真面目に働いたご褒美ですよ


享年八十五。
大日本帝国が戦争で米国に敗れるより数年前、徴兵により今生の別れと相成った若き日の恋人と再会す。



「お久しぶりですね、名前。流れ弾にでも当たってすぐ来ると思っていたのですが意外と頑張りましたね」

「カガチ…か?」

「あ、それ偽名です。正式には鬼灯と言います」




地獄で。







鬼灯の花言葉は『偽り』というが、なるほどである。その名を持つこの男も、すべてが偽りであったらしい。
海向こうの国から来た留学生という触れ込みだった筈の彼は、そもそも人では無かったという。鬼とは赤ら顔の大男だと思っていたが、相変わらずの涼しい顔で棍棒を片手に持つこの男もまた鬼なのだという。

金魚から茎が生えし異形の花の群れを突っ切りながら、先程まで俺が並んでいた亡者達の列から外れていく。その手はカガチ…鬼灯に強く握られていた。正直に言おう。痛い。
当時も力加減も遠慮も全くない男だったが、相変わらずのようだ。
いや。当時、それについて苦言を呈したところ「私が本気を出したら貴方の中手骨なんて粉砕していますよ」と言っていたが、あれは冗談などではなかったのだろう。という事はコレは彼的に最大限加減しているのかもしれない。


「ところで、何故俺は若返っておるんだ」
「職権乱用です」

一呼吸置き、懐かしい顔をした男鬼は事も無げに言い放った。




「地獄で一緒になろうと誓ったじゃありませんか」



ああ、戦場へ向かう前の晩、桜の木の下で誓い合った。帰れぬ命と信じていたのだ。こういう意味だとは思わなかった。


「貴方の魂は私のボーナスとなりましたので」


輪廻の理りから外れましたが宜しいですね。と、何かとんでもない事後報告を受けた気がする。




政治家の汚職と裏取引でも見たような気分になりつつも、どうせ地獄に落ちるならこの男の傍にいたいと思ってしまった程度には、一度失ったはずの過去の恋にのぼせ上がっているようだった。


←前 main|top 次→