終わりの中の救いに縋る
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そうだよなあ、世界は残酷だ。
わかっている、理解しているよ。それでも俺はこの残酷な世界が恐ろしくてたまらない。恐怖に区切りがつけられない。
幸せで安寧で優しくて甘ったるくて、幾重もの手が厳重に汚いものを隠してくれた世界を知っている。
身動きが取れないほど細く優しい糸で守られて、綿の中で抱きしめられていたような世界を知ってしまっているんだ。
そう、これは深刻な精神病で妄想だ。
平成ってなんだろう。16歳は高校生?高校ってなんだ。朝6時に起きて部活に行って…?部活?なにそれ。
お母さんの作ってくれる弁当は好き。特に唐揚げが。
なんだよ唐揚げって、鶏肉なんて村では食った事ないぞ。そもそもお母さんなんて赤ん坊の頃に死んでんだよ。
誰だ。俺の頭ん中で笑って手を振ってくれた親しげな中年女性は何者だ。どうしてお前らはそんなに笑っているんだ。どうしてそんなに無防備に寝れる?なんで怯えていない。どうして怖がらない。どうしてそんなに、幸せそうなんだ。
「(ぁぁああああぁああ!)」
叫んだ。つもりだった。
それは引きつった呼吸音になって俯せのまま枕に吸い込まれた。ドクドクと響く心臓の音が、奴らの足音にすら聞こえる。ひい、と首を絞められた鼠のような泣き声がする。他人事のように思って、それが自分の喉から出たと時間差で知った。
いつもこうだ。最近、出動が多かったから。
疲れると、いつもは忘れている酷い妄想が夢の中で這いまわる。手に入らない幸福など劇薬に過ぎない。猛毒を垂らした妄想が俺に死ねと微笑むのだ。
「……名前?どうした、大丈夫?」
二段ベッドの上に寝ている俺の顔の横に、ベルトルトがひょいと顔を出した。うす暗く揺らめく蝋燭の炎が周囲の闇を殺していく。
「恐ろしい、夢を見た」
ガチガチと歯が鳴る。怖かった。
また喉の奥からひいひいと声が出る。毛布を身体に巻きつけて身を丸めた。
たすけて、たすけてくれ。
大きな手が髪を触る。次に、遠慮がちに頭を撫でる。
そしてようやく俺は息が出来たような気になって、深く息を吐いた。
「大丈夫だ」
涙でぼやけた視界にはベルトルトがどんな顔をしているかなんて見えなかったし、鼻を啜った時に彼がなんと言ったかなんて聞こえなかった。
ああ、大丈夫だよな。俺の仲間はみんな強い。巨人になんてまけない。
いつか俺も、安心して寝れる夜が来るんだ。190越えのベルトルトが「よいしょ」と軽く言って俺のベッドにもぐりこんできた。狭い。きつい。あったかい。
「今日は一緒に寝てやるから、安心して寝るんだ」
「…あんがと」
べしょべしょになった枕をひっくり返して、眼を閉じる。うん、大丈夫。俺はベルトルトを信じていればいいんだ。
「まだきみを食べない」
そんな言葉、聞こえない。
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