ズルい人
「そこに居たら邪魔ですバカ師匠!」
「それは君の方だバカ弟子!」
二人のコンビネーション(?)によって怪獣は撃破され討伐は終わって一安心…
のはずなのに。心がそわそわと落ち着かず、お腹のあたりが煮え滾るのはきっと。
「今回はボクの方が倒した数が多いな」
「何言ってるんですか?私の方が四体多いですよ」
「フン。何を言う。ボクの方が君より五体多い」
「師匠こそ何言ってるんです私の方が…─────」
通信機越しに聞こえる競い合い。誰しもがまたやってると流せる中で私一人だけがいつも周りとは違う気持ちで二人のやり取りを聞いていた。ぐつぐつと黒い炎が胸とお腹の辺りを燃やす不快感。
別に付き合ってるとか鳴海隊長がキコルちゃんをそういう目で見てるとかは思わない。鳴海隊長を信じてるから……告げてくれる不器用ながらでもしっかりと込められた隊長の想いを。
恥ずかしいのか「好き」と言う言葉は使わず彼なりの言い方で伝えてくれる。私はそれが聞くのが好きだ。
だけど、分かっていても頭が理解しても心がそれを拒んで醜い嫉妬心を抱いてしまう。彼にも内緒の私の黒い気持ち。絶対気づかれてはいけない。隠し通せ。と自分の中でルールを決めていた。だけど今日はなぜか少しの悪戯心と好奇心が決めたルールを破ろうとしている。
周りを巻き込むなんてよくないけど、鳴海隊長にも妬いてほしいわがままと、自分ばかりが隊長を好きな気がすると普段は感じない虚しいこの心を誤魔化すように私は近くにいる異性の隊員に声を掛けることにした。
疲れたね〜このあと基地に戻ったらご飯一緒に食べない?なんてありきたりな周りにもバレない作戦を実行に移す
「ナマエ」
「!……なるみ、たいちょ」
前にゾッとするような冷たい音で名前を呼ばれ振り向けば、少し離れた場所から普段は隠された二つの目が鋭く射抜くように私を見ていた。普段とは違う姿とピリッとした空気に彼が怒ってるのだと一目でわかる。
なんで怒ってるのか分からずただじっと動きを止め、一歩一歩と私に近づいてくる隊長を見つめる。ドクドクと緊張とは違う鼓動の速さで息がうまく吸えず浅い呼吸ばかりを繰り返す私の目の前まで距離を詰められ立ち止まった。
周りも普段と違う鳴海隊長の雰囲気に気づき、ざわざわと小声で周りと言葉をかわしている。
「……なるみ、たい」
「ナマエ」
「…は、い…」
そっと持ち上げられた右手は私の左頬に添えられ、横髪を耳にかけるように撫で付けるその指先が、手のひらが、手の動き一つ一つがまるで他を見る事は許さない、自分だけを見ろと意識を向けさせるように動かされているようで。
細胞の一つまでもが鳴海隊長を意識してさっきとは違う緊張が走る。
「言わなくても分かっているな」
「………はい、」
「普段ボクが君に言ってる言葉を復唱してみろ」
囁くように告げられた命令にも似た言葉に、周りに他の人が居るから言えませんと拒否をすることは許されずどうか周りに聞こえていないことを願って重たい口を開いた。
「………っ、「君はボクの一部だ。一部だからこそ離れる事も他を見る事も、ボクを一番に考えない事も許さない」」
一言一句違えず夜の二人きりでの空間で必ず告げられる彼なりの想い。何度も聞いた愛の言葉。
言い切った事に満足をしたのか満悦に微笑み、口元を緩めた隊長はゆっくりと離れて私に背を向ける。
「分かっているなら今回は目をつぶってやる」
「なに、を?」
「……君が一番分かっているだろ」
背を向けたまま少し振り向いた目はゆたりと細められ、冷たさと妖しげな色を含んでいた。
気づかれていたんだ。私が隊長を妬かせようとしたことも、異性に声を掛けようとしたことも。この人は全部分かっていたんだ。
「ごめんなさい、」
「別にいいさ。君はボク以外好きになれないだろうし、それに──ボクが逃がすと思うのか?」
「!」
次はないからな。と一言告げ長谷川副隊長のもとへ向かう背中に声をかけるところか私は立ち竦むしか出来なかった。きっと熱に浮かされたように真っ赤に染まった頬にも気づかれているんだろう。本当にズルい人だ…