「ナマエさん。どうかしましたか?」
「ァ、いえ……大丈夫です」
「何かありましたら遠慮なく仰ってください」
我輩はあなたの助けになりたい。そう優しく囁いてくれる彼────スカリーくんは心配げにかぼちゃ色の目尻を下げ、私の目を覗き込み、私の手をそっと持ち上げ血色のない口元へと招く。
手の甲に吐息がかかり擽ったい。
心配かけているのは分かっている。だけど、これは話していいものなのかよく分からない。
異変が起きたのは1ヶ月前にもなる。
最初は断片的なものだった。映写機から映し出されたフィルムの映像は前後に繋がりなんてなく、まるで切れ端と別の切れ端を繋ぎ合わせて部分的に見ているような感じだったのだ。
見たことの無い風景、なのに何故か知っていて。知らない人達、なのにどこか懐かしくて。夢なんて脳の整理だと言う話はよく聞く。
見たことのない景色、存在しない人物をまるで知り合いかのように接して勝手に懐かしく感じる経験は誰しもあるだろ。私も何度も経験があり、それだと思っていた。
最初は─────。
次の日、また次の日、と続けざまに見続ける夢は昨晩の続きだったり、風景も人物も一変して新しくなったりまちまちだった。
だから特に違和感もなく起きたら忘れる、それまでの存在。ただ少しのシコリを残して。
同じ夢を見る事は何度もある。なんならその夢の続きを見る事だって珍しくない。
たかが夢、されど夢だ。
なのに。夢に出てくる人物はいつも愛しげに私の名前を呼んで抱きしめる。
ある時は私を連れてきたかった場所だと嬉しそうに笑う。
ある時は喧嘩をしたのかお互い言い合って私が部屋を出ていくと慌てて追い掛けて来て、行かないでと私を抱きすくめ泣き出す。そんな姿に私の怒りは徐々に萎んでいき背中に腕を回して謝るの。ごめんね、
………───“スカリーくん”と。
そう。今まで私の夢に出てきたのは、今私の目の前で私の心配をしている彼そのもの。
なら何故話していいのか悩んでいるかと言えば。
私と彼が出会った時お互いが初対面だったのだ。
もしどこかであっているなら覚えてるはず。なのにお互いはじめましてで何も覚えてないところか、知らない。
一瞬。この村で彼と過ごしていくうちに惹かれ始めた心が見せた願望夢なのかもしれない。そう思う時もあった。
だけどそれだと腑に落ちない箇所はいくつもある。
確信に変わったのは昨日だ。
どこかでこれが“ 現実 ”だと“ 私の記憶 ”だとわかってはいたのかもしれないが私は目を逸らし続けた。
昨日見た夢はこうだ。
スカリーくんはハロウィンを広げる度に出ると。私は付いていきたいといったが、彼はこう言ったのだ。
“ お気持ちは嬉しいです。ぜひご一緒に……と言いたいところですが、すみません。連れて行くことは出来ません。
この先の旅はきっと酷なものになる。我輩の素敵なあなたにそんな思いはして欲しくありません。あなたはまだ若い、未来もある。我輩などに捧げないで。あなたの幸せを手に入れて。
…───我輩のわがままを許して ”
そうきつく抱きしめてその日の晩に私を気絶するほど激しく、まるで自分を私に刻むように抱いた彼は目が覚めた頃には姿はなかった。
悲しみ、苦しみ、怒り、虚しさ、恨み────愛しさ。私はそれらをぶつける術を魔法に使ってしまった。
襲いかかる黒い感情を魔法にのせて放ち続ける。彼との思い出の場所が粉々になろうと構わなかった。
もう意味なんてなかったから。
すると如何なるかなんて魔法使うものならわかるだろ。
ブロットが溜まり私はオーバーブロットを引き起こした。
止められる人もおらずオーバーブロットを起こした私は吸収されそのまま死んだのだ。
スカリーくんが居なくなって、死ぬまでの間の“ 私 ”の気持ちが痛いほど夢越しに流れてきた。
苦しかった。朝、目が覚めたときに枕を濡らすほどに。
彼は知っているのだろうか。“ 私 ”が死んだことを。
そもそも彼は“ 私 ”が愛したスカリーくんなのだろうか。
それが分からず何も切り出せない。
「ナマエおねーちゃん!スカリーおにーちゃん!そろそろハロウィンの用意始めよう!」
「そうですね。こうしてる間にも刻一刻とハロウィンは近づいています。急がなくては!いきますよナマエさん!」
「え、ちょっと!」
村の子供たちが呼びに来る。彼は嬉しそうに子供達の話を聞いて来るべきハロウィンの為に嬉々とした表情で私の腕を掴み走り出す。