傘マークも曇りマークもなかった
るんるんとした気持ちでメイクを施し、前日に決めていた服を着て、髪型も服に合わせたアレンジにして文句なしのカワイイ私が出来上がった
友人に用意ができたとメッセージを送り、待ち合わせ場所に向かうため玄関を出ようとしたときの電話だった
「聞いてるのか?」
「聞いてるよ」
「なら答えろ。なぜ言わなかった」
「もし言ってたならミヒャエルはどうしてた?」
質問を質問で返す。このやり取りはきっと無意味だと思う
フン、と鼻を鳴らし愚問だなと吐き捨てるミヒャエルは“いつもの答え”を口にする
「そんなもの行かせないに決まっているだろ。この答えも何回目だ?いつになったらナマエちゃんのおかわいそうな頭は学ぶのかねぇ」
「だから言わなかったんだけど」
「あ?」
あ、やばい、余計なこと言っちゃった。慌てて口元を手で抑えても一度吐いた言葉は消えない
なんとかあやふやにしてこの場を乗り切ろうと思ってたのに。
「いい度胸だな。今すぐお前の家に向かう。そのまま一歩も動くなよ、わかったな」
一方的に叩きつけられた果たし状に何も返す間もなく電話は切られた。
「……ええ〜。まぁいいか」
いつもの事だ。私は気にせず友人と今日を楽しめばいい
きっとネスくんがなんとかしてくれるだろう
私はとくに気にもとめず約束の場所へ向かった
◇
待ち合わせ場所についた私は、先に待っていてくれた友人に待たせたお詫びを告げ例のお店に向かった
話題なことだけあって人も多く、列が出来ていた。
何食べよっか、これ美味しそうだよね、と紹介されてるサイトを見ながら食べるものを考え並ぶ事30分。
ようやく私達の番が来てお店の中に入れば、店内とテラス席がありテラス席へ向かう
店員さんに予め決めていた注文をして、最近あった話や友人の恋人の話などをして待つ。この時には家を出る前の事なんてすっかり忘れていた
「おまたせしました」
「わあ、美味しそう!」
「ねえねえ、ナマエのも一口ちょうだい!私のもあげるから!」
「いいよ!」
二人でお互いの料理をシェアして、美味しいね!、来てよかったね、と笑いあう
「追加のデザート頼むけど、ナマエはどうする」
「あ!なら私も頼もうかな…」
「ずいぶん楽しそうだな」
頭を突き合わせてメニュー表を覗き込んでいれば聞き馴染み過ぎた声が聞こえてきた
「…え、」
驚いて顔を上げれば、テラス席の柵に寄りかかりながらサングラス越しにこちらを見つめる知る人ぞ知る、俺様何様皇帝さまがそこにいた。怖いぐらいの笑顔で
「な、なんで……………」
「え、あれ!嘘っ…」
友人が目の前の男があのミヒャエル・カイザーと気づいたのだろう
心配になるぐらい顔を真っ赤にして慌てている
「まったく、お前は待ても出来ないのか?」
「まさか家に来た?」
「ん?ああ、一歩も動くなと言ってあったはずなのに人の気配がなかったあの家にか?行ったがそれがどうした?」
言い訳があるなら言ってみろ、と聞こえてきそうなほどの圧を感じる
「ね、ねぇ!あの人ミヒャエルだよね!?ナマエ知り合いなの?」
「えっと〜腐れ縁?」
「なぜ疑問形だ。…ナマエの友人か?」
「は、はい!そうです!」
「悪いが今日はお開きにしてもらってもいいか?ちょっとコイツに用があってな」
「どうぞどうぞ!どこへでも連れて行ってください!」
「はあ!?ちょ、ちょっと…!」
「助かる。これからもナマエと仲良くしてやってくれ」
友人に店の出入り口へ背中を押されてる背後で聞こえた言葉に、お前は親か!と心の中で盛大に突っ込んだ
◇
「で?もちろん俺が納得する理由があるんだろ?」
足を組んでソファに座る姿はまさに皇帝。頭に王冠が見える
その前に正座をさせられて座っている私は今から罰をくだされる気分だ。一つでも答えを間違えれば首が飛ぶ
「り、理由というか……今日は友人との約束が先で、」
「本当おバカだなナマエは。それはさっき聞いた。俺に言わなかった理由を話せ」
「お、おバカって………。」
「本当の事だろ。何度言っても学習しないのは誰だ」
やれやれ、と首を横にふり呆れた様子で呟くが言わせてほしい。ごくりとつばを飲み込み意を決して皇帝を見つめる
「そ、そもそも言わせてほしいんだけど、」
「なんだ?」
「わ、私とミヒャエルは恋人でもなんでもないよね!?どうして恋人でもないミヒャエルにそこまで言わないといけないの!」
言った。言ってやった!
ずっと言いたくて言えなかったことを。
ミヒャエルが私にこういう事を聞いてくるのはなにも友人との予定だけではない
バイトの予定、休みの日、今日のように予定を組んだなら誰とどこに行くのか。バイトもやめて新しく働く場所まで事細かく必ず報告しないといけなかった
最初はなんでだろう、と深く考えず答えてきたが年月を重ねるごとに疑問が濃く浮かび上がってきた
なぜ恋人でもないミヒャエルに伝えないといけないのか。
今日こそは言おう、明日こそは、とタイミングを逃し続けやっと言えた
黙り込むミヒャエルが怖くて目が見れない。沈黙が痛い
「そんなの」
「?」
「俺が聞きたい」
「は?」
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ミヒャエルside
「クソ。ナマエのやつ、どこの馬の骨とも知らない奴と出かけやがった」
あいつから届いたメッセージは友人数人と出かけるという内容だった。
「俺だけがいればいいのに、何が不満なんだ」
クソ不愉快。
髪をかきあげ、鬱憤を息とともに吐き出す
「カイザー、またあの子ですか?」
「ああ。どうもまだ躾がなってないようで手を焼いてるところだ」
「………そうですか」
今すぐ帰らせるか?いや、そもそも決定事項を送ってくるな。友人とやらの予定をどうするか俺に相談もできないのかあいつは。
「あのカイザー」
「なんだ。今クソ忙しい、あとにしろ」
どうしたらあいつを俺の側に縛り付けられるか
どうしたらあいつは俺の言うとおりに動くのか、全神経を使って考える
「……で、でも…」
「ちっ。なんだ」
ネスにしては珍しく食い下がる。不機嫌に見つめれば目を逸らすも、どこか決意したように口にを開く
「カイザーはあの子が好きなんですか?」
「は?寝言は寝て言え、クソつまらん」
俺があいつを好き?バカバカしい
「でもカイザーを見てたら──────」
「いいことを教えといてやる。その頭に叩き込め」
いいか?あいつはドジでマヌケだから、他の奴らじゃ手におえん。だから仕方なく俺が面倒を見てやってるわけだ。あいつは俺がいないと生きていけないんだ。
それにな、お前の言う“好き”とか言うくだらない感情をあいつに持ってるとしよう。俺はあいつとキスしたいともその先をしたいとも思わん。むしろ噛み付いて、痛めつけてやりたいとは思ってる。これが好きって感情な訳ないだろ。おわかり?
「わ、わかりました」
「フン。ならこの話は終わりだ」
再び携帯に向き合いあいつにメッセージを送る
だからネスが背後で呟いた言葉は聞こえていなかった
「やっぱりそれが好きという事では?」