蛇に睨まれたカエル


「……ッ!!」
「おいおいおい、コラ待て」

 まったくなんて自分は運がないんだ!ナマエはそう心の中で強く思い、「お腹が空いたなぁ、誰かいるかなぁ」と、呑気にリストランテに立ち寄った5分前の自分を呪った。

「(こういう時に限ってみんないないんだから……!)」

 ナマエは組織に属しているものの、仕事を任されたことがない。それはつまり、捉え方によっては毎日休日のようなもの。幾度も雑用をしたいと自らジョルノに申し出たし、それが難しいなら掃除をすると提案した。が、どれも採用されない。パッショーネのボスからの返答は、「焦らないでいい」だった。挙げ句の果てには、律儀に毎日来なくていいんだとも言われる始末……。しかし、ナマエは生粋の日本人。その国の文化から律儀な性格はそうそうに変えられるのもでもなく、毎日仲間の集まるところへと足を運んでいる。

 今日だって、何気ない1日だった。いつもはだいたい昼前にリストランテへ行けば誰かしらが待機していて、何人か集まると共に昼食を食べる。いつものルーティンだ。それを期待したのに、今日は誰もいなかった。ひとりで食べるのも寂しいからと、ナマエは頬杖をつきながら仲間が帰ってくるまで一息ついて待ってみた。
 いつもより多く待って、リストランテのドアが開いた。てっきりチームの誰か帰ってきたんだとナマエは勢いよく立ち上がる。が、それはとんだ勘違い。なんとそこには店内を見渡す、あのプロシュートが居るではないか。
 あの食事会での一件以来、苦手意識が抜けておらず、バチリと目があうと体は反射的に逃げ出していた。

「………………」

 部屋の角に追い込まれ完全に逃げ場を失ったナマエと、それを追い詰めたプロシュート。二人の距離は近く、まさに蛇に睨まれたカエル状態。なんだこの状況、今なら漫画みたいにダラダラと冷や汗を流せそう。ナマエは脳内で思った。

「なぁ、ナマエよ」

 ようやくプロシュートの方が沈黙を破る。強張るナマエが、ギギギッとぎこちなく上を向けば端正な顔には似合わない量の眉間のシワが刻まれていた。

「おいおい、お嬢ちゃん返事は?」
「は、い」
「こんな俺だって傷つくことだってあるんだぜぇ?なぁ、そんなあからさまに逃げんなよ」
「あの、ええと、」

 プロシュートに言われ、たしかに失礼な態度を取ってしまったと反省したナマエは「驚いちゃって……、ごめんなさい」と頭を下げた。今まで見下ろしていた男は短く返事をし、すぐに離れた。
 ようやくのことで圧から解放されたナマエは、プロシュートが後ろを向いているすきに深呼吸。よりにもよって、なんでひとりの時に来たのさ。同じような悪態を脳内でついた。

「お前、ひとりか?」
「あ、ええ。今みんな留守にしてて、急ぎの要件なら聞きますが……」
「いいや。これを渡しに来ただけだ、すぐ帰る」
「……これ?」
「ほら」

 そういうと、一輪の花をナマエの前に出すプロシュート。え、なぜ……?今の彼女は疑問に満ちた顔をしている。二度目の「ほら」という声にとりあえず応えてみるも、頭の上にはより一層クエスチョンマークが増えただけだった。そんな、花を受け取っても疑問が晴れないナマエの表情にプロシュートは「この前の、驚かせた詫びだ」と短く答えをやった。

「んー……?ありがとうございます……?」
「おう、じゃあな」

 手をひらりと振り立ち去ろうとする男は、「今度、普通に飯食いに行こう」などとドアを閉める前に言った。ナマエが返事をするのも待たず、プロシュートは出て行った。

「え、もしかしていい人?」

 いや、いやいやいや、騙されちゃダメだ!あの人には前科がある!ギャングを簡単に信じちゃあいけないって、アバッキオが言っていたんだ!ナマエはまたひとりになったリストランテで大きく首を振った。