バンダナの人からくる視線に耐えること数十分。レストランの扉はまた開き、今度は派手なスーツを着た金髪の男性が登場した。こちらに向かってくる様子からして、きっとこの人たちの知り合いなんだろう。私の隣に座っていたミスタさん(仮)はその存在に気づくと、すぐさま立ち上がって彼の元へ行ってしまった。
『−−−!』
すると、待ってましたと言わんばかりにバンダナの人は空いた席にどかっと座り喋り出した。こちらに向けられたであろう言葉は当然意味もわからず、私の耳を抜けていく。申し訳なくて英語で謝ってみたものの、スルーされて一方通行な話は続いた。周りを頼ろうにも、私の言葉が通じないんじゃあどうにもできない……。
『ーーーー ーー!』
「えっと、だから……」
『ーー NARANCIA GHIRGA!』
「……?ならんちゃ、ぎるが?」
「Si!NARANCIA!」
「しー?ならんちゃ?」
こんな短時間で耳が慣れるものなのか、よく聞けば似たようなことを言ってることに気づいてそれをおうむ返しする。と、バンダナの人は自分を指差してコクコクと頷いて、次は私を指差す。ああ、なるほどね、今朝も似たようなやり取りやったなぁ。なんて思いながら私は自分を指差して名前を伝えた。
『ーーー!ーー!!』
「わ!」
そしたら急にガタンと椅子を倒しちゃうくらい勢いよく立ち上がり騒ぎ出した。いきなりのことで目を丸くしてたらナランチャ(仮)って人は、私の名前を周りに伝え始めた。集まる鋭い視線にどう反応するのが正解なのか冷や汗をかいていたら、ナランチャさん(仮)は白いスーツの人に怒られ、ぶつくさ言いながら座り直した。
これでやっと平穏が訪れる……と思ったのもつかの間、ニコニコ顔で頬杖をつきながら私に話しかけ続けるではないか。別に私が理解するとかどうでもいいのか、大きいひとり言のようにそれを続ける。意地悪をしてくるわけじゃないけど、これはこれでどうしたらいいかわかんないから困っちゃうな。この人もきっと悪い人じゃあないだろうから、あからさまな拒否もできない……。
『ーーー、ーー!』
「(懲りずにまた話しかけてきた……)」
本当にそろそろ助けが欲しい、周りからの視線も相まって穴があきそう。すこしの望みをかけてミスタさん(仮)の方を見れば、金髪の人が側まで近づいてきていた。私の前で立ち止まって目の前でニコリと笑う彼は、お世辞じゃなくてとても綺麗だと思った。私はそんな彼から目が離せなかった。
「こんにちはお嬢さん」
「……!」
「僕はジョルノ・ジョバーナ。ミスタからだいたいのことは聞いて……」
「日本語……、!」
「っと……、泣かないでください、もう大丈夫ですから」
聞き慣れた母国語が耳に届いて、途端に涙が止まらなくなった。いきなり泣くもんだから、ジョルノと名乗った人は困った声を出してたけど、それから私を優しく包み込んでくれた。こわかった、あったかい、ごめんなさい、ここはどこなの、なんで私ここにいるの、なんてめちゃくちゃな文脈で話す私をなだめるように、ジョルノさんはずっと背中をさすってくれた。
*
「落ち着いてきましたか?」
「はい、ありがとうございます」
「それはよかった」
「ジョルノさん、」
「ジョルノでいいですよ、僕もナマエと呼びますから」
しばらく泣いた後、事の経緯を話した。途中、涙がポロリと落ちるとそのたびに優しくぬぐってくれた。
昨日から抱いている疑問、ここはどこなのか。そのことをジョルノに聞くと、どうやらここはイタリアのネアポリスらしい。やっぱり私の勘は当たってたけど、喜びたくもないし謎が深まるばかり。あと、驚いたことは今は8月末ではなく5月初旬だそう……、どうりで日中も寒いはずだ。こんな奇妙な話、信じてもらえるはずがない。きっと私はこれから虚言吐きの烙印を押されて、道端に放り出され、路頭に迷って、最終的に変な人に捕まって人身売買だ。
「しかし妙な話ですね……」
自分の脳内で繰り広げたネガティブな発想をして自滅しかけてたところ、ジョルノは前向きに話を進めようとしている風に見えた。目の前の彼はなんて優しいんだ。そして、手を顎に添え、考えるそぶりすら何故こんなにも綺麗な姿なんだ。
「まさか、スタンドか……?」
「……すたんど?」
「ああ……、いえ、こちらの話です。……おや、具合でも悪くなりましたか?」
頬に伸びる手にビクリと私の肩は大袈裟に跳ねる。きっと、顔色が悪いのはさっき自分勝手に繰り広げたネガティブシンキングのせいだ。考えてしまった一連の流れが、どうしても私の頭からそれが離れない。
やがてジョルノは手から伝わる震えに気づいて、「大丈夫」だとまるで子どもをあやすようにまた私の体を包み込む。
「怯えないで、僕たちはあなたの味方です」
「……ほ、本当?」
「ええ、嘘じゃあありません。お力添えできるよう、今から調べてみますのでしばらくここでお待ちください」
私が深々頭を下げるとジョルノは「大袈裟なお礼は全て終わった後でいいですから」と綺麗な笑みを浮かべながら立ち上がり、テーブルに向かって声をかけた。さっきまで私と日本語で話していたのに、次はイタリア語で話すジョルノ。幼少期は日本で過ごしていたそうだけど器用なもんだなぁ、なんて低レベルの感想を頭で言っていると、白いスーツの人が立ち上がった。私がここに来た時椅子を引いてくれた人だ、この人は背筋がピンと伸びていて歩く動作がとても綺麗だ。
「……あっ」
ジョルノが白いスーツの人と共に外へ出ようとしてるところで、そういえばミスタさんにお礼言ってなかったことを思い出す。待って、とジョルノの腕を慌てて掴むと彼は当然驚いた表情になった。
「どうしました?……ああ、ここに置いて行くと不安になりますか?」
「ううん、そうじゃなくて!イタリア語でお礼ってどう言うか教えてほしいの」
「お礼?」
「私、あの帽子の人……、ミスタさん?にたくさん助けてもらったからお礼が言いたいの、イタリアではどうしたらいい?」
「ああ、なるほど。そうですね……」
ジョルノはニコリと笑いながら耳打ちをして、「それでは、行ってきます」と今度こそレストランを出て行った。
ドアがパタンと閉まるまでジョルノたちを送り出した後、耳打ちされたことを思い出してどうしたものかと悩む。なぜならば「ミスタなら、ハグをして『グラッツェ』と言えば満足すると思いますよ」なんて言われしまったのだ。耳うちの近さとか、提案されたこととかもさすが海外……。でも、たくさん迷惑かけたんだし、お礼はちゃんと言わなければならない……。
「ミスタ……!」
意を決して、テーブルに近づいき相手を呼んだ。そうしたら緊張して考えてたよりも大きな声が出てしまい、残ってる人全員がこちらを向いた。ミスタさんは、ちゃんと気づいてくれわざわざ立ち上がってこちらに来てくれた。
「ぐ、ぐらっつぇ……!」
ハグってどのくらい力を入れるべきなんだろう、感謝の気持ちをこめて力いっぱいギュッとした。……けど、しばらく反応が無くてジョルノに嘘つかれたんじゃないかと不安なる。
「わっ!」
『−−−』
力を緩め上を見るとぎゅうっと抱きしめ返された。少々痛いくらいのハグとニカッした笑顔、どうやらジョルノの言った通り彼は満足したようだった。
『−−−!』
すると、待ってましたと言わんばかりにバンダナの人は空いた席にどかっと座り喋り出した。こちらに向けられたであろう言葉は当然意味もわからず、私の耳を抜けていく。申し訳なくて英語で謝ってみたものの、スルーされて一方通行な話は続いた。周りを頼ろうにも、私の言葉が通じないんじゃあどうにもできない……。
『ーーーー ーー!』
「えっと、だから……」
『ーー NARANCIA GHIRGA!』
「……?ならんちゃ、ぎるが?」
「Si!NARANCIA!」
「しー?ならんちゃ?」
こんな短時間で耳が慣れるものなのか、よく聞けば似たようなことを言ってることに気づいてそれをおうむ返しする。と、バンダナの人は自分を指差してコクコクと頷いて、次は私を指差す。ああ、なるほどね、今朝も似たようなやり取りやったなぁ。なんて思いながら私は自分を指差して名前を伝えた。
『ーーー!ーー!!』
「わ!」
そしたら急にガタンと椅子を倒しちゃうくらい勢いよく立ち上がり騒ぎ出した。いきなりのことで目を丸くしてたらナランチャ(仮)って人は、私の名前を周りに伝え始めた。集まる鋭い視線にどう反応するのが正解なのか冷や汗をかいていたら、ナランチャさん(仮)は白いスーツの人に怒られ、ぶつくさ言いながら座り直した。
これでやっと平穏が訪れる……と思ったのもつかの間、ニコニコ顔で頬杖をつきながら私に話しかけ続けるではないか。別に私が理解するとかどうでもいいのか、大きいひとり言のようにそれを続ける。意地悪をしてくるわけじゃないけど、これはこれでどうしたらいいかわかんないから困っちゃうな。この人もきっと悪い人じゃあないだろうから、あからさまな拒否もできない……。
『ーーー、ーー!』
「(懲りずにまた話しかけてきた……)」
本当にそろそろ助けが欲しい、周りからの視線も相まって穴があきそう。すこしの望みをかけてミスタさん(仮)の方を見れば、金髪の人が側まで近づいてきていた。私の前で立ち止まって目の前でニコリと笑う彼は、お世辞じゃなくてとても綺麗だと思った。私はそんな彼から目が離せなかった。
「こんにちはお嬢さん」
「……!」
「僕はジョルノ・ジョバーナ。ミスタからだいたいのことは聞いて……」
「日本語……、!」
「っと……、泣かないでください、もう大丈夫ですから」
聞き慣れた母国語が耳に届いて、途端に涙が止まらなくなった。いきなり泣くもんだから、ジョルノと名乗った人は困った声を出してたけど、それから私を優しく包み込んでくれた。こわかった、あったかい、ごめんなさい、ここはどこなの、なんで私ここにいるの、なんてめちゃくちゃな文脈で話す私をなだめるように、ジョルノさんはずっと背中をさすってくれた。
*
「落ち着いてきましたか?」
「はい、ありがとうございます」
「それはよかった」
「ジョルノさん、」
「ジョルノでいいですよ、僕もナマエと呼びますから」
しばらく泣いた後、事の経緯を話した。途中、涙がポロリと落ちるとそのたびに優しくぬぐってくれた。
昨日から抱いている疑問、ここはどこなのか。そのことをジョルノに聞くと、どうやらここはイタリアのネアポリスらしい。やっぱり私の勘は当たってたけど、喜びたくもないし謎が深まるばかり。あと、驚いたことは今は8月末ではなく5月初旬だそう……、どうりで日中も寒いはずだ。こんな奇妙な話、信じてもらえるはずがない。きっと私はこれから虚言吐きの烙印を押されて、道端に放り出され、路頭に迷って、最終的に変な人に捕まって人身売買だ。
「しかし妙な話ですね……」
自分の脳内で繰り広げたネガティブな発想をして自滅しかけてたところ、ジョルノは前向きに話を進めようとしている風に見えた。目の前の彼はなんて優しいんだ。そして、手を顎に添え、考えるそぶりすら何故こんなにも綺麗な姿なんだ。
「まさか、スタンドか……?」
「……すたんど?」
「ああ……、いえ、こちらの話です。……おや、具合でも悪くなりましたか?」
頬に伸びる手にビクリと私の肩は大袈裟に跳ねる。きっと、顔色が悪いのはさっき自分勝手に繰り広げたネガティブシンキングのせいだ。考えてしまった一連の流れが、どうしても私の頭からそれが離れない。
やがてジョルノは手から伝わる震えに気づいて、「大丈夫」だとまるで子どもをあやすようにまた私の体を包み込む。
「怯えないで、僕たちはあなたの味方です」
「……ほ、本当?」
「ええ、嘘じゃあありません。お力添えできるよう、今から調べてみますのでしばらくここでお待ちください」
私が深々頭を下げるとジョルノは「大袈裟なお礼は全て終わった後でいいですから」と綺麗な笑みを浮かべながら立ち上がり、テーブルに向かって声をかけた。さっきまで私と日本語で話していたのに、次はイタリア語で話すジョルノ。幼少期は日本で過ごしていたそうだけど器用なもんだなぁ、なんて低レベルの感想を頭で言っていると、白いスーツの人が立ち上がった。私がここに来た時椅子を引いてくれた人だ、この人は背筋がピンと伸びていて歩く動作がとても綺麗だ。
「……あっ」
ジョルノが白いスーツの人と共に外へ出ようとしてるところで、そういえばミスタさんにお礼言ってなかったことを思い出す。待って、とジョルノの腕を慌てて掴むと彼は当然驚いた表情になった。
「どうしました?……ああ、ここに置いて行くと不安になりますか?」
「ううん、そうじゃなくて!イタリア語でお礼ってどう言うか教えてほしいの」
「お礼?」
「私、あの帽子の人……、ミスタさん?にたくさん助けてもらったからお礼が言いたいの、イタリアではどうしたらいい?」
「ああ、なるほど。そうですね……」
ジョルノはニコリと笑いながら耳打ちをして、「それでは、行ってきます」と今度こそレストランを出て行った。
ドアがパタンと閉まるまでジョルノたちを送り出した後、耳打ちされたことを思い出してどうしたものかと悩む。なぜならば「ミスタなら、ハグをして『グラッツェ』と言えば満足すると思いますよ」なんて言われしまったのだ。耳うちの近さとか、提案されたこととかもさすが海外……。でも、たくさん迷惑かけたんだし、お礼はちゃんと言わなければならない……。
「ミスタ……!」
意を決して、テーブルに近づいき相手を呼んだ。そうしたら緊張して考えてたよりも大きな声が出てしまい、残ってる人全員がこちらを向いた。ミスタさんは、ちゃんと気づいてくれわざわざ立ち上がってこちらに来てくれた。
「ぐ、ぐらっつぇ……!」
ハグってどのくらい力を入れるべきなんだろう、感謝の気持ちをこめて力いっぱいギュッとした。……けど、しばらく反応が無くてジョルノに嘘つかれたんじゃないかと不安なる。
「わっ!」
『−−−』
力を緩め上を見るとぎゅうっと抱きしめ返された。少々痛いくらいのハグとニカッした笑顔、どうやらジョルノの言った通り彼は満足したようだった。