桜の誕生日を祝う

「………」
「さっきから何にやにや見てんだ?」

不思議そうに呟かれた声とともに、視界の端に髪と瞳に二色ずつ違う君の“色”が映る

そ、と横目に視線を向ければ紺碧と鮮黄色の二色が横から身を乗り出し私の手の中にある物を覗き込んでいた

人と違う事を否定され拒絶された色は光のあたり具合で色を変え今もきらきらと宝石のように光っている。うっとりと二色のビー玉に目を奪われていると、最初は怪訝に細められていた双眸も徐々に見開かれ頬は上気していくではないか

それもそうだろう。

「お、お前…!それ、いつの間に……!」
「…ふふ、よく撮れてるでしょ?」

そう言って手の中にあるもの、スマホの画面に映し出されているそれに視線を向ける
映し出されてるのは、今横で赤面してる彼と同じように照れくささと嬉しさが混ざった顔でケーキを食べ仲間たちに祝われてる場面だ

誕生日パーティーが終わり少しが経つが今も目を閉じれば鮮明に思い出す、あの日のことを。


“ 桜さんの誕生日パーティーを風鈴でするのでぜひ来てください! ”


にれ君から送られてきたメッセージ。
4月1日は桜君の誕生日。もともと二人で会うつもりだったが、少しだけ…いつものメンバーや見回りしてる時とは別の、学校のクラスメイトといるただの“一年一組の生徒”としての彼がどんな風なのか気になった。
悩む間もなくすぐに“行く”とだけ送る。(あまりにも早い返信ににれ君が戸惑って本当にいいのか、二人で祝わなくてもいいのかと何度も確認してきた)


当日。学校まで迎えに来てくれた彼は『なんかお前を連れて来いって蘇枋や楡井の奴が…。ったく、なんなんだよ。どいつもこいつもどこか様子が変だしよ』
本当になにも聞かされてないのだろう
拗ねたような、訝しげな顔をして愚痴をこぼす彼に『そうなんだね、なんでだろう』と白々しく返しながら心の中で謝る。
日付が変わる前に、。

『きっと桜さんのことだから誕生日って気づいてないと思うんです。気づいてても多分どうでも良さそうと思ってそうといいますか……うまく言えないんですが。桜さんやナマエさんには申し訳ないですが放課後まで黙っててもらえないっスか?驚かせたくて』

とにれ君から。

彼はどこまで優しいんだろう。どこまで桜君を思ってくれてるだろう…
きっとこの誕生日パーティーもにれ君と蘇枋君が発案者なのかもしれない


『ついたぞ』
『うわぁ……』
近くでは見たことあるが足を踏み入れるのは初めてだ。少し緊張する
『…行くぞ』
『……うん』

校門をくぐり、玄関口から校舎に入る
中も外に負けず劣らず落書きの数がやばい

『すごいね落書き』
『そうか?』
『うん。でもこういう落書きってすごくセンスいいの多いよね』

などと話しながら階段を登り、屋上につくと桜君が扉を開く

『おい、ナマエつれてき、た────』

パン!パン!とあちらこちらから聞こえる破裂音に舞い上がる紙吹雪と一緒に、 

『『『『『桜(君)(さん)(ちゃん)!お誕生日おめでとう〜(ございます)!!!』』』』』
『は、……?』

聞こえた彼を祝うたくさんの声。
何が起こったのか、何を言われたのか理解が出来ず固まる彼の背中を押してみんなのもとに連れて行く

『やったー!成功ですね!』
『バレるんじゃないかってヒヤヒヤしたけど、その様子だと本当に気づいてなかったみたいだね』
『え、な……』
『はぁ〜い、主役の桜ちゃんはこっちこっち』

今度は桐生君に背中を押され、連れて行かれる様子を眺めていればいまだに理解出来ず困った顔で私を振り返る桜君に優しく微笑んで頷く

屋上のフェンスに貼り付けられている、『お誕生日おめでとう!』と大きく書かれた横断幕の前まで連れていかれた桜君は飲み物やら食べ物を持たされ、梅宮さんの『それじゃ桜の誕生日を祝してかんぱーーーい!!』と言う音頭に次々に湧き上がる『かんぱーーい!』の言葉にようやく理解が出来たらしい

慌てて立ち上がり梅宮さんや、蘇枋君たちに詰め寄る姿を遠目で見つめていれば桐生君に手招きされその場に近づく
真っ赤な顔でいつものように“優しさ”を素直に受け取れない君の側に立ち優しく手を握る
ビクリと跳ねた身体に少し笑い、大好きな色になった紺碧と鮮黄色の色を覗き込む

『驚いた?』
『〜〜〜っ!お前も知ってたのかよ!ああ驚いたよ!くそっ!!』
『ふふっ。……桜君』
『……なんだよ』
『お誕生日おめでとう』
『…サンキュ』


主役をほっとくなんてしない人達はかわりかわりに桜君のもとに訪れる

一年一組だけで祝うのかと思っていたが、梅宮さんや柊さんだけじゃなく二年の先輩達や四天王のみなさんに、ことはちゃんも駆けつけてくれて盛大な誕生日パーティーとなった
わいわい、ぎゃあぎゃあとたくさんの人たちに祝われ、囲まれてる桜君を少し離れたところから何枚もカメラに納める

見れてよかった。
私の前とはまた違う姿や、出会った時に比べ怯えてたような顔とも違う。ここが少しずつ彼の居場所になりつつあるのだろう、少し安心したような君らしくいる姿を見てたらこっちまで温かい気持ちになって泣きそうになった。
全部は聞いてないし、彼が言いたくなるまで聞くつもりもないが彼の言葉や行動、思考の端々から伝わる彼の過去に何があったのかを私なりに気づいてしまったから泣きそうになったのかもしれない

私達にとっての『普通』が彼にとっては『普通』じゃない。だから今も【おめでとう】とたくさん伝えられる度に「お、おう……」と照れるもどうしたらいいかわからず首の後ろに手を当て戸惑う姿に胸がきゅっと苦しくなった
大好きな人が生まれた日。
あなたはここに居ていいんだよと感じてほしい日。
生まれてきてくれてありがとう、出会ってくれてありがとうって伝える日。

私のエゴかもしれない。でもそう感じてほしくてたまらない
彼の周りから人が少なくなったら側に寄って私もたくさんのおめでとうを口にする

『おめでとう桜君』
『も、もう聞いたっての!』
『うん、でもたくさん言いたい。言わせて?』
『………はぁ、ったく。しょうがねぇな。』

ため息を吐きながらも困ったように笑い、何度伝えても言い足りないそれらを音にして君に届け続けた。



「ナマエ。おい、急に黙ってどうした?具合悪いのか?」

優しい声に意識が戻される。瞼を開いて映した景色はあの時の屋上ではなく、彼の部屋。
心配そうに覗く二色に笑いかけ首を横に振る

「大丈夫だよ。ただ思い出していたの」
「………あぁ、」
「すごく楽しかったね」
「あいつら騒ぎ過ぎなんだよ、オレより騒いでたじゃねぇか。まぁでも、べつに悪くはなかった…けどよ…。」

彼も思い出したのか、私のスマホに再び向けられた双眸はどこか穏やかで。

「……たまにはいいな、あーいうのも。…楽しかった」
「ね。来年もみんなで祝おうね」
「……だな。」

彼の肩に寄りかかれば、伝わる温もりに目を閉じる
どうかこれから先の未来も彼にたくさんの幸せが訪れますように