「あ、ああああの南雲さん!お誕生日だと聞いて……これ、よかったら受け取ってください」
「わ〜ありがとう!」


ただでさえ美人な顔に朱色を足し少し色っぽさも加わった女性はこれまた顔の良い男、南雲先輩に引けも取らないほどのシンプルだけど大人っぽいラッピングをされた贈り物を差し出した。
にこにこといつもの笑顔を振りまきながら受け取り、お礼を告げられた女性は慌てて顔を上げ、いえ、こちらこそ受け取ってくださってありがとうございます、と化粧もばっちりされてるのに柔らかい印象をあたえる目元…双眸には薄い水の膜が張り、泣くのをたえるかのように視線をそらしてひっきりなしに自分の髪を撫でたりつまんだりと触っている。

どれをとっても完璧な女性で、ふんだんに女性としての武器を使っている。私には足りないし持ち合わせてない武器を。
そっと目をそらし、話し込んでる二人を放置して足を動かし先へ進む。


「それじゃ僕はもう行くね」
「はい、お時間を取らせてしまいすみませんでした」


背後で別れの挨拶がかわされ、離したはずの距離もさすがと言うべきか男女の差であっという間に縮まり隣に再び人の気配。見なくてもわかる。視線は前に向けたまま隣の先輩に話しかける。


「良かったですねプレゼント」
「んーそうでもなかったり?」
「?」


てっきり自慢というか喜ぶものかと思ったのに、予想とは違い歯切れの悪い回答に首を傾げる。


「どういう意味ですか」
「知りたい?」


純粋な疑問を投げかけただけなのだが。
視線を向けて尋ねた相手はにやりと楽しげに口端を釣り上げ笑うので嫌な予感がした私は首を横に振り否を唱える。


「大丈夫です大丈夫です、知りたくないです。私このあと用事があるので、では」
「アハハ!もう少しまともな嘘つきなよ。このあとの用事って僕との任務じゃん」


口早に告げて逃げようとするも笑いながらついてくる足音と笑い声。


「いいですいいです、一人でこなすので」
「ふうん。僕に掠り傷一つもつけれないのに?」
「あなたは別格です、化物なので」
「ひどいな〜それが好きな男に言うセリフ?」


は?
今なんて?

耳から流れ込んだ言葉(音)は瞬時に脳の機能を止め思考を停止させた。
歩いてた足を止めたことに気付いた、南雲先輩は少し先で立ち止まり楽しそうに嬉しそうにこちらを見て弧を描き。


「いいの?早く僕を君のものにしなくても。誰かに取られちゃうかもよ」


さらりと放たれた言葉に心臓がぐっと締め付けられ、冷水を浴びた気分になった。
何故バレたのか。いや この人だから私の言葉や行動で気づいた可能性もある。ぐるぐると忙しなく思考を止めず動き出す脳にいよいよ頭痛がする。

こめかみを押さえゆっくり息を吐き出す。
いつだって、この人の手のひらの上だ。いつだって私ばかりがこの人に振り回されて。


「そのまま……」
「うん?」
「そのまま先輩に返します。早くしないと、この前告白されたので色良い返事返しますよ」


こんな事を伝えてもこの目の前の男にはダメージなんてないだろう。わかってる、たくさん居る中でまだ話す方の後輩という立ち位置。出掛けたことも、物を送り合うこともしない。ただ任務の時に悪態をつきあったりするぐらいだ。
今回の私の戯言も「あっそ、物好きも居るもんだね」といつもの意地悪を言われるかはたまた別の何かか。どっちにしろ私にとっては心を痛める未来しか待ち受けてない。

自分勝手に想像して傷ついた心は素直で目頭が熱くなり、喉が引きつり始めた。悟られないようにぐっと堪え、こんな顔を見られないように先を一人で歩き出した。はずなのに、背後からぐっと捕まれ引かれた腕によって足は自然と歩みを止め何事かと振り向き驚愕した。


「いつ誰にされたの?僕の知ってる人?何勝手に目つけられて、ツバつけらてるのさ。そんな得体のしれない奴なんてゴミ箱にポイしてきな」


口元は笑っていても、紡がれる言葉に温度もなく、まるまるとした黒曜石でさえふざけた色もいつものひょうひょうとした色も削ぎ落とされ深海を映すようにただ真っ黒で恐怖を感じた。
カラカラと乾き始めた喉を、ゴクリと唾を飲み込み乾く喉を潤そうとするが無意味に終わり、ひたすら私を見つめる瞳からは相変わらず色はないものの圧と殺気が含まれた。


「いや、得体の知れないって同じ殺連の━━」
「へぇー殺連なら簡単に探せるかな」


余計なこと言った気しかしないし、誘導自問に引っかかった気しかしない。と後悔しても後の祭りだ。

あいつかな、いやもしかしたらあいつかも…とぶつぶつボヤきながら私の腕を引き歩き始める南雲先輩に私は黙ってついていくことしか出来ない。けど心臓は期待という名の甘い音を立て脳は少女漫画みたくいい方向にしか思考が働かない。

これは、期待しても良いのかな?

ドキドキとはやまる心臓が苦しくて、掴まれてない腕で、おさまれと願いながら服の上から心臓あたりをぎゅっと握る。


「ナマエ」
「…はい」
「約束しよっか」
「約束、ですか?」
「そう、約束」


相変わらず腕は掴まれたままでどこに向かってるのか歩み続ける足はとめず、文脈もなく紡ぎ出された提案に首を傾げる。
約束って何を約束させられるんだろ。と少しの期待と相手はあの南雲先輩だ何を言われるかわからないと言う恐怖に、なんですか?と訊いた声は自分でもわかるほど堅くて緊張していた。
それは先輩にも伝わり、「嫌だな〜そんな身構えないでよ」と喉を震わせ笑いながらここでようやく足を止めて振り向き私を見つめる。さっきまでの恐怖の色はなく私の大好きな先輩の瞳で。


「これからは僕以外に懐かない」
「…え、」
「僕以外にものを貰わない」
「あの……」


淡々と語られる“ 約束 ”は理解し難く、どうにも自分の都合のいい夢を見ているとしか思えなくて頭が混乱する。
とめたくても先輩は止まらず、さらに口を開き続ける。


「時間が許す限りは僕の側にいること」
「僕以外を見ないで」
「僕で頭をいっぱいにして」




「それから、君の将来…君の生涯僕にちょうだい」
「…!!」


これ何ていう恋愛ドラマ?こんなことが現実にあってもいいの?
次々に先輩の口から零された甘くて幸せな約束。まるで子供の頃に何度も読んで憧れた絵本のお姫様のようで…胸がぎゅっと締め付けられて息がうまく吸えない。泣きそうだ。


「約束、出来る?」


目頭が熱くなり、優しく微笑む先輩の顔をちゃんと見て頷きたいのに視界は勝手にぼやけ始めそれが鬱陶しくて乱暴に腕で擦ろうとすればやんわりと制される。


「ふふ。泣いてるのー?ダメだよ…泣くのはまだ許してあげない」
「いつならいいんですか?」
「うーん、そうだな」


視線を斜め上へ向け、思案する仕草を見せれば少しして何かを思いついたのかにこっと顔をほころばせ私の目元に優しく指を這わせ、ゆっくりとその端正な顔を近づけて


「僕に抱かれてる時と、結婚式本番なら許してあげる」と囁いたあと柔らかくて温かい何かが優しく私の唇に重なった。

戻る