終わるための始め 始めるための終わり


長く生きても2年とちょっと、神さんと交わって子供こさえて、鬼を殺して血まみれ泥まみれってさぁ。
やっと楽になったと思ったところで氏神になれたぁヒデェはなしだ。
口では「光栄です」とか畏まっても、嫌なもんは嫌なんだって。
下手すりゃ自分の娘とまぐわうかもしれねぇってのに、ノホホンと出来るわけがねぇ。
言っちゃなんだが、俺は神様なんぞ大嫌いなんだ。
天界へ引き上げられてむなくそ悪くて仕方ない。
交神した女神様にはある程度情がうつっちまったが、それはそれ、これはこれだ。
こんなことなら真面目に稽古なんてしなければよかった。適当にサボっておけば氏神なんぞに選ばれなかったかもしれねぇってのによ。

だいたい元を正せば全部神様同士のいざこざが原因じゃねぇか。巻き込まれたうちの一族が何十人も命をかける必要性がどこにある。



「名前殿、ここにいらっしゃいましたか」

「鹿島様、何用でございましょう?」



クソ、神様がきやがった。
目の前の優男風神様が親しげに俺の名を呼ぶ。そういえば鹿島中竜はひいひい婆様、もとい初代様と交神したという。
つまりはこの人は俺のひいひい爺様になるのか。

「用という程ではないのですが…」

情けない顔をして、無意識にか右手を揺らす。

「茶でも、一緒に如何ですか」

「鍛錬がありますゆえ」

「1杯だけでも」

「お断りいたします」

無用な話だ。
さっさと切り上げようと背を向けると、それなりに鍛えていそうな腕が童子のように袖を引いて来た。
なるほど、父上はこの方の血をよく受け継いだらしい。顔の構成が被っている。
実に情けない顔をした神様は所帯無さげに、自ら掴んだ袖を見ている。


「それが命令ならば、望む通りに」


はじめから終わりまで俺は、俺たちは、あんた達神様の為に!
言われた事を一生懸命忠実に取り組んで見せますよ。無礼討ち(天界にあるのかは知らん)覚悟で鼻で笑って見せると、鹿島様はいたく傷付いた様子で掴んだ袖を放した。
何を傷付いているのやら。どの面さげて傷付いているのやら。不幸自慢なら俺も中々のものだってんだ。



「貴方が何を望んでいるのかは知らねぇが、忘れんじゃねぇ。俺はてめぇらなんぞ、でぇっ嫌いだ」


胸倉掴んで鼻っ柱叩き割る勢いで言ってやる。
「特にあんたが嫌いだよ!」掴んだ胸倉ごと地面に投げ捨てて、馬鹿笑いしながら言い切ってやる。
この泥だらけの人生のはじまりが鹿島様!偉大なるご先祖さま、あんたの子孫はあんたと同列に担ぎ上げられました!才能あふるる俺様はあんたを片手で殺せる程度には優秀でございます。あはは、はは、ははははは!!

「名前殿、私はただ……」

受身を取ったついでに擦り剥いたのか。手からは薄く血が滲んでいた。
鬼の血も赤かったが、神様の血も赤いんだなぁ。そして人も赤くて俺たちも赤い。違いなんて何も無いじゃねぇか!

「五月蝿い、何も言うな、耳障り、黙ってろ、言う通りに動いてやる、孫でも娘でも構わず交ってやる、だから俺に構うな!」

言う事聞くよ何でも聞くよそれが命令ならばなんでも!それが命令以外なら俺は何もしてやらねぇ。
さっさと全てが終わっても、一度担ぎ上げられたモノは降りられない。自分から落ちる以外ない。全てが終わったときには真っ先に落ちてやる。

一字一句ちゃんと聞こえるようにゆっくりと言ってやる。
わかったな?よし、俺に構うなよ!







「これ、美味いですよ」





「…………はあ……」


笑って笑って笑い疲れて、それなのに、地べたに座り込んだ神様は顔に似合わぬ無邪気さで茶菓子の包みを差し出した。

どういう神経してんだ。


「一緒に食べましょう?」


以外にも打たれ強く出来ているらしい。目的を達成するためには何度でも挑戦するところが、やっぱり父上そっくりだった。



俺ばっかりが餓鬼くせぇじゃねぇか。
拒否もメンドイので、諦めろってのが神様のお導き?ふざけろ、死ね。

悪態を吐きながら差し出された腕を掴む。眼を回しながら立ち上がった鹿島様は間抜け面。


「茶、飲むんでしょう」

「……はい!」


厄介なものに好かれたかもしれない。
実に不愉快だ。


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