ナマエがイタリアに住み始めてから約2ヶ月ほど経ち、ようやく彼女は街に馴染んできたと実感した。
近所の住民と軽い世間話や、行きつけの店で従業員と冗談まじりの会話が聞き取れるくらい語学も捗っている。留学すれば多国語などすぐに話せるようになると噂で聞いていたけど、なるほどなぁと頷き、そしてイタリアの澄んだ空を見上げ、たくましく成長したものだとひとり笑った。
「……あっ!」
朝から気分上々で街を歩いていた彼女の前に、見慣れた仏頂面の大男が姿を現した。前と言っても正面ではなく、車道を挟んだ向かいに歩く姿を。
偶然が余程嬉しかったのか大きな声で、「おーい!アバッキオー!」とすぐさま手を振った。呼ばれた方は手を振ることはないが、立ち止まり意識をナマエに向けた。立ち止まったということは、急いでないから喋りに行っても怒られない!という、理屈を並べたナマエは足を早々と進める。駆け寄るその姿にアバッキオの口角が少しばかり上がったことに、残念ながら彼女は気づかなかった。
「その様子だとお仕事終わったみたいだねー、お疲れさま!」
「ああ。おまえは家に寄るのか?」
「ん、そうだよ」
カサリと紙袋を鳴らし、だから途中まで一緒に行こうよ方向一緒だし。そう、言い終わる前にアバッキオは荷物をかっさらい前を歩いていく。ぽかんとするうちに、「早く来い」と催促する背中。今度はナマエが頬を緩ませる番だった。目つきは悪いが面倒見がいい。本当に人は見かけによらないなぁ……、心の中でそう思いながらナマエは彼にばれないことを祈った。
「ねぇ、私アバッキオの淹れたお茶飲みたいからさ、あがってってよ」
「おまえも言うようになったな」
「みんな優しいからつい調子乗っちゃうの、ダメ?」
「……いいや、時間はある」
「やった!」
歩くこと数分でたどり着いたナマエの部屋。昨日、いつもより綺麗にしたそこに理由をつけアバッキオを招いた。
「そういえば部屋入るの初めてだよね」
「そういや、そうだな」
「いらっしゃい」
「ああ」
*
「いい香り〜、さすが〜」
「ん」
「グラッツェ、アバッキオ」
俺の入れた紅茶を美味しい美味しいと、飲むナマエ。紅茶を淹れたくらいでなぜそこまで嬉しそうにするんだか。綺麗に形どられたクッキーを口に運びながら、横目でやつを見たらニコニコとこちらを向いていた。
「このクッキー美味しいでしょ、私が焼いたの!」
先程からサクサク食べていたジンジャークッキーを一枚つまんでみせた。感想がほしいのか、はたまた褒めてほしいのか。とにかくチラチラこちらを見てくるナマエに、「紅茶によくあうな」とそれだけ伝えたら、今日一番の笑顔になった。
「ほんと?」
「ああ」
「やった!アバッキオに褒められたからみんなにも持っていこっと!」
「おい、俺は練習台か」
「あはは、そんなことないよー」
キッチンの方から包装用の袋を何種類か持ってきたナマエは、楽しそうにどれを選ぶかを悩んでいる。その表情は初めにあった時の不安そうな顔とは大違いだ。この先しばらく、表情がコロコロと変わるコイツは見ていて飽きないだろうな。
近所の住民と軽い世間話や、行きつけの店で従業員と冗談まじりの会話が聞き取れるくらい語学も捗っている。留学すれば多国語などすぐに話せるようになると噂で聞いていたけど、なるほどなぁと頷き、そしてイタリアの澄んだ空を見上げ、たくましく成長したものだとひとり笑った。
「……あっ!」
朝から気分上々で街を歩いていた彼女の前に、見慣れた仏頂面の大男が姿を現した。前と言っても正面ではなく、車道を挟んだ向かいに歩く姿を。
偶然が余程嬉しかったのか大きな声で、「おーい!アバッキオー!」とすぐさま手を振った。呼ばれた方は手を振ることはないが、立ち止まり意識をナマエに向けた。立ち止まったということは、急いでないから喋りに行っても怒られない!という、理屈を並べたナマエは足を早々と進める。駆け寄るその姿にアバッキオの口角が少しばかり上がったことに、残念ながら彼女は気づかなかった。
「その様子だとお仕事終わったみたいだねー、お疲れさま!」
「ああ。おまえは家に寄るのか?」
「ん、そうだよ」
カサリと紙袋を鳴らし、だから途中まで一緒に行こうよ方向一緒だし。そう、言い終わる前にアバッキオは荷物をかっさらい前を歩いていく。ぽかんとするうちに、「早く来い」と催促する背中。今度はナマエが頬を緩ませる番だった。目つきは悪いが面倒見がいい。本当に人は見かけによらないなぁ……、心の中でそう思いながらナマエは彼にばれないことを祈った。
「ねぇ、私アバッキオの淹れたお茶飲みたいからさ、あがってってよ」
「おまえも言うようになったな」
「みんな優しいからつい調子乗っちゃうの、ダメ?」
「……いいや、時間はある」
「やった!」
歩くこと数分でたどり着いたナマエの部屋。昨日、いつもより綺麗にしたそこに理由をつけアバッキオを招いた。
「そういえば部屋入るの初めてだよね」
「そういや、そうだな」
「いらっしゃい」
「ああ」
*
「いい香り〜、さすが〜」
「ん」
「グラッツェ、アバッキオ」
俺の入れた紅茶を美味しい美味しいと、飲むナマエ。紅茶を淹れたくらいでなぜそこまで嬉しそうにするんだか。綺麗に形どられたクッキーを口に運びながら、横目でやつを見たらニコニコとこちらを向いていた。
「このクッキー美味しいでしょ、私が焼いたの!」
先程からサクサク食べていたジンジャークッキーを一枚つまんでみせた。感想がほしいのか、はたまた褒めてほしいのか。とにかくチラチラこちらを見てくるナマエに、「紅茶によくあうな」とそれだけ伝えたら、今日一番の笑顔になった。
「ほんと?」
「ああ」
「やった!アバッキオに褒められたからみんなにも持っていこっと!」
「おい、俺は練習台か」
「あはは、そんなことないよー」
キッチンの方から包装用の袋を何種類か持ってきたナマエは、楽しそうにどれを選ぶかを悩んでいる。その表情は初めにあった時の不安そうな顔とは大違いだ。この先しばらく、表情がコロコロと変わるコイツは見ていて飽きないだろうな。