景色がぐらりと歪んだと思った次の瞬間、私は意識を失っていた。そして目覚めると隣には私のベッドの傍らの椅子に腰かけて眠っているヨシュアの姿が目に入った。
初めは自分の置かれている状況の理解に苦しんだが、段々と過去の記憶を遡るうちに、自分が倒れたのではないかという結論に至った。

またヨシュアに迷惑を掛けてしまったようだ。彼も慣れない王という仕事に追われているだろうに、何てことをしてしまったのだ。我ながら自己管理が出来ていないことを情けなく思った。

「平気か?」
「もしかして……私は倒れたのか?」
「ああ、根詰めすぎだ。だからあれほど休めって言っただろ」
「……すまない」

体を起こして項垂れている私の髪を梳きながら、いつもそう素直なら良いんだけどなとヨシュアは笑った。そして私の髪に触れる彼の手が止まったと思った時には、すっかり抱きしめられていた。

「なあ、名前」
「何だ?」
「俺は、母上のような統治は出来ない。するつもりもない。それでも付いてきてくれるか?」
「……何を今更…。イシュメア様の代わりなど、誰もいないだろう?ヨシュア……お前は自分のやり方で、この国を治めていけば良い」

するとヨシュアは笑って私に感謝の意を示した。
イシュメア様の代わりは居ない。そう自分で言っておいて悲しさに浸ってしまった。私の生きる道を導いてくれて、いつだって相談に乗ってくれて、優しかった私の恩人は、もう居ない。

「母上がどんなにこの国を想っていたかは、名前が一番知ってるだろ?」
「ああ…恐らくな。それが何だ?」
「そんな母上が最も信頼を置いていたお前に、折り入って頼みがある」
「頼み…?」

するとヨシュアはいつもとは違う真面目な瞳で私を見つめてきた。
旧知の仲であったケセルダとカーライルを失いその上に母まで失った。彼とて普通ではいられないはずだ。なのに私を気遣って隣に居てくれて、こんなにも前向きに国に向き合っている。
私はヨシュアの姿勢に心底驚かされ、尊敬した。

「共に、この国を治めて欲しい」
「…ヨシュア…それは……」
「今まで以上に苦労するだろうぜ。母上と違って俺は政治に関しては無知だからな。だが…分かったんだ。俺は、名前が居ればどんな苦難だって乗り越えられる」

ヨシュアの言葉に、私は声が出なかった。頭では理解出来てもその答えが上手く出てこない。本当はもっと綺麗な言葉で伝えたかったのに、頷くことで精一杯だった。
ありがとう、ヨシュア。

「ま、どちらにしろ名前が母上を理想としてんのは一応分かってるつもりだから」
「…理想は…あくまでも理想に過ぎない。それに…イシュメア様も完璧に国民の意見を聞けたかというと、どうも完全に肯定出来ないのが事実だ」
「ははは、じゃあ名前にも自分なりの理想があるのか。それなら話が早いな。これから…よろしく頼むぜ、名前」
「ああ…こちらこそ、ヨシュア」

そう言って微笑む顔はもはや王子ではなく、紛れもなく新しいジャハナ王国の王の顔であった。