ギャングのお仕事


 プロシュートさん襲撃からほんの5分ほどでジョルノがリストランテに顔を出した。開口一番、貴女に会いたかったところです。だって。私だって会いたかったよ、すごく大変だったもん。そんなちょっとした苦労話を聞いてもらおうとしたところで、お腹の虫が鳴く。緊張して忘れてたけど、お昼ご飯まだだったんだ。

 昼食はジョルノとパスタを食べて、食後の紅茶を楽しむ。ちょっとした日常の些細なこと、メンバーのこと、パッショーネのこと。いろいろ話していたら、「おや、もうこんな時間ですね」と時計を見たジョルノ。今日は私にちょっとした頼み事をしたいから、リストランテまできたらしい。そういえば私に会いたかったって言ってたね。

「頼み事?私にできることなら」
「この間仕事をしたいと言っていましたよね」
「もしかして!」

 その言葉にワクワクして待つ私。ジョルノは紙袋をひとつテーブルの上に置いて、「これを暗殺者チームに渡してきてください」と言った。中身は隠されることなく紙袋に入っていて、内容はどう見ても菓子折りだった。手に持ってもお菓子の軽さ。

「一応聞くんだけど何これ?」
「この間のご足労して頂いたので、そのお礼の品です」
「えー、これ仕事じゃなくておつかいじゃん……」
「いえいえ、これも立派なお仕事ですよ」
「えー……」
「ナマエはここに来て間もないんですから、小さなことから始めていきましょう」

 ね?と、ジョルノは子どもに言い聞かせるような態度を取った。悔しいけど、それも一理あるかも……。

「分かった……、でもお仕事はやりたいからその件もよろしくね」
「はい、では行ってらっしゃい」
「行ってきます!」


*
 さっそく任務だと称されたおつかいをこなすため、用意された車に乗って暗殺者チームの元へ向かった。流れ行く景色を見ながら食事会のことを思い出し、今日は誰がいるのだろうと想いを馳せる。
 ジョルノから、事前に私が向かうことをリゾットさんに伝えてあると聞いたので彼は確実にいるだろう。プロシュートさんはさっきあったから多分いない。暗殺者チームのメンバーは、メローネ、ギアッチョさん、ホルマジオさん。あとは、えーっと、えー……、誰だっけ……?あ、確か、髪型が特徴的なのがプロシュートさんの弟分さんだったような。昔から顔と名前を一致させるのが苦手なんだよね。あと何人かいたのにな、どうしても思い出せない。
 そのままうんうん唸って、しばらく揺れていれば目的地に停車したようで車は緩やかにスピードを落とす。運転手さんに別れを告げて、目の前の建物をじっくりと眺めた。
 降ろされた場所は、歩いて行くには遠い距離の所。そしてそこに立つ古風な建物……、暗殺者という言葉が似合うような、心なしかこの辺りの空気もすこし重たいように感じる。
 いつまでもこんなところに立ってても仕方ない。私が来ることは知っているらしいし、躊躇いもなくベルを鳴らす。少し間があってから、その扉は錆びた音を出しながら開いた。

「よぉ、早かったじゃねぇか」
「えっと、ホルマジオさんでしたよね?こんにちは」
「呼び捨てでいいぞ、それよりさぁ入れリーダーが待ってる」

 ホルマジオが片手でドアを押さえているうちに、早速中へ。案内された家は薄暗いけど、綺麗にしてるみたい。そのまま黙ってついていくと大きな部屋に通されて、中に奥のソファにリゾットさんが座っていた。

「よく来たな、ナマエ」
「リゾットさん、こんにちは」
「ああ」
「こんなにもすぐにアジトへお邪魔できると思ってませんでした」
「ジョルノに礼を言おう」
「そうですね!」

 本日の目的である『お礼の品』を渡すとリゾットさんは紙袋をガサゴソと探り、紙切れを取り出した。どこにあったのか、そんなもの気づきもしなかった。リゾットさんはそれを一読してホルマジオに渡すと、私に向き直り「お前の任務は完了」だと告げた。びっくり、ただのおつかいだと思ったことが、まさか本当にお仕事だったとは……。まるで伝書鳩みたいだ、と心の中で笑ってしまった。

「んじゃ、俺は任務に行ってくっから、まぁゆっくりして行けな」
「うん、ありがとう。行ってらっしゃい、ホルマジオ」

 ホルマジオは、「アジトに女がいるとやる気が出るもんだ」と豪快に笑ってから、私の頭を人撫でして部屋を出て行った。
 出発する前、ジョルノに文句を言ってしまったことを謝らないといけないな。リゾットさんにひとこと言って帰ろう思ってると、「何も無いところだがゆっくりして行ってくれ」と先に言われてしまう。まぁせっかく来たし、お言葉に甘えてソファにソファに座った。グリーンの大きなソファはふかふかで座り心地がいい。

「リゾットさ」
「リゾットでいい、敬語もいらない」
「……ふふ、分かった。それでね、今日はホルマジオとリゾットしか居ないの?」
「プロシュートを気にしているのか?」
「ううん、そういうわけじゃなくて!っていうかプロシュートさんにはここに来る前に会いました」

 リストランテであったことを伝えれば、意外そうな表情を見せるリゾット。「まぁ、アイツも悪いヤツではない」と続ける。でも、初回の印象が強すぎからなぁ。なんて正直に返せば、リゾットは特徴的な目を少し細めて見せた。

「ナマエは案外正直にものを言うんだな」
「隠してもしょうがないしね。で!今日はふたり以外ないの?」
「ああ、それなら確かイルーゾォが残っていたと思うが……」
「んー、イルーゾォさん……、まだ顔と名前が一致しないなぁ」
「……イルーゾォ、出てこい」
「でてこい……?ワッ!」

 鏡に向かって『出てこい』たなんて言うもんだから、不思議がっているとそこからにゅっと人が出てきた。心臓バクバクだ。

「よぉナマエ、これで俺のことばっちり覚えたろ?」
「は、はい」
「ナマエはスタンド能力が無いものの、存在は認識できるとジョルノから聞いている」
「さすがボス」

 俺も敬語とか要らないからなと、イルーゾォは鏡から半分だけ出たまま言った。イタリアのギャングたちは優しくフレンドリーだ。

「鏡の中ってどんな感じなの?快適?」

 どういう原理なのか、鏡に近づいてみる。スタンドすごいね、そう言うとイルーゾォは得意げに笑った。

「入ってみたいか?」
「え!私も入れるの?」
「ああ、俺が許可したらな」
「入ってみたい!あ、でも痛く無いなら……」
「はは、痛くないさ。ナマエが入ることを許可する」

 ほら、来いよ。ぐいっと引っ張られて体勢を崩し、思わずギュッと目をつぶった。ほんの3秒くらい後、イルーゾォの「着いたぞ」の声に恐る恐る目を開ける。

「わぁ……」

 そこはさっきまで居た暗殺者チームのアジトが反転した世界だった。許可されていない者は決して入れない、とても静かな空間。

「ご感想は?」
「いい感じ。ねぇ、外を散歩してもいい?」
「ああ、もちろん」

 家から出ると静けさはより一層際立った。大きな道路の真ん中を歩いてみて、ちょっと大胆な気分。ここでは動く者は私たちだけ、外なのに自分の足音がこんなにも響くだなんて。

「スタンドすごいね!」
「お気に召したようで」
「イルーゾォはいつもここにいるの?」
「ああ」
「寂しくない?」
「あまり思ったことはないな。静かな方が落ち着く」
「そっか」

 私はひとりだったらずっと鏡の世界で過ごすのは無理かもね、誰かと話してる方が落ち着くから。考え事したい時には邪魔するものがなくてよさそうだね。そう言えばイルーゾォの笑う声が響いた。
 そのままたわいもない話をしながらアジトの周りをぐるっとしたんだけど、楽しい時間はあっという間。もう暗殺者チームのアジトに到着。さぁ、あちらの世界へ帰る時間だ。