幼馴染とサイカイする
(死ネタです。夢主が死ぬ描写があります。)
あれはボクが防衛隊になって間もない頃だ。
「ナマエ!おい、しっかりしろ……!」
「げ、ん……く、」
意識は朦朧としながらも言葉を紡ぐナマエの身体は下半身がすべて見るに耐えない現状になっていた。
頭からも出血が酷く、誰が見てももう……。
そんな現実を受け入れたくなく優しく背中に手を回してお越し、自身に寄り掛からせ必死にコイツを繋ぎ止める。
「喋るな!すぐに救護係が来る。それまで、」
「…いい、の……」
「なにがいいんだ」
「わかってる、の……自分、でも…もう、」
「うるさい!黙れ!それ以上言ったら本気で怒るぞ」
声を荒げ馬鹿げたことを言うナマエに怒ってみても、いやだな…怒られたくないや、と力なく笑うだけで。喋る合間合間にも聞こえてくるヒューヒューと音。嫌な音。
早く来い、まだか!焦る気持ちを持っていても仕方ない。抱えて連れて行くことも可能だ。だけど本当にそれが正解なのかと脳が問いかけるが考えてる暇なんてない。コイツだけは死なせない、死なせたくない。
「げ、んく……」
「喋るなと言っただろ。抱き上げるぞ、なるべく痛くないようにす、」
抱き上げようとした腕を制された、普段のナマエとは知らない温もりで。そのなれない感触に、温度にぞっと背中から何かが這い上がる。
「いい、……から、…」
「よくない、なにもよくないだろ!なんで君はいつもボクの言うとおりに動いてくれないんだ!」
いつもそうだった。出会った時から放っておけと言っても何も気にしない顔で横に座りキラキラとした目でゲーム機を覗き込み。一人で出歩くなと言ったはずなのに、深夜に目が覚めてトイレに向かえばパジャマではなく私服姿で部屋に入ろうとしていて。そういった事が何度も何度もあった。
「頼む、今だけは言うとおりにしてくれ、」
かっこ悪くて最悪だ。コイツの前ではつねにカッコつけていたいのに。いたかったのに。
困った顔で眉尻を下げボクを見つめる目は申し訳なさそうに、心配そうな表情で口をひらいた。
「……ごめ、ね?…でも、」
弦くん、足怪我してるでしょう?と。
「は、……なん、で?」
なんでバレた?何もないふりを装っていたのに、なんで?
ボクにしては珍しく脚をやった。だが動けないほどでも、ナマエを運べないほどでもない。と言いたいのに言葉は喉でつっかえて出てこずそんなボクを無視するようにナマエは言葉を続ける。
「そりゃ、わかるよ、……ずっ、と見てた、から……」
弦くん、弦くん…好き、だよ。
普段のときの明るくて元気な声の時とは違う。か細くて、小さめでうまく聞き取れない。
ナマエはボクによく見せていた表情でゆっくりと瞼を閉じた。
「おい!目を開けてくれ!ナマエ…!頼む、……頼むから……逝かないでくれ、連れていかないでくれ、神様……」
「………」
先程よりも冷たくなりはじめたナマエの身体を力いっぱい抱き締めれば、鼻孔をくすぐった匂いはいつも愛用していたシャンプーやボディソープの匂いではなくて土埃と血の匂いだった。
救護係が現着するまで抱きしめ続けた幼馴染は最期の瞬間をボクの腕の中で幕を閉じた。
◇
今日もボクの手持ちの武器(ゲーム)からは多種多様な軽快な音が流れ出す。
このゲームは昨日買ったばかりの新作だ。少しばかりボクには簡単すぎたが縛りプレイをすれば多少は難易度があがり楽しめる。
「師匠!今日こそ稽古を」
「ダメだ。見て分からんかね?ボクは今非常に忙しい」
「ただゲームをしてるだけでは?」
そのゲームで忙しいというのにまったく、このバカ弟子は。呆れた目で見ているだろうがボクにはそんなもの痛くも痒くもない。
「はぁ……。知りませんよそんな余裕で。明日には師匠なんて追い抜いてやりますから」
「ハッ。寝言は寝てから言って、」
もらおうか。と言う言葉は途切れた。けたたましく鳴り響く警鐘によって。
「怪獣か」
「すぐ行きましょう」
小走りで出撃準備に向かう四ノ宮の背中を見つめ、腰を持ち上げた。
オペレーターの指示通りの場所へ向かい群がる幼獣の討伐を始める。報告ではフォルティチュード8.0未満の怪獣が何体か現れてるらしい。
他の方面はバカ弟子や怪獣8号、優秀な部下達に任せるとして。
「……どこにいるんだ。」
討伐しても討伐しても現れない怪獣。くまなくあたりを見回し少しずつ場所を移動していた。
弦くん。
「は?」
幻聴?いや、確かに呼ばれた。アイツの声で。
勢い良く声のした方へ振り向けばそこには─────
「なんで……君がいる、」
ボクの腕の中で生涯を閉じたはずの幼馴染だった。
その姿は死ぬ時とは違い、ボクがよく知ってる姿で立っている。
なんで。生きている。どうして。確かにアイツは死んだはず……なら目の前にいるコイツは
「弦くん」
「近づくな」
いつもボクに駆け寄る時の笑顔で、声で1歩一歩歩幅を縮めるナマエらしき人物。
使いなれた武器の切っ先を目の前のやつに向ける。
「どウしテソンなひどイコとするノ?ワたしタち、おサナなじミでショ?」
「黙れ。お前は何者だ、なんでその姿だ。答えろ!」
ボクに怒られたときや、テストで赤点を取ったとき、ゲームで負けたとき、一人、また一人と施設を出ていく仲間がいたとき、……家族の夢を見たときのような悲しげな表情で語る『ソイツ』に虫唾が走る。
お前が騙るなアイツを。ボクとアイツの関係を!貶すな!!
殺意も怒りも湧いてくるが、なぜかそれを行動に移せずポーズばかりになってしまう。
動け、『アイツ』はナマエじゃない。もうナマエはいない!わかってるはずだろ!
心が叫んでも脳はそれを拒否する。クソ、情けない。姿が同じだけじゃないか。中身は今まで散々討伐してきた怪獣だろ!しっかりしろ鳴海弦
「ねェ、弦くん」
「!……ぐあっ!」
気づいたら至近距離まで近づいていた『ソイツ』の攻撃によってとっさの事でギリガードは間に合ったが体が後方へ吹き飛ばされた。
「アハハハは!コれがサいきョ?」
腹を抱えて笑う『ソイツ』にブチッとキレそうになるが、姿のせいでそれ以上を踏み出せない。
「ほラ、こうゲきしナいとしんジャウよ?」
ナマエの声で喋り方で攻撃を続ける『ソイツ』に、ガードをして避けながら対策を考える。
クソ、いい気になりやがって。
「ふぅ……こんな姿、見せられないな」
「ホんトニ、やりカエさなイつモリ?」
ガードをして避けてガードをして避けてを繰り返していくが力を増す『ソイツ』の重い一撃があたり意識が朦朧とする。地面に座り込み、ふらつく身体とチカチカと点滅しだす視界。重い身体。瞼が自然と閉じる。
弦くん。
あぁ、幻聴まで聞こえだしたか。
弦くん。
ナマエ?
ゆっくり瞼を開けばそこは戦っていた場所とは違い白い何もない空間に、
「ナマエ」
ボクの顔を覗き込む見慣れた顔。
「どうして君が」
今の弦くんかっこ悪い
「はぁアア!?ボクのどこがかっこ悪いって!?」
勢い良く身体を起こし猛抗議したら、落ち着いてと再び寝ていた場所───ナマエの膝の上へ戻された。
「な、ななな、なにをして…」
弦くん。
「なんだ?」
私はもう居ないの。
「あぁ、そうだな」
みなまで言わなくても知っているさ。
私最期ね弦くんに会えて嬉しかったよ
「………」
弦くんにとっては嫌な最期になったかもだけど、伝えたいこと伝えられて会えないと思ってた好きな人に会えて、抱きしめられて…嬉しかった、幸せだった
「ナマエ」
弦くん。弦くん。大好きだよ
「っ、」
大丈夫だから。あの怪獣を倒しても君の中からも、この世界からも私がいた事実は消えない。ずっと君の心の中に居るよ、だから
「もう言わなくていい」
泣きそうな顔で話し続けるナマエの口をそっと掌で塞ぐ。変だな、夢の中だというのに手に伝う君の涙はいつでも暖かい
「ちゃんと討伐するさ。君を弄ぶ悪趣味な野郎は」
できそう?
「フッ。誰に言ってるボクだぞ」
ゆっくりと体を起こし今までなかった空間にさす光の方へ体を向ける。
「ナマエ」
はい。
「そこでしっかり目に焼き付けろ。ボク様の姿を」
うん!行ってらっしゃい弦くん
紡がれた言葉と同時に背中を優しく温かい手で押された。
「あぁ、行ってくる。」
そして、さようならだ。
◇
「っ、」
「あレ?マだいキてる?」
「お前みたいな雑魚にやられるボクじゃない。それに、」
約束したからな。討伐すると。
「今度はボクの番だ」
通信機越しにオペレーターに解放戦力の指示を出す。上がり続ける戦力を感じながら今度は迷いなく『ソイツ』に剣で斬りかかる。
「ナンで、きゅウニ…!」
少し前のボクみたいに避け続ける『ソイツ』は驚きの声をあげる。
「当然だ。ボクには、ボクだけの勝利の女神がついているからな!」
背後に周り、核がありそうな場所をひたすら斬り続ける。戦力の上がったボクについてこれない『ソイツ』は逃げに徹するが精一杯の様子だがついに本命(核)が顕になっる。
討伐するならいまだ。
銃口を向け核を狙う。
「イやよ、マけるワけにハ………は?」
『ソイツ』がボクに向けて一か八かの攻撃をしようとするが急に動かず立ち止まっている。
「なンデ!ドうしテ!」
「言っただろ。ボクには勝利の女神がついていると」
「いやぁあゝあ」
核に向け銃をぶっ放せば破壊される核と、そして散らばる『ソイツ』の肉片に横たわる身体。
何故かいつもの怪獣みたいに爆発して消えない。
不思議に思い近づけば『ソイツ』は笑っていた。
ナマエがよくしていた笑顔で。
「あり、がと、弦くん…」
「ナマエ?」
「好き、だよ……弦くん」
死ぬ直前のナマエと同じ言葉を繰り返す『ソイツ』の側に座り、あの時のナマエと同じように背中に腕を回して起こし自身に寄り掛からせる。
「げん、く……」
「あぁ」
「げんくん……」
「無理に話すな。もう休め、疲れただろ」
その言葉は『ソイツ』に向けてかけた言葉なのか、あの時ナマエに伝えられなかった言葉だったのか。
だけど『ソイツ』はそれでも嬉しそうに愛しそうにボクを見つめる。身体は砂のようにボクの掌からさらさらと零れ落ちて行く。
「………ありがと、だいすき」
言い終えたのかボクの腕の中から完全に消えた。
あの時と同じでもあの時ほどの辛さと悲しさがないのはきっと……。
◇
あの怪獣との出会いはちょうどナマエの命日の一週間前のことだ。
ナマエの命日は休日を取り足を運ぶようにしている。よっぽどのことがない限り、朝早くから起きて日が暮れるまで側にいる。
だけど、それも今日で終わりにしよう。
アイツが“ 大丈夫 ”だと言ったんだ。
「ボクにはわかる。君がボクを見ていたようにボクも君を見ていたからな」
大丈夫にはたくさんの意味が込められていた。それはボクにしかわからない君の本音。
風が吹き、ボクの髪と供えた君の好きな花を揺らす。
じっと彼女が眠る場所を見つめ、息を一つ。伝えられなかった気持ちを打ち明けるために。
「………ボクも好きだ。これからもずっと。ボクがそっちに逝くまで他の男を好きになる事は許さんからな!ちゃんと待っていろ」
うん!ちゃんと待ってるから、弦くんはゆっくりこっちに来てね。
より一層強く吹いた風に紛れアイツの声が聞こえた。