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それは風の強い日だった。木々は枝が千切れそうなほど葉を散らし、外に弓矢を置けば転がって飛んでいってしまうほど強い風が吹いており、弓矢を扱う者達は的当ての鍛錬を控えていた。間違って味方に当たってはいけないというロイの判断によるものであった。
弓使いである名前も例外ではなく、大人しく愛用の弓を輸送隊に置いていき武器庫の整理を行っていた。
「何でこんなものがここに…!?もう、片付ける身にもなってよ…!」
はあっとため息を吐いて彼女が見つめる先にあるのは重なり合う武器と武器の間で見つかったお菓子の包み紙や血濡れの包帯など。廃棄するものはこっち、使えるものはこっち、と名前はぶつぶつと独り言を言いながら几帳面に仕分けを行っていた。
「お前は、確か…」
「ひっ!えっ、パーシバル…将軍?」
「…驚かせてすまなかった。余っている武器があるか見に来たのだが。お前がいつも整理しているのか?」
「い、いえ…今日は、風が強いので…弓使いの私は鍛錬が出来ず…」
こうして武器庫の整理に駆り出されているだけです、と名前は頭を掻いた。エトルリア王国の騎士軍将パーシバルのことは傭兵である名前ですら名前を知るほどの有名人で、こうして近くで姿を見られるなんてと彼女は恥ずかしがりながらも彼に渡せる槍を探していた。
「えっと、パーシバル将軍、どの槍が…」
「…私が探しているのものは剣だ。これを借りても良いだろうか」
「ああ…!すみません…!てっきり槍だとばかり…。私の早とちりが…」
あわあわと慌てて槍を片付けていると、パーシバルは槍の一つを手に取ってそれをまじまじと眺めていた。その槍は、と名前は彼の手を止めようとしたが時既に遅し、もはやパーシバルの手からそれを取り戻すことは出来なかった。
「よく磨かれているな。以前ここに入った時は使えそうもないものに見えたのだが…」
「ほ…本当ですか!?あっ…!」
「お前が磨いたのか。随分と丁寧な仕事をするのだな」
「と、とんでもないです…!誰が使うか分かりませんし、傭兵はいつ武器を手に入れられるか分からないのだから大切にしなさいと習ってきましたから…」
ははは…と名前が乾いた笑いを漏らすと、パーシバルの切れ長の瞳が彼女の姿を捉えるものだから名前は体が硬直するような思いがした。美しい金髪、背が高くて締まった体、鋭い瞳。エトルリア人とはいえ騎士と言うにはあまりに麗しすぎる、と名前は自分の考えに頷いた。
「傭兵なのか」
「はい…。まだまだ、ですけど…」
「そうか。エトルリアの騎士よりも随分と仕事が出来るようだな。私の部下達にも見せてやりたいほどだ」
「え、ええっ!?そんな、私なんて騎士様たちの足元にも及びませんよ…!」
ころころと変わる表情が不思議だ、とパーシバルは名前の様子を見ていた。驚いたり焦ったり照れたり、思えばこんなにも感情が目まぐるしく変わる人物と交流することはほとんどない、と彼は自分を取り巻く人々の姿を思い浮かべた。いつ何時も冷静でいるのも結構だが、こうして沢山の表情を見るのも悪くない、と彼は感じた。
仕分けられた武器の向こうに散らかる山は果てしなく、パーシバルは自らその手で武器庫の整理を始めた。
「パーシバル将軍がなさる仕事では…!」
「構わん。初心を思い出すためだ、気にするな」
「そんな…!気にします…!」
「これは傭兵の仕事なのか?お前とて違うだろう。この軍にいる以上、指揮官はあの少年だ」
ロイがこんな仕事をパーシバルにさせる訳はないと名前は分かっていたが、彼女以上に手際よく仕分け作業を行う彼を止めることも出来ず、大人しく2人で武器を磨いたり弦を張り直したりと手を動かしていった。
そういえばパーシバルの女性関係の噂を聞いたことがない、と名前はちらりと彼を見るも視線は目の前の剣に注がれており、彼女はその表情をぼうっと見つめていた。この騎士を夢中にさせる女性は一体どんなに素敵な人物なのだろうと考えていると顔を上げたパーシバルと目が合い、驚いた名前は手にしていた弓をひっくり返した。
「…何をそんなに驚いている」
「す、すみません…!つい、考え事をしていて…!」
「武器を触ってる時は危険だ。今までよく怪我をしなかったな」
「そう…ですよね、気を付けます…」
反省顔を見せる名前。彼女に長い耳があれば、きっとその耳はしゅんと折れているに違いない。彼女の一つ一つの行動で周りの空気が和やかになるのをパーシバルは感じた。
もう少し肩の力を抜いてください、とクレインに言われたのを思い出して彼は苦笑して彼女に向き直った。
「名前をまだ聞いていなかったな」
「あ…はい、私は名前です!」
「そうか、名前。お前には教わることがありそうだ」
「えっ…!な、何のことですか…?」
耳をぴんと立てて慌てるウサギのような名前を、パーシバルは少しだけ口元を緩めて見守っていた。
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