あなたに置いて行かれた日
あなたの恋人としてモブ(♂)が出てきます。
名前は「木辻(もくず)」固定。
こうなる事はどこかでわかっていたんです
あなたは分かりやすくて分かりにくい
本心を見せてるようでその実隠すのがとても上手な人
きっとあなたが崇拝する『神様』以外あなたの本心なんて見れないのかもしれない
それでも良かったんです。ただ側にいて、一分でも過ごす時間があれば充分だったんです。
蔑ろにされようとも、
『彼女』なんて位置につけなくとも。
惚れた弱みなんでしょうね
ああ。恋は本当に厄介で疲れるのに、それさえも悪くないと思えるほどあなたを愛していたんです
なのに───
「どうして…、置いていったんですか。やまとくん」
◇
一つしか変わらないのにいつだって“お兄さん”ぶるあなたが好きで嫌いだった、なんて言ったらきっと楽しげに笑うんでしょうね
私と会うと必ず甘やかすし、少しでも気になるものがあってあれが気になると口に出せばすぐに買ってくれた
『ナマエ、ほら限定の香水だってよ。つけてみろよ。おっ。お前にあってんな、プレゼントしてやるよ』
『なに。あれが欲しいのか?お前には少し早えよ。お、こっちのほうがシンプルでお前に似合ってるぜ』
『髪伸びたな。ちょっと待ってろ────ン、これでいいか。それシュシュって言うんだろ?やっぱオレの見立ては間違ってなかったな』
『服の色、そっちにしろよ。で、これと組み合わせて着てみろ』
気づいたら上から下まであなたのプレゼント(もの)で染め上げられていた私が完成していた
嬉しかったんです、すごく。大好きなあなたからのプレゼントだったから
記念日でも恋人でもないのに物を贈られる度に申し訳なくて、断ったこともあった
でもあなたは『いいからいいから』と笑いながら一つ、一つ私に飾り付けていく
あまりにも甘やかされるからいつの間にか『棪堂の女』なんて言われるしまつ
周りの人達が囁く度に心が浮き足たって、今なら空さえ飛べるかもなんて馬鹿げたことを何度も思いました。本当に黒歴史です
あなたが否定をしないからなおさら、期待したんです。嬉しかったんです
ある日突然、音もなく幸せな日常は壊れた
最初は歩けば必ずと言っていいほど出会すあなたと会えなくなった
その時は忙しいからかなと思った
違和感を感じだしたのは一日に二、多くて三はしてた連絡が一週間途絶えた
もしかしたら怪我をしてるのかも
まさか体調を崩してるんじゃ。いろんな可能性を考えて返事がなくても一日に一回は必ずメッセージを送ったんです
○月✕日
午後19︰39【やまとくん。お元気ですか?体調を崩してませんか】
──
○月△日
午前7︰26【やまとくん、おはようございます。今日は雨降るらしいですよ、傘は忘れずに】
──
○月□日
午後14︰15【やまとくん?もしかして何かあったんですか?】
──
○月○日
午前0時【やまとくん……。大丈夫ですか?】
┃
┃
┃
━━メッセージを送信できません━━
(え?)
とうとうあなたとの繋がりが消えた
何度も何度も送っても
━━メッセージを送信できません━━
━━メッセージを送信できません━━
━━メッセージを送信できません━━
━━メッセージを送信
━━メッセ
どうして。
なんでですか
✕月✕日
午後✕✕✕【やまとくん、会いたい】
━━メッセージを送信できません━━
◇
あなたが消えて二年が経ちました
この二年でいろいろな変化がありました
けど私だけが過去に囚われいまだにあなたのことを忘れられずにいる
あなた以上に心を惹かれる人がいない、けどいつまでも過去に囚われてはいけない
前に進めない
「ミョウジさん、疲れた?大丈夫?」
「うん。大丈夫、ありがとう」
あなたとは違うタトゥーもなければガラも悪くなく、ケンカとは無縁の人。同じクラスの人。
向かい合って座り、私達を隔てる机のうえには注文した料理
学校終わりに寄ったこの店はあなたが教えてくれた、私の好きそうなものがあるからと探して連れてきてくれた場所
偶然目の前の彼も同じ理由で連れてきてくれた
「ねえ、どう?美味しい、かな」
「すごく美味しい!連れてきてくれてありがとう」
最低だな私。知らないふりをして、いい顔をする
彼はほっ、と安堵の表情を浮かべ「うん!美味しいね」と言いながら自分が注文した料理を口に運ぶ
目の前の彼は悪くない、何も悪くないけど…どうしてもやまとくんとの違いを探してしまっている。『恋人』なのに
◇
「本当に美味しかったね、また来ような」
「木辻くん。いっぱい食べてたね」
「そりゃ部活終わりだからな〜腹が減ってどーーしようもなかったんだよ」
とても暖かくて幸せで、とても苦しい
手を繋ぎ、家までの道を歩く
部活の話、授業の話、次のデートの話、そして───
「なあ」
「ん?なに?」
「忘れられてる?」
「………」
「好きなヤツのこと」
やまとくんの話。
歩みを止めて真剣な顔で見つめられたら、
“ 忘れられてるよ、今は君だけが──── ”なんて嘘が言えない
「……………」
「はあぁ〜やっぱまだ無理かぁ、そりゃそうだよな」
無言を肯定と取ったのか、困った顔で笑う君に申し訳なる
「ごめ───」
「ああ!違う違う、謝ってほしいんじゃなくてさ…それをわかったうえで付き合ってくれって言ったの俺だし、ミョウジさんは悪くねぇよ」
「………木辻くん、」
「心配すんな。ちゃんと忘れさせて俺を好きにさせてみせるから。だから、そんな顔するなよ」
そんな顔?
どんな顔してるんだろ
「ほらさっさと帰るぞ」
優しく手を握って歩く君には感謝しかない
大丈夫。忘れられる、この人を愛せる
♪〜♪〜
ピタッ
「どうした?」
「……………」
「ミョウジさん?顔色悪いけど、どうした?」
「……木辻、く、」
♪〜♪〜
息が浅くなる、
胸が苦しい
頭が回らない
そんなはずないのに
鳴り響く音は私が昔特定の相手に設定していた音楽
もちろん私の携帯からではない
去年、いい加減いつか来るかもしれないと期待して待つのをやめる為携帯を一新した
早鐘を打つ胸をおさえ、足を止めた横の路地裏に目を向ける
暗い、暗い、闇一色の場所。音はそこから鳴っている
「お。ようやく気づいたか。浮気者」
「な、んで………」
「ミョウジさん、あいつ誰」
「あ゙?お前こそ誰だよ、名字でも気軽にソイツの名前呼ぶな。ぶち殺すぞ」
ドスの利いた低音、威圧感、殺気、雰囲気。あなたを形作るものすべてが恐ろしくて怖いのに懐かしい
「…っ、い、行こうミョウジさん。アイツ絶対ヤバイ奴だ」
「え、でも……」
「いいから!行くぞ!」
「あ〜〜うぜぇな。────オレの女に気安く触んな」
何度も触る事を許された癖っ気の髪をぐしゃぐしゃと苛立ちげに片手で掻き乱し、私の腕を握る彼の腕を捻り、この二年の空白が何事もなかったようにあなたは昔のように私に触れる
「やまと、くん…」
「ナマエ。かなり待たせたな、イイコにしてた───わけねぇよな。お仕置きはあとでじっくりするとして」
準備は整った。迎えに来たぜオヒメサマ、もちろん拒否権はねぇからな?賢い選択をしろよ
ひひっとあなたらしい笑みを浮かべ、まるで食べるように私の唇に噛み付いた
本当に酷い人です
何を思って離れたのか
何を思って戻ってきたのか
何を思って“ オレの女 ”なんて言ったのか
何を思って、考えて、動いてるのかあなたのことは相変わらず何一つとしてわからない
ようやくあなたの次に愛せると思えたのに
ようやくあなたを忘れる覚悟が出来たのに
ようやく前に進められたのに
あなたはいろんな私の覚悟なんていともかんたんに砕いて粉々にする
「んじゃ、そろそろ行くか…焚石が待ってる。おいお前、今までオレの代わりにコイツのお守り助かったわ。これからは安心していいぜ、お前の分までナマエを生涯愛して幸せにしてやるから」