あこがれのヒーローになりたかった
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ジャスティス号でパトロール中の無免ライダーは、ほんの少し心がやさぐれていた。
上を見たらキリがない、下を見たら引きずられる。わかってはいても、幼い頃思い描いたヒーローとは程遠い現状に歯噛みした。身分不相応な野心など持ち合わせていないが、本当ならA級や…S級に届くような力が欲しかった。そうすれば、やれることも増えただろう。C級ヒーローの無免ライダーに出来ることは、思っている以上に少ない。
公園の横で、先日たすけた迷子の女の子が母親と手をつないで歩いていた。「あ、むめんらいだーだ!」手を振ってくる女の子に、ジャスティス号を止めて手を振り返す。
少ないけれど、確かにあるのだ。自分ができる正義は。
それでもたまに欲張りになってしまう。
会釈する母親と、力いっぱい手を振り続けている少女を見送り、またジャスティス号に足をかけペダルを踏んだ。
「すいません!」
なんだ?
後ろから若い男の声がする。謝罪というより、誰かを呼び止めるような声だ。誰を呼んでいるのか、もしかしたら自分かとスピードをゆるめた。
「すいません!無免ライダーさんですよね!?待って!待ってください!」
「呼んでくれたら止まるから!近い近い、ちょっと距離おいてくれるかな!」
先程までいなかったはずの人物が近距離で叫び、止まれば反動でぶつかってしまうような位置で並走していた。誰だ何があったと困惑しつつ、見た顔には覚えがある。そうだ、最近入ったばかりでどんどこ順位上げてる期待の新人。
よくある「てめえなんざすぐに追い越すぜ」という宣戦布告かと思ったが、それにしては様子がおかしかった。妙に緊張している気がする。
「俺に何か用かい?」
「はい!あの!、えっと!あああああちょっと待って下さいヒッヒッフーヒッヒッフー!うわあああん!」
「大丈夫か!」
突然しゃがみ込んでラマーズ法を試しはじめた少年を助け起こそうとしたら、その前に涙目でスクッと立ち上がった。
「五年前貴方に命を助けて頂いたものです!無免ライダーさんに憧れて、ヒーローになりました!サインください!」
「え、」
「お忘れかもしれません。五年前、自動車事故にあいました。炎が出た車内に閉じ込められて、泣いてた俺を助けてくれた無免ライダーさんに会いたくて、この街にきました!弟子にしてください!!」
「弟子はちょっと…」
「そこをなんとか!」
とりあえず色紙にサインを書いて手渡すと、飛び上がって「家宝にします!」と喜んでいた。その顔は、涙でぐちゃぐちゃになっていた子供と似ているような気がする。
体中から力が湧いてくるようだ。ああ、これだから。
「ヒーローはやめられないなあ」
「やややややめないでください!?これから俺と無免ライダーさんのジャスティスストーリーがはじまるんですよ!」
「あははは」
ヒーローやっててよかった。
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