優しい雨


俺のじーちゃんは若い。

何か若い。

童顔だとかそんなのすっ飛ばして若い。

ぶっちゃけ俺より若い。


「おや、やっと来ましたね」

「じいさん孝行に来たぞー。肉じゃが食べたいですお願いします」

「はいはい」

ふふふ、とハンナリ笑って割烹着を身につけ、いそいそと調理に向かうじーちゃん。
本名は『菊さん』というらしいけど、そう呼んでも3分の1の確立でしか気付いてくれない。
曰く、「慣れてませんから」らしい。

じーちゃんは皆から『日本』と呼ばれている。
何故かはしらない。
じーちゃんの友達も、イタリアとか、ドイツとか、国の名前で呼ばれている。そういえばあの人たちも物凄い若作りだ。
俺がチビの頃から変わってない気がする。

「じーちゃんじーちゃん」

「何ですか、名前」

「じーちゃん何で俺を引き取ったの?」

沈黙。

「1、ショタっ子ゲットフラグを逃せなかった
2、名前が私を選んだから
3、ずっと一人で寂しかった
・・・どれでしょう?」

「うわー、1だったら引くよじーちゃん。オタク過ぎるよ」

「今時のギャルゲーにはショタルートもあるんですよ!選択肢の一つには入りますよ!」

「意味わかんないキレかたしないで!」

お玉を振りかざし怒るじーちゃんを、何とか宥める。
原稿のトーン張り手伝うという条件でやっとこさ怒りを静めた。駄目だあのじーちゃん、とんでもないオタクだ。

機嫌がなおったじーちゃんは、鼻歌うたいながら料理を続けている。
鼻歌の内容がアニメの主題歌なんてもうツッコむ気にもならない。



15年位前、家族みんな死んだ。
飛行機が落ちて、おしまい。
母さんに庇われて、椅子と母さんの隙間に挟まって、俺だけは生き残った。

駆け落ちした男と女の子供。

他の家族なんかいなくて、病院に運ばれた後はそのまま施設へ一直線コース。
毎日沢山のテレビカメラが来て怖かった。無遠慮な質問と無遠慮な視線。

1人になりたくて逃げて、病院の裏の桜の木の下で泣いていた。
1人になった途端、1人になった事がとてつもなく恐ろしくなったから。

そこでじーちゃんに会ったんだ。


番傘さして、花弁を雨みたいに避けて、俺に気付いて慌てて走り寄って来た。
そして手を差し伸べてくれた。
その手を俺が取った。

「名前、私のことはおじいちゃんと呼んでくださいね」

「お兄ちゃんじゃ、ないの?」

「そんなに若くないですよー」

花弁の雨の中を背負われて、ゆっくりと病院から遠ざかった。
テレビの中ではいろいろと騒がれていたけど、1ヶ月を過ぎれば過去になって、俺は平和に生きることが出来たんだ。





「じーちゃん」

「はい、なんですか?」

「さっきの答えさー、123全部だろ?」


沈黙。2〜3秒間を置いて、

「ぴんぽん」

振り向かないまま言ったじーちゃんの耳が赤かった事には、気付かないふりをしてあげた。

寂しがりと寂しがりが一緒になって、丁度いい。

「俺、車の免許取ったから此処から大学通おうかな」

「なっ、いつの間に?!」

あれ、言ってなかったっけ? とぼけるとガミガミガミガミいつもの調子で叱られた。
報告連絡相談が足りない!との事。
でも最後には笑って「早く帰ってきなさいね」と頭を撫でられた。

俺よりチビで若いじーちゃんの中で、俺はいまだにガキのようだ。
甘やかされるのは嫌いじゃないから、小さくて白い掌の感触を楽しんで、じーちゃん特製の肉じゃがを食べた。


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