『私の世界は君色に染まる』

───ねぇ、ナマエってさ何考えてるかわからないよね
───わかる。みんなにいい顔してさ、結局誰の味方?って感じ
───明らか媚び売ってるのまるわかりでキモくない?

(………ああ、こう思われていたのか。うすうすは気づいていたけど…)

友達だと思っていた。それが今ではただなんとなく一緒にいるだけ

放課後になったらカラオケに行ったり、買い食いをしたり、ファミレスで愚痴を溢しながら日が暮れるまで喋ったり、些細なことでもあの頃は本当に楽しかったのに、

すべてがかわった。

いつものように放課後は集まって遊ぶ予定たったが、友達の一人が用事があるとかで先に帰った
しかたなく私と友人二人でいつもの通い慣れたファミレス行くことにした

『てかさ、あいつ最近調子乗ってない?』
『(え?)』
『ああ、わかる。今日持ってたリップも彼氏に買ってもらったとか?私が欲しいって言ってたの知ってて買ってもらうとかさ』

いきなり始まったのは今日来れなかった子への悪口

そういえばこの前の時もあいつのさ。
それを言ったらあの時のあいつの言葉が。

徐々にヒートアップしていく会話についていけず固まる

なに、今なんの話ししてるの。なんで急に…?

『ナマエはどう思う?』
『な、なにが?』
『やっぱウザいと思うよね?』

これなんて答えるのが正解なの?
この二人のことも大切で、ここに居ないあの子の事も大切だ。でも……

『うざ、くはないと思うよ…』
『は?』
『だってリップにしても彼氏さんに買ってもらったものなんでしょ?あのブランドは私達の間でも結構人気あるし憧れてる子も多いから…持ってても不思議じゃないと思う………』
『………………………』
『………わ、私はね!そう思うんだけど、』
『はぁ……』
『え、な、なに?』
『お前さ』

マジ空気読めないわ。

(……あ………。)

吐かれた言葉はぐさりと私の心を刺した
何も言えず黙り込む私を友人二人は冷めた目で見て、席から立ち上がった

『ダル……』
『なんか萎えた』
『もう帰ろうか』
『そうだね』

二人だけで話を進めている間も身体は動かず座ったまま帰る後ろ姿を眺める



次の日、学校行くのも億劫だったがこんな事で休めない
荷物を用意して、制服に腕を通して家を出る

こんなに登校が憂鬱になったのはいつぶりだろ
学校までの道を歩いていると、見慣れた後ろ姿を見つけた

『…蓮…………』

いつものようにヘッドフォンをしている。学校に向かっているのか、朝の見回りか。
声をかけてもいいけど、特に話題はないし見回りなら申し訳ない

(でも少しだけ…元気をもらいたいな……)

少しずつあく距離を縮めるように足を踏み出せば、追いかけようとしてた背中は止まり、なんの前触れもなく彼がこちらを向いた

『あ…………』
『…………』

じー、っと見つめられどうしようか悩む
実際目はあってる(?)が私じゃなく別の何かを見てる可能性もある

立ち止まり思い悩んでいれば、どんどん近づいてくる彼にぎょっと驚く
なんかすごい形相なんたけど…怒ってる?

目の前まで来た彼はヘッドフォンを外した

『お、おはよう蓮』
『ああ。……何してた』
『なにって?』
『じっと見てただろ』

やっぱり目があってたのは私なのか

『蓮が見えたから、声かけようかなって思ってたんだけど見回りだったら申し訳ないなって悩んでたところ』
『別に声かけりゃいいだろ』
『いや、そうなんだけど………』

口ごもる私にため息を吐き

『…用がないなら行くぞ』

再びヘッドフォンをして歩き出した

(蓮にもため息を吐かれちゃった)

普段なら気にしないが昨日のあれが相当堪えてるのかもしれない
ズキ ズキ と胸が痛む。



気持ちを落ち着かせてようやくついた時には予鈴が鳴るギリギリだった
慌てて教室に入れば、友人三人が集まって話をしていた

(どうしよう、声かけてもいいのかな)

いつもなら”おはよう”と言って駆け寄るけれどそれが出来そうにない
自分の席に座ろうとしたら、

『あ!ナマエ遅いじゃん!』
『いつもの時間に来ないから今日は休みかと思った!』
『何かあったの?』

なに。
なんで。そんないつも通りなの?

『ご、ごめ……ちょっと寝坊しちゃって』
『ええ〜珍しいね』
『昨日眠れなかったとか?』
『あ、はは…そんなところ…』

笑いたいのに、会話をしたいのに、これでいいのか?と疑心暗鬼になってぎこちなくなる

ちゃんと笑えてる?



それから何も変わらない日々が続いた
いや、友人達は変わらない。私だけが変わった

あの時のことが怖くて、あんな態度取られるのが怖くて聞かれる言葉には友人達の望んでる言葉を返した

友達ってなんだっけ。話すってなんだっけ。
こんなに苦しいものだっけ
日に日に疑問ばかりが浮かぶ“ 日 常 ”をひたすら繰り返していく

そんな日々を繰り返していくうちに少しずつ集まりにも呼ばれなくなった
連絡もなくなった

『ね、ねぇ…今日の放課後さ──────』
『あぁ、私パス』
『私も』
『私も用事あるしごめんね〜』

信じたくなくて、さりげなく誘ってみても明らかに嘘だとわかる言葉で断られる

『あ、ううん。大丈夫だよ、こっちこそ急に誘ってごめんね』

何かが壊れる音がした


放課後、まだ教室に残り何かを話してる三人を横目に私は声を掛けずそのまま教室を出る

部活に向かう人、友人達と遊びに行く人、恋人とデートをする人。様々な人であふれる廊下をひとりで歩く私

少し前までは私もそんな人たちの一人だった。なのに今の私は独り。笑えてくる


校門を出てしばらく歩いていると、今日宿題で使うはずの教科書を忘れてきた事に気づく

(やっちゃった。戻らないと…………戻りたくないな……)

まだいるかもしれないし、いないかもしれない
もし居たときすごく気まずい

(でも宿題できない方がヤバイよな…)

頭の中で二つを天秤にかけたとき明らか気まずいのは宿題の方だと思い、覚悟を決めて来た道を戻った





「………はぁ……」
公園のベンチに座り空を仰ぐ

涙も出ない。ここで泣けたらまだ楽だったのに

教科書を取りに戻り、聞いてしまった“ もと ”友人達の本音
わかってはいたのに突きつけられた現実に何も言えなかった

私は弱いから、向けられた目が怖くて立ち向かう勇気がなかった。逃げた結果がこれだ

「あぁ、………明日から行きたくないな……」
「どこにだ」
「!」

ぽつりと漏れたひとりごとに聞き慣れた声で返される
目線を夕焼け空から、鋭さを持つ青い色に向ける

「蓮………」
「女一人でなにしてる。襲われても知らねぇぞ」
「……学校帰りなの、まだ家に帰りたくなくて」

なぜか蓮の目が見れず逸らせば、ガッと顔を両手で掴まれ目を、顔を合わせられる

「何があった。話せ」
「なにもないよ、大丈夫……」
「…っいいから話せってんだろ!!」

笑って誤魔化せば、とても怒った様子の蓮に急に大声を出されびくりと肩が跳ねる

「れ…ん……っ…」

じっと見つめられればそらせない目線。
ぽつり、ぽつりと話した。

私のしてきた事を。

話してる間蓮は相槌も打たずずっと黙って聞いてくれていた

「そりゃお前が悪い」
「っ、わかってる……」

蓮にまで言われたらもう駄目だった
出なかった涙が決壊したように次から次へと溢れる

「わ、わたしが全部悪いの……なんてわかってる…もう少しうまく隠せてれば、よかった……」

制服の袖で流れる涙を拭いていればその腕を捕まれた

「あんま擦んな、傷つく」
「…………」

私の鞄からハンカチを取り、優しく目元に当てられる

「ありがとう、蓮」
「………」
「……はぁ、明日からはどんな顔して会えばいいんだろう」
「別に会わなくてもいいだろ」
「え?」

会わなくていい、蓮は確かにそう言った

「お前はそいつらがダチの悪口を言った時点で離れるべきだった。それをダラダラ関わるからこうなんだろうが」
「え、れ、蓮さん……?」
「だいたいな面と向かって言えないヤツにろくなヤツなんざいねーんだよ」

そんなヤツらをダチに選んだてめーが悪い

「でも最初は本当にすごくいい子たちだったんだよ?」
「…そいつらのどこを見てそう思った」
「どこって。……一人の私に声をかけてくれて、遊びにも誘ってくれて……」
「はぁ……。そんなヤツが優しいならナンパなんざするクソヤローどもも優しいことになるぞ」
「……………………」

どうしよう、何も言えない

「明日」
「え、」
「不安なら一緒に行ってやる」
「い、いいよ別に!蓮だってボウフウリンの仕事もあるんだし…」
「…その“ボウフウリン”の仕事だろうが。あとそいつらに何かされたらすぐ言え、ぶっ飛ばしてやる」

言ってることは恐ろしいけど
蓮の優しさに自然と笑みが溢れる

「ありがとう。……蓮は優しいね」
「……………………」
「え、なにもう一回言って…ねぇ蓮────!」

小さな声で呟かれた言葉を聞き逃したくなくて
もう一度聞きたくてお願いをすればなぜか大音量で音楽が流れてるヘッドフォンをつけられた

私の世界はヘッドフォンから流れる音楽と視界いっぱいになった蓮の顔しか映さなくなった

「大事だから守ってやるだけだ。いい加減気づけ、鈍感」