付き合い始めた桜と一つずつゆっくりと積み重ねていく

(そろそろ寝たかな…)

そっと閉じてた瞼を開き、隣に眠る温もりに視線を向ける
おやすみ、と毎回照れ臭そうに口にする君とこのシングルの敷布団に二人並んで寝るのはもう何回目になるだろう
大人でなくてもまだ成長期の男女二人が寝るには狭すぎる
最初は並んで寝るのを憚った君は私を敷布団で寝かせて自分は少し離れた場所で、風鈴の制服を布団代わりにして寝ていた
いくら一緒に寝ようと言っても、代わると行っても、うっ……るせぇ!布団で寝るのに飽きたから今日は床で寝たい気分なんだよ、と理由にもなってない理由を述べさっさと寝てしまった
狭いと分かってるから、私が寒くないように、風邪を引かないようにと譲ってくれたんだろうがそんな優しさはいらない
でもきっと言っても聞いてくれないだろうし、下手したら布団に押し付けられて無理矢理寝かせられるだろうからその日は諦めて、桜くんの好意に甘えおやすみと呟いて横になった



二回目の時も同じように私に敷布団を譲った。
その時の言い訳が確か…ケンカの傷が敷布団に擦れて痛いからとかだったと思う
畳の方が痛いと思うんだけどなぁ……と出かかった言葉をぐっと飲み込み、背中を向けて眠る君にその日も諦めて横になった




三回目の時。その日は雨が降っていて少しひんやりとした夜だった
いつものように理由をつけて私に敷布団を譲ろうとした君の手を『まって!』と呼び止め握れば、まるで驚いた猫のように身体をびくつかせ数歩後ろに飛び退いた
まさかそこまで驚かれるとは思わなくて少し傷ついたけど、多分慣れてないからだろう
『他人』にケンカ以外でこうして触れられるのを。
全部を聞けたわけじゃない、知った訳じゃないけど見てれば何かがあったのかは少しだけ想像がつく。
だから焦らずゆっくり、君に合わせて距離を縮めていこうと君を好きになったときに誓った。
それは付き合ってからも変わらない私自身に誓った誓いだ。
だったはずなのに…

(いきなり手を握るのは失敗だったかな…)

いくら呼び止める行為だったとはいえ先程のことを思い出せば後悔が押し寄せる
ゆっくり息を吐き、握った手を離した。

─────はずなのに、離れた指先から先程まで感じていたぬくもりを再び感じ、

「…え、」

視線をぬくもりに向ければ彼の指先が私の指先を弱い力で握っているではないか
その様子は小さい子が迷子にならないように、先生や親の指を握るような仕草と似ていた

驚きすぎて固まっていると、この空気に堪えられなかったのか、あ〜…と何をどう言えばいいのか言葉を探してる素振りを見せたかと思えば、ぬくもりの正体だけを映してた視界に黒と白の髪とビー玉のような山吹色と暗めの紺色で埋め尽くされる

少しいつもと違うのは、目立つ色の違う双眸も白と黒の髪にも負けないぐらい、耳と顔が真っ赤になってるということ

「……なにか言いたいことあんだろ」

少し唇を尖らせ照れた様子で尋ねられた言葉に小さく頷く

「……なんだよ」

ずっと言えなかった言葉を言うなら今だと思った私は、誤解をされないように、君が気を遣わないように言葉を選び思いを口にする

「一緒に寝たいと思って…」

「は、はあ!?な、何言って…!つかそれは、あれだ…」

「わかってる。君は優しいから私のことを気にかけてくれてるんだよね?」

「べ、別にそういうわけじゃ…。いつも言ってるだろ、理由」

「うん。でも、でもね……私も桜くんのこと大事なんだよ」

「…………」

どうか、どうか届いてほしい。
君が思ってくれてるように私も思ってることを……君が大事なことを。

「桜くんが風邪を引かない様にって、寒くないようにって気を遣ってくれるように…私も桜くんには風邪を引いてほしくないし、寒い思いをして寝てほしくない」

「ナマエ……」

「は、恥ずかしいなら背中合わせで寝る事もできるし……それに、……ううん、…なにより私が君と一緒に寝たいの」

「……………………」

恥ずかしい。心臓がドキドキしすぎて痛い
でも君には伝えるにはそんなの全部捨てて、まっすぐに見つめて伝えないときっと伝わらない

「……〜〜〜っ!」

数十分、もしかしたら数分かもしれない。見つめあっていれば湯気が出そうなほど真っ赤になった彼が口をパクパクと開けては閉じてを繰り返していた
きっとなんと言葉にすればいいのかわからないのかもしれない

でも焦らず彼の中で彼の気持ちが言葉になるまで待つ

「……っ、…絶対狭いぞ、いいのか?」

「うん。狭かったらぎゅってして寝たらいいよ」

「ば、馬鹿じゃねえのか!そ、それってあれだろ、抱き合って…寝るっつーことだろ!」

「あ!で、でも背中合わせで寝る事もできるよ!うん、背中合わせで寝よ」

許されたことが嬉しくて思わず欲望を、願望を口にしてしまった
慌てて別の提案も出しても口から出た言葉は消せない
落ち着け、困らせるな…ゆっくり、ゆっくり君に合わせて──────

「……で、いい……」

「っ、え、ごめん…聞いてなかった。もう一回言ってもらえる?」

「…だから……その、あーーー!くそっ」

夜だというのに大声を上げ白と黒の髪をぐしゃぐしゃと掻き乱した彼は、恥ずかしそうに私の肩にトンっと顔を埋めた

「………し、仕方ねえから抱き合って、寝ても…いい」

「……!!…い、いいの?無理してない?」

「してねえ!!」

「ほ、ほんとのほんとうに?」

「う、るっせ!!もう一回聞いたらやめるからな!」

「ご、ごめん。………ありがとう」

「おら、さっさと来い!寝るぞ!!」

先に敷布団の中に入れば端によって、私が入りやすいように布団をめくってくれた
ああ、泣きそうだ…これだけの事で泣いたらきっと君を困らせるんだろうな

ぐっと涙を堪えて小走りで近づき彼の横にそっと身体を横たわらせば背中に腕が周りぎゅっと抱きしめられる

「おやすみ桜くん」

「……おやすみ」

ああ、幸せだ





それからと言うもの、泊まりに来た日は一緒に寝るようになった
むしろ彼から眠くなると敷布団に呼ばれる。生理で匂いが気になる時は、生理と言いたくなくて体調が悪いとやんわり断っていたら毎月の事なので不審がった彼に理由を聞かれ、やんわりと伝えた
あの時の彼はこれまた真っ赤になって謝ってきたけど、生理の症状とか腹痛に苦しめられてるのを目にすることがあり、
『そういう時こそ頼れ、一緒に寝るぞ』
と言ってくれ寝る時は腰やお腹を擦ってくれる
申し訳無さもありながらも鬱なはずのその日が彼のおかげて少しだけ穏やかになれる



懐かしい思い出に浸りながら今日も変わらず私を抱きしめて眠る君を見つめる
ケンカしてる時や、クラスメイト、風鈴の先輩方、商店街の人たちといる時とはちがう幼い寝顔。私だけの特権。

日に日に好きが強くなって苦しくなる
二人だけの世界になればいいのにと思うのに、『他人』と関わる君を見てるのも嫌いじゃないから困る

──────いや、困るな。

忘れてたはずなのに脳裏に過ぎったのは昼間の事だ。



    

学校が昼間でで、のんびりと商店街を彷徨いていた時のこと。

“  人を傷つける者・物を壊す者・悪意を持ち込む者、
何人も例外なくボウフウリンが粛正する!!  ”

商店街でいれば聞き馴染みのある口上が響いた。
しかもそれは彼の声で。
彼もすっかり“ボウフウリン”らしくなったな、と自分の事のように嬉しくなり、好きだなと再確認する。
学校も違うから会えるのは夜になる。声を聞いてしまえば会いたくなるのは自然な事だから許してほしい
見回りの途中だから少しだけ、姿を見るだけと声のする方へ向かった


足元には倒れる人、人、その周りにはやはり彼と彼の友達の姿がある 
──────知らない女の子の姿も。

女の子は何度も何度も頭を下げてお礼を伝えていた。おそらく絡まれていたところ彼らが助けたんだろう

その光景を見るのは少なくない。私もたまに絡まれるから。だけど、いつもの事だとその場を離れられなかった。
だって。

「ほらほら桜くん、彼女がお礼したいって」
「べ、別にお前のためにしたわけじゃねえからお礼とか別に……」
「ええ〜桜ちゃん、鈍いなぁ」
「は、はぁ!?」

友達の言葉に慌てふためく姿に、助けられた女の子は頬を染めただじっと彼を見つめていた。私が彼を見つめる瞳と同じ視線で

やめてよ、見ないで。好きにならないで、その人は私の────!

腹の底がマグマのように煮え滾ると同時に、

優しいよね、好きになるのわかるよ。私もそうだったから
と彼を好きだと言う人が現れ嬉しくなり、女の子の気持ちにも頷けた

真逆の感情に心が乱され吐き気さえおこしそうになる
見てられなくて踵を返し来た道を戻る
近づかなきゃよかった、見なきゃよかった。苦しい苦しい苦しい────。
助けて桜くん

心の中で大好きな名前を呼んでも伝わるわけがなく来てくれるわけでもない

「最悪だ……。」

よりによって今日の夜は約束をしてある
彼と合う夜までにこのどろどろした気持ちをなんとかしないと。

約束の時間までまだあったから気晴らしにいろんな店を回って買い物をしたり買い食いをしたりしたけどその時は忘れても、ふとした時に思い出す

刻々と約束の時間が近づく。

何とか桜くんと会う頃には少し落ち着いていつものように振る舞えた
ご飯を食べて、蘇枋くん楡井くんの話も聞いて笑って、私の友達や学校の話をしていつものように過ごす

寝る時間になれば慣れたように、「ン」とだけ言って布団をめくってくれるから笑いながら隣に潜り込む
ぎゅっと身体を包む腕にようやく体の力が抜けた気がした

少しして

(そろそろ寝たかな…)

目を閉じじっとしてれば聞こえてくる寝息にそっと閉じてた瞼を開き、隣に眠る温もりに視線を向けて今に至る

彼は何も悪くない
そんなのはわかってる。
だけど、

「ねえ、どこにも行かないでね。ずっと隣りに居てくれる?」

君が居ないと息もできない
ご飯も美味しく感じない
好きなものをおいてるお店を回ってもね、何も楽しくないの。
君と過ごして、君と一緒に見るから意味があるんだよ?

君は?少しでも君の世界に私は必要?
怖くて聞けない言葉を音にせず静かに口の中で殺す

君には到底聞かせられないどろどろした思い(もの)
人を好きになるって怖いね。
最初はゆっくり君に合わせて距離を縮めていくって思ってたのに、
今は今すぐにでも君の首周りに噛み付いて痕を残したい、君の痕を残してほしい

「ごめんね」

小さく呟いた声は静寂の部屋に吸い込まれ消える
そっと首を伸ばし目の前の鎖骨に唇を優しく押し当てる

痕はつけない。つけれない。
これはただの“真似事”だ
本番はいつか出来たらいいな

「大好きだよ遥くん」

はじめて呼ぶ名前は本人を前にしたら呼べないから。これは私だけの秘密