強くなるために

強くならなきゃ、四季も自分も守れるぐらいに。そう掲げて決めた覚悟は今呆気なく壊れようとしていた


「ナマエ!やめろ!!」
「ウア…!アアア……ッ!!」


血蝕解放を初めて行った。出来ると思った。出来るはずだった。なのに、


「アアアアア!!!」
「ナマエ!!!」


制御も出来ずたちまち呑まれ始めた私は手当り次第に攻撃を仕掛けた。守ると誓った大切な人にさえも。
身体が痛い。辛い。苦しい。まだ残る理性があるせいで止めたくても止められない歯がゆさと必死に私を止めようとする四季が “ 私 ” によって傷つけられていく姿に心がぎゅっと締め付けられて、いっそう殺して欲しいとさえ思った。

ごめんね、四季……ごめんなさい。


「ナマエ!!諦めるな!絶対ェ助けてやるから!」


(!四季………)


暴走をしてもなお、私の耳は四季の声を鮮明に拾う。
大好きな大好きな四季の声。

四季………。
ふと心が軽くなり、痛かったはずの身体もスッと痛みが消えたことに安堵していれば、先生の声に混じった大好きな声を最後にゆっくりと意識が遠のき暗闇に沈む。





「……ん、」

次に目を覚ましたの最近になってようやく見慣れ始めた寮部屋だった。
夢?とも思ったが腕や足に巻かれた包帯も、動かせば軋む身体も、倦怠感も、頭痛もすべてが物語っていた……───夢じゃないと。

理解した瞬間押し寄せてきたのは血蝕解放なんて出来るものだと簡単に見てた後悔と四季を傷つけた罪悪感。
そして弱い自分への遺憾であり惨めさだった。

「……ッ」

後悔も罪悪感も情けなさも一気に襲いかかり、弱った心と疲れた体には毒で、涙と言う一番嫌いなものに変わろうとしていた。痛む体を無理にお越し、目からそれらが溢れないように必死に耐えベッドから降りる。
きっと四季が来る。優しい人だ……傷ついたとしても私が無事ならそれでいいなんて言って笑うんだろう。

例え彼に許されたとしても今回の事は私自身が一番許せない。許してはいけない。
もう四季の側にいる資格さえ………。


「………早く出よ」


そこまで考えた弱い私が生み出した思考はいったん頭の隅へ追いやり、今はとにかく四季に会わないようにしなければ。会わせる顔がない。この学園にいる限り会わないなんて無理だろうけど、だけど私のこの気持ちの整理が出来るまでは四季から離れたかった。

壁に立て掛けられていた松葉杖はきっと私がいつ起きてもいいようにも用意されたものだろう。ありがたく拝借しゆっくりゆっくりと扉へ向かいドアノブを捻る。


「お。もう起きたのか?」
「し、き?」


捻って開けた扉の向こうにはすでに四季が立っていた。
私の姿を見るなりにっといつもの安心する私の大好きな笑みを浮かべ「ほら、これ。腹減ってね?」と食べやすいようにおにぎりや水入りのペットボトルなどが入れられた袋を掲げる。


「あ、うん……えっと、」


予想外の展開に頭がついていかずうまい言葉が出てこなくて言葉に詰まる。
ありがとう。もらうね、と言えばいいのに。
まだ身体辛いからもう少し寝るね、と帰らせればいいのに。どれも音に鳴らず喉の奥へ消えていくのはきっと私を見る四季の目が笑っていないせいだ。


「………四季、あの……」
「中入るけどいいか?」
「……うん、」


合わせる顔なんてなかったはずなのに。
罪悪感も後悔も嘘ではないのに。
あぁ、嫌だな……四季の顔を見たらほっとしたなんて。嬉しいなんて。こんなの四季に嫌われる。

ごちゃごちゃ考える頭は少しずつ痛み出し、顔に出てたのか四季は優しく手を握り私をベッドまでエスコートしてくれた。


「大丈夫か?」
「……うん、ありがとう」


松葉杖は壁に立て掛け、コケる事なく四季の支えのおかげでベッドに腰掛け四季は私の足元にいわゆるヤンキー座りをして下から私の顔を見上げるからそっと視線を反らした。
少しの気まずさが二人の間に流れる。もしかしたら私だけが気まずく思ってるだけかもしれない。

なんと切り出そうか。まずは謝罪して、それから……───イヤだけど、別れ話した方がいいのかな。


「ナマエ」
「、なに?」
「お前俺のこと避ける気だっただろ」


ドクンと大きく心臓が脈をうち、背中がひんやりと冷たくなる。キーンと耳鳴りがする。


「やっぱそうだよな」
「………ッ」


何を言わなくても私の行動や態度で察したのだろう。
首裏を掻いて項垂れる彼がこの部屋に来た時からうまい言い訳が思いつかない。さっきも今も。

どうしよう、どうしよう…なんて言えば。

ぐるぐると思考を巡らせワードを探すも今の私の頭では不可能で。それがもどかしくて嫌になる。


「……理由は昨日のことか?」
「……ッなんで、」


なんでわかったの?そう問い掛けるために紡いだ言葉は途中で切れたが四季は顔をほころばせ、当然だ!と笑った。


「当然?」
「…あー……俺がお前の彼氏?だからわかんだよ、好きな女の子が何に悩んで、どうしようとするのか」


ハズいから忘れろ!やっぱ忘れんな!と大声を上げ照れ隠しをする顔に赤色が足されたのを、私はじっと眺める。
脳がじわじわと四季の言葉を理解し始めて、一気に体の体温が上がり頬に熱が集まるのを感じる。
きっと四季と同じかそれ以上に赤いだろう。

だって私の様子を見て四季は照れた様子から愛しそうに二つの瞳を細めて、「顔真っ赤だな」と笑ったんだから。

彼はどこまでも優しくて温かい人。


「……四季、」
「なに?」
「ごめ、んね……傷つけてごめ、」


ぽろぽろと勝手に溢れる涙を見られないように心の準備なんて出来てなかったのに四季を見たら自然と零れた謝罪の
言葉。嗚咽をもらしながら何度もごめん…ごめんね、ごめんなさい……と告げる私を四季は優しく抱きしめて、背中を優しく撫でてくれた。


「もう謝んなって。俺は謝罪よりもお前がこうして生きててくれただけで安心したっつーか、……守れて、よかった」


私の肩口に顔を埋めそう囁く四季の身体が少しばかり震えていた。泣いているのか、はたまた私を失うと思ったのか。四季もきっと怖かったのだろう…

男らしくて鍛えられた少し分厚い背中に腕を回し胸元に顔を埋めれば嗅ぎなれた四季の匂いが鼻孔をくすぐる。


「四季、私もっと強くなるね…」
「………」

ぎゅっと抱きしめる腕に力が込められる。
四季は私に戦うのをやめろとは言わない。私を心配しながらも大切に思ってくれながらも自分の意志を押し付ける人じゃない。私の覚悟を知ってるからこそ想いを知ってるからこそ私のやりたいようにやらせてくれる。

本当にできた彼氏様だ。私にはもったいないけど誰にもこのポジションを明け渡してあげるつもりもない。


「ナマエ、俺は……」
「わかってるよ。四季の想いは。心配かけてごめんね。だけど四季がいるから大丈夫だよ。もう無理はしない。二人で強くなろうね」


弱々しく囁く四季の言葉を遮り私の思いを告げる。すると四季は表情こそ見えないが小さくふ、と笑い「たりめーだ。絶対ェ強くなるぞ二人で」と強い意志を込めた返答に私は大きく頷く。

きっと大丈夫。四季と二人なら。もう負けない。弱い自分にも。……だからそこで見てて、弱い私。これからは君が驚くぐらい強くなってみせるから。

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