抉れる距離の空よ
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「エリちゃん的な感じのアレだとばかり……」
「そうか。少しは本を読んでみたらどうだ」
「親切に辛辣」
マスターは識らないようだが、エリザベート・バートリーを元にした「カーミラ」は「吸血鬼ドラキュラ」の創作に多大な影響を与えた。国の英雄たるヴラド三世を、おぞましい悪鬼へと変えたもののひとつになる。あの無邪気で傲慢で哀れな少女と、己は確かに似ているだろう。血腥い言動の元が同じものだという認識は確かに合っている。合っているが、基本的に間違っている。
「ゴシックロリータなファッション吸血だとばかり思ってた……」
「余のスキルに対する理解が足りぬようだな」
「エリちゃんと仲良しだからペアで揃えたのかなって」
「そうか、阿呆め」
「率直に辛辣」
ひえぇと情けない声をあげて1歩だけ逃げ、また寄って隣に並ぶ。
世界を守った英雄にしてはとても、幼い。
また男になりきらないまろい頬の線と、愛した国の空の色に似ている青。この青はいつも遠かった。決して触れさせてはくれない、暗い牢の中で、己を裏切り続けたうつくしい空。
「アレが来ただろう。余に構わず、向こうへ顔を出したらどうだ」
「アレ?」
「騎士である余だ。最も、向こうは認めないだろうがな。存在の意義をかけて殺し合いがはじまるやもしれぬな」
「ぼくしってる!蠱毒って言うんだ!」
「余は知らぬ。が、何を言いたいかはわかる。碌な事ではないのだろう」
「地獄みたいなもんだよ」
「ふん」
「俺が好きでバーサーカーのヴラド三世と一緒にいるからいいんだよ」
「……これ程の英雄や戦士に囲まれて尚、狂戦士を好むとは。貴様は随分と、頭が可笑しい」
「ひゃくまんかいいわれた!」
「確かに百万回は言ったかもしれぬな」
頭ひとつと半分ほど低い位置でこちらを見上げた瞳が近づく。伸ばされた手が頬を包むのをそのままに、手に届く位置にある空色をみた。双眸に数多の星がまたたく。
「1回言う度に、貴方は俺に優しい顔をしてくれるようになったよ」
百万回、百万回分。絆されているのだろう。疾うに、とっくに。その証拠に、どうしようもない。
「あなたのその顔が、俺は好きだよ」
「そうか」
どうしようもない。この脆弱な少年を見つめると、どうしても笑ってしまうのだ。吸血鬼と呪われた、この化物が。
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