キタナイ私に気づかないで
夢を見るの。私だけだった君がたくさんの人に囲まれて、愛される夢を。
誰も見向きもせず見た目だけで判断して周りは離れていく。君のことを知ろうともせず。
照れ屋なところ。素直なところ。私がドジをすれば困ったように笑うところ。まだ夕日が沈みかけてないのに絡まれないよう手を繋いで家まで送ってくれるところ。─────自分のそばにいたら私も周りから嫌われる、傷つけられると思って何度も手を振り払うところ。私だけが知っていた。傷ついた分誰よりも優しいところ。知って欲しいと同時に知られたくないと思った。この優越感を手放せなかった。手放したくなかった。汚い私は君の周りから離れていく『他人(ひと)』にほっとしたし、『他人(ひと)』に傷つけられる君を見て何も言えなかった。いや、言わなかったのが正しかったのかもしれない。“私”だけの“君”で居て欲しかったから。
だからこれは罰なのかもしれない。私は君を傷つけた『他人』の一人と変わらない。新しい場所で、新しい土地で出会った『他人(ひと)』。彼らによって暴かれていく君の素顔。私でさえも知らないたくさんの君。
彼らは今まで関わってきた『他人』とは違う。どんな君でも受け入れて、手を差し伸べて君に“普通”を“暖かさ”を教えてくれる私とは違う人達。少しずつ周りと関わることに恐怖心なんて薄れてきた君は自分からも手を差し伸べるようになった。君の周りが暖かいお日様に囲まれてるのを見て嬉しくもあり、とても苦しくて悲しい。
私だけの君じゃなくなっていった。いつか見た夢が現実になった。
さらさらと私の手の平から砂のように落ちていく。私のもとに『君』はいない
今日もたくさんの人に囲まれて、揶揄われて、ふざけあって、頼られて過ごす君。
ヒーローなんて一番君から遠くてらしくないはずなのに一番君らしい
そんな存在になった君のそばに私はいれない。
だからこれで“さよなら”だよ
「バイバイ、桜くん」
━━━━━━
「おい」
「…!…さくら、くん?」
なんで、どうして。
さっきまでお日様のように暖かい『他人』達と話してたのに、私になんて気づかないと思ってたのに。
どうして追いかけてくるの。
「帰るんだろ?送る」
「いいよ、まだ明るいしひとりで帰れるよ」
「あ?明るくても危ねぇだろ。いいから行くぞ」
そう言って私の腕を優しく握り歩き出す君。
ああ、だめだ…思考が黒く塗りつぶされる。君に触れられて嬉しいはずなのに、汚い私のせいで綺麗な君を汚しそうで嫌だ
君は本当に綺麗な人だと言ったら照れて吃りながら「は、はあ!?な、何言ってんだ!そんな訳ねぇだろ」って言うんだろうな。少し悲しげな顔で
「なぁ。」
「、…なに?」
「……」
「?桜くん?」
呼ばれたっきり言葉を紡がない君の前に行って大好きな黄色と黒のビー玉を埋め込んだ瞳を顔を覗き込む
「!」
ああ、覗きこまなきゃよかった
どこか怒った色で、鋭さを持つ目で見つめ返された
この目を見るとほっとすると同時に自分も君の嫌いな『他人』だと気づかれてるみたいで心臓がぎゅってなる
「さくら、く……」
「なあ。逃げられると思ったのか」
「え、な、なに?」
「オレから逃げるつもりだったんだろ?離れるつもりだったんだろ?」
少しずつ、少しずつ語尾を強めながら問われる
「ま、って…」
「お前も『他人(あいつら)』と同じように離れていくつもりか?オレを捨てんのか」
「……」
「とっくに気づいてた。お前が今のオレをよく思ってないこと。ずっと泣きそうな、傷ついた顔してたもんな」
気づかれていた。
私の醜い感情を、知られたくなかったものを。
「今のオレにはオレ自身が戸惑ってる。でも、意外と悪くねぇとも思ってる」
「…うん、」
知ってるよ。変わっていく君自身に戸惑って歯痒くなってるのは君自身だってことも。
「…知らねぇ感情ばかりで、どうしたらいいか分からなくて胸を掻きむしりたくなる。まるでオレがオレじゃなくなる気がする時もある。────でもな、」
「っ、!」
腕を強く引き寄せられ近距離で見つめるビー玉のような瞳、そこに映る女は泣きそうな、寂しようななんとも言えないブサイクな顔をしていたが、それ以上に君が傷ついたような、怒ったような、複雑な顔をしていたから私はどうしたらいいか分からなくて口を噤んで君の言葉に耳を傾ける
「お前が感じてるオレの変化はそれは周りへ対する変化だろ?お前自身への思いは何一つ変わってねぇよ」
「?…私自身への思い?」
私から君への思いじゃなくて?
「その様子じゃ気づいてなかっただろ」
優しく細められたビー玉や柔らかい声音にこれは聞いてはいけないと頭の中で警鐘が鳴る
「ずっとオレだけのお前でいて優越感に浸ってたのはオレの方だ」
「っ、」
息をのんだ。嘘、だって君は私と違って人を傷つけるのが得意で苦手な人だ
そんな訳─────
「オレのそばにいたら周りがお前を傷つけるのは知ってる。お前を一人にするのもな。手放せることはいつでも出来たはずだ。それをしなかったのはオレ自身だ」
「………」
「手を振り払っても、冷たい言葉を吐いてもお前だけはそばにいた。そんなお前に依存して側に居続けたのはオレだ。───本当は高校なんて行かずずっとオレの目の届く範囲でいてほしい。他の奴らに見せたくないし、触れさせたくもない」
お前にはオレだけがいればいいだろ
それは甘く、体中を縛る鎖
「いいか?こうして手を握るのも、お前に触れるのもオレだけにしろ」
「もし。もしも、他に許したら?」
それはちょっとした好奇心からきたもの。
君は少し考える素振りを見せ、そして笑ってみせた
「そんなもん許すわけねぇだろ。そいつらは後でボコ殴りだな、二度とお前に触れられないようにしてやる」
「ふふ、」
「わ、笑うな!いいか!絶対約束しろよ!破ったら、っておい!聞け!」