桜に構ってほしくてわがままを言う
ピコン ピコン ピコン ピコン
「………ぁ、…うぉ……ちょっ、まて……」
携帯の通知が鳴るたびに画面を開き、一生懸命文字を打つ君の姿を眺める
慣れてないのか、うまく打てないのか、文字を打ち切る前に新しく鳴る通知音に翻弄される君がおかしくて、愛しくて、笑みが漏れる。
級長になった
そう顔を赤らめながら、もごもご話す君にたいして驚かなかった
私は不良じゃないし、風鈴生でもないから『級長』がどういうものなのか、どういう重みがあるのかわからない
けど君がそんな顔で報告をするってことは“そういう”事なんだろう
『君が適任』なのだと。
その日を堺に君の周りはもっと賑やかになった
登校中、見回り、休日。そしてこうして二人で会う時間。
どこでも君の周りと、頭には『風鈴』の人たちがいる
現に今も学校が終わり、見回りが終わり、風鈴の制服を脱いで、ただの『桜遥』に戻っても君の周りは君を放っておいてはくれない
鳴り続ける通知音は(桜くんいわく)楡井くんが作った五人のグループチャット
真剣に向き合って必死にひとつひとつに返そうとする君を見れるなんて、彼らには感謝しかない
だけどね、
「あーーもう!なんでこいつらこんな早く送ってくんだよ!もう少しだけ待ってくれてもいいだろ、が───────」
トンッ。
「は・・・?」
ボウフウリン、級長、他にも私が知らないだけでいろんなものを背負ってる背中は前よりも大きくなったように思う
「え、おま…っ…なん、」
「桜くん」
「ぉ、おう……」
君の邪魔をするつもりなんてない
むしろ今の君を誇らしくも思う
もっともっと君を好きになる
だけど、だけどね…
「あまり放っておかれたら会う度にぎゅーーってして離さないからね」
「は、はあ!?」
私も構ってくれないと寂しく感じるんだよ
なんて恥ずかしくて言えないから出来もしないことをわざと口にする
「蘇枋くんたちの前でも抱きつくから」
「ば、!それはやめろ!」
身体の向きを変えたのがおでこをつけていた背中越しに伝わり、そっと顔をあげれば携帯と向き合ってた視線が私の方を向いていた。真っ赤になった顔と一緒に。
まさか自分がこんな面倒くさいことを思うタイプだとは思わなかった。これも君を好きになって知れた私の新しい一面なんだろう
「……つに、」
「ん?」
「別に会うたびじゃなくても、いいだろ……」
「……………」
「つーか!お前はオレの、その…あの、あれだ………かの、じょ………なん、だろ……」
「………………………」
「だったら、ナマエが…だき、……したくなったら言えばいいだろ。何遠慮してんだ」
ああ、そんなに真っ赤になって。首まで赤いよ
でもきっと私も君と同じぐらい赤いんだろう
だってまるで湯あたりしたいに、頭がくらくらして、心臓がバクバクして苦しい
「ン」
「…え、」
「ン!」
「桜、くん?」
「あ〜〜っじれってぇ!!いいからさっさと来い!」
「うわ、」
力強く、だけど痛くない力で腕を引っ張られば顔が薄く見えて実は少し厚い胸にくっつき、背中にはいつも町を守るために私とは違い少し硬い腕が周り抱きしめられる
君と特別な関係になってから私の好きな匂いになった君の香り。それを胸いっぱいに吸い込めば「嗅ぐな!」って怒られた
「……ふふ、ごめんね……」
「べつに………、オレがしたくてしてるだけだ」
「みんなに返事返さなくてもいいの?鳴ってるよ」
「……………」
片腕だけを離して、携帯を触ったと思えば裏返しにして机に置かれた。
「たいした用じゃねぇし、また明日も会うしその時に聞く。それより今はお前だろ、他にしたいことねぇのか?この際だから言いたいこと言え」
きっとこういう事に慣れてないはずなのに
私と向き合ってくれようとする君の優しさにわがままを言いたくなってしまう。言ってもいいのだろうか
「………こうして朝までぎゅってしててほしい」
「おう」
「それから、名前をたくさん呼んでほしい」
「な、名前??」
「うん、それから頭をなでてほしい」
「あ、え、?」
「それから──────」
「ま、まて!いっぺんに言うな!わかんなくなる!」
まずはなんだ、ぎ……朝までくっついて寝て、それから。
私の口にした望みを一つずつ繰り返し確認してくれる。君を好きになってよかった、出会えてよかった
「ま、まずは朝までく、くっついて寝るのは寝にくくねぇのか?」
「寝にくいだろうけど、私はそうして寝たい」
「うっ、わかった……あとは、何だ、名前か?呼べばいいのか?普段も呼んでるだろ」
「うん、でも聞きたい。私、桜くんに名前呼ばれるの好きなの」
「〜〜っ、そ、そうかよ。─────ナマエ」
「はい」
「っ、あとはあ、頭を撫でる?だったか?」
可哀想なことしたかな。
きっと桜くんは慣れないことでいっぱいいっぱいなのに全部に答えてくれようとしてくれてる
誰かと近い距離でいるの苦手なはずなのにそれを許してくれてる
誰かの名前を呼ぶことにも。
こうしてケンカ意外で触れる事にも。
おそるおそる髪に触れる手が、優しく優しく撫でる。壊れ物を扱うように
「ナマエ」
「なに?」
「………好きだ」
「私も好きだよ」
「お前も離れて行かないでくれ…、ずっとそばにいろ…」
少し触れられた気がした、君の弱い部分に
「ずっといるよ。桜くんのそばに……桜くんも置いて行かないでね」
「……ふ。バカか、誰が置いていくかよ。寝言は寝て言え」