赦してくれ

合格を言い渡されたあと。
 親父の事や無陀野(こいつ)の事や今オレが居る場所などの説明やらで忘れていたが今絶対にしないといけない事を思い出した。



「あのさ少しだけ電話したいんだけど…」

 
 少し前を歩く無陀野に声を掛ければゆるりと振り返るその表情はどこか無表情に見えながらも面倒くさそうにも見えた(気がする…)


「どこにだ」
「ど、どこにって……べ、別にどこでもいいだろ!」
「………まぁいい。好きにしろ。ただしこの島の事や学園の事。俺がお前にした説明諸々は他言無用だ、いいな」
「ハイハイわかってますよーだ」


 適当に返事を返しながらも内心は焦っていてスマホをうまく操作が出来ず何度も誤タップを繰り返す。


(クソ……早く電話してやらねーときっと今頃…!繋がった………!)

 
 何度目の誤タップの末ようやく目当ての相手に発信ができた。頼む出てくれ…と心で願いながら耳に当てる機会から聞こえる呼び出し音。三回目が鳴り終わり、〖もしもし、四季!?〗と慌てた様子で、だけれど何処か不安げな色を潜ませた求めてた声の主が出た事にホッと胸を撫で下ろした。


「よーナマエ」
〖よーじゃないよ!今どこにいるの!?〗
「……ッ…今か?えー、と」

 
 聞かれた問になんと返そうか視線を彷徨わせながら答えあぐねる。何を言えばいい。無陀野に言われた事は話せない話せる範囲をぐるぐると思考を巡らせている途中で耳に届いた声にドクリと胸が嫌な音を立てた。


〖気づいたら退学になってるし、文句言いに行こうとしたら…家が、お店が…ぐちゃぐちゃで半壊してて………〗
「……………ぁ………………」
〖四季は?おじさんは大丈夫なの?無事なの?〗


 オレや親父の安否を確認する声は水に濡れていて震えてるし、必死に隠そうとしてるつもりだろうがぐずぐずと鼻を啜る音も耳が拾っていた。

 “ おじさんは大丈夫なの? ” その言葉に無意識に拳をぎゅっと強く握りられていたらしく血が指の隙間を縫ってポタポタと垂れていた。
 一瞬で思い起こされる記憶。自分が無力だと知らしめられた時間。夢であってくれと願った親父の─────。


〖四季…………?〗
「あ、いやなんでもねーよ!あはは!」
〖………四季〗
「オレは大丈夫!怪我もなくピンピンしてるぜ!」
〖……ホント?〗
「なんだよ、疑ってんのか?」


 少しわざとらしかっただろうかと思ったが拗ねたようにブーブーと文句を垂れれば電話の向こうで小さく笑う声がした。


〖ふふ。疑ってないよ。そっか…無事なら良かった。おじさんも?〗
「おやじ、は………ッ」
〖…………?やっぱり怪我してるの?大丈夫?私向かおうか?どこの病院?〗
「いやいや!いいって…!オレついてるし……心配いらねーよ」

 
 どの口が言ってんだ。心配いらねーなんて。
 情けねー。喉がひりついて鼻の奥が痛ぇ……。じんわりと熱くなる両目を片手で覆い尽くし上を向く。
 泣くな……耐えろ……せめてナマエの前では…。


〖…よかった。四季がついてるなら安心だね〗


 よかった、と何度もオレを信頼して呟かれる言葉に胸が血塗れになる感覚がした。ごめん……ごめんな……と込上がりそうになる決して口に出せない謝罪を何度も喉奥へと追いやる。


〖それで、四季はいつ戻ってくるの?〗
「それが悪い……しばらく帰れそうにないんだわ」
〖………どうして?〗
「ちょっとな……」


 もっとガッコー行っときゃ良かったとこの時ほど後悔したことはない。頭が良けりゃうまい言い訳もいくつも思い浮かんでナマエを不安にさせずに済んだのに。


〖やっぱりなにかあるの?〗
「………なにもねーよ。なにもねーけど、ひとつだけ頼み聞いてくんね?」
〖頼み?〗
「おう」


 勝手なオレで悪い。赦してくれ。


「オレが帰るの待ってて欲しいんだわ」
〖四季の帰りを?〗
「おう!いつもみてーに待ってて欲しい」


 おかえり!って笑うお前の顔と声が好きだから。


〖変な四季。そんなの頼まれなくてもいつもしてるのに〗
「バッカ…!そーじゃなくて!」
〖………?〗
「……あー……」


 スゥー、ハァー……と深呼吸して緊張する気持ちを鎮める。恥ずいからとかまた後でとかはない。今思ってる事を伝えないともう一生伝えられない瞬間が来るなんて後悔は二度としたくなかった。



「お前にもその気があんなら、他に男とか作らず待ってて欲しい」
〖─────〗
「別に強制って訳じゃねーから自分で選べ」
〖─────〗
「……って、オレは…思っていまして……」


 流れる沈黙に少しずつ気不味くなりはじめ、言ったことを早速後悔し始めていた。まだ早かったか?いや…でも今言わなかったら絶対無理だしな…!ごちゃごちゃ考える頭はすでにパンク寸前で。叫び出しそうになる。


〖…………───〗
「…………え、わりー。聞こえなかった?」
〖四季もその気があるなら、ちゃんと戻ってきて〗
「お前意味わかって───」
〖私の一生を捧げるんだから、よそ見したら赦さない〗
「─────へ?」
〖………ッ必ず戻ってきてね。………約束だから〗
「お、おう………また電話する」
〖待ってるね。身体大事にしてね…〗


 ぷつりと切れたスマホからはツーツーと無情な機械音だけが響いていた。いや、それよりもアイツなんて言った……?


「良かったじゃないか。その青臭いものが実って。」
「うわああああ!いつから聞いてたの!?盗み聞きすんなよハズいだろ!!つかやっぱあれ両思いだよな!?」
「知らん」
「やべー!!まさかナマエも同じだったとか!夢じゃねーよな!?ハッ……いやひょっとして夢だったのかも……」
「時間をくった。用が済んだのならさっさと行くぞ」


 わなわなと震えるオレに冷めた目で見下ろし先を歩もうとする無陀野に慌ててついていくがオレの頭の中はさっきまでのやり取りがリピートされ集中力が散漫していた。だからだろう。いつの間にか止まっていた無陀野の背中に衝突した。絶対ぇ避けられたはずのに……!


「なんで急に止まんだよ!」
「………なんで言わなかった。父親が死んだ事」


 カッと地面を蹴るローラーの音が響き無表情にこちらを見る視線に頭に過る一つの光景を遮るように目を伏せた。


「アイツが…ナマエが泣くから」
「……?」

 
 思い出されるのは幼少期の記憶。戦隊モノに憧れるオレはしょっちゅう怪我をしてはナマエに泣かれていた。
 ナマエは泣き虫ってわけじゃね。オレや親父に何かあれば自分の事のように泣く奴だった。
 昔からナマエの泣いてる姿を見たくなくて泣かせないようにしてきた。それでも避けられないものはあって。


「前までは側にいて慰めてやれたけど、今はオレいねーし…その役割っつーの?他の野郎に任せたくねーんだよな」
「だからと言って先延ばしてもいい事なんてないぞ」
「分かってる、そんな事は。分かってんだけど………願いたくなるんだよ。一日でも多くアイツには笑ってて欲しいんだ」
「………そうか」


 無陀野は何を思ったのか見間違いか?と思うほどほんの一瞬、表情が陰り多くは語らずひとことそう呟くと背中を向けた。オレも話せた事で改めて覚悟を決められた。二度と大切な者を奪わせないためにももっと強くなって、桃の奴らをぶっ飛ばしてやる!

 ごめんな、ナマエ。嘘ついて……ちゃんと帰ったら嘘ついたぶんも償うから。

 親父………。守れなくてごめん。オレもっと強くなるから。だから…見守っててくれ。親父の、一ノ瀬剛志の自慢の息子だって胸を張って生きていくからよ!

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