世界の終わりまであと一ヶ月
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討伐対象が被っているからと旅路を共にしたが、例の森から出てきた男――パーシヴァルは、以前も同じように旅の魔法使いに同行を願い共に魔物を倒したらしい。「いいひと、だったよ」と言うが、俺でもわかる。お前のその登場に引かないで付き合ったのだから俺と同じように良い奴だろうよ。言い換えるなら残念なお人よしだ。
というか、どこで討伐対象の被りがばれた。俺は一人旅だぞ。アヴァロンか。お前ら守秘義務ないのか。ないだろうな。ファック。
このパーシヴァルという男はおかしい。いや、魔法使いって奴はたいていどこかおかしいが、右腕が蔦でできている男は特別おかしいと思う。たぶんあの腕、切りつけても樹液しか出ない。触らせてもらったが人としての温度は特に感じられなかった。
次に、ことあるごとに掻き毟るせいで血まみれの胸。魔物を生贄にするたびに「むね、いたい」とつぶやくが見ている俺も痛いしその痛みの八割は物理だ。そのお手手をはなしたまえ。
「ざいあくかん、らしいよ」
あっけらかんと「おしえてもらった」と言い放つ。どうやら以前同行していた人も心配してくれたらしい。彼なりの考察でいろいろ説いたが、パーシヴァルは半分くらいしか理解できなかったそうだ。理解できないなりに考えてくれたことや、教えてくれた答えが嬉しかったらしく「おとーさん、いたら、あんなかんじだね」とほわほわ笑っていた。
俺はパーシヴァルの過去は知らない。聞けばまたあっけらかんと軽く言いそうではあるが、下手に深入りしてもしょうがないだろう。どうせこの依頼の間だけの仲だ。
「・・・って、思ってたんだけどなあ・・・」
「名前、どうしたの?」
「頭いてえ」
騒がしい酒場の喧騒にあわせて、頭の中でゴブリンが駆け回るような頭痛がする。あー、飯食って、酒飲んで、酒飲んで、つまみ食って、酒飲んで、酒飲んで、酒飲んで、便所行って、酒飲んで、そこから先の記憶がねえ。気が付いたら酒場の机に沈没していて、飯食った時と同じ姿勢で延々と酒を飲んでるパーシヴァルがいた。腐れ縁が続いて、最初の出会いから既に2年が経っている。相棒、なのだろう。一人でいた時には酔いつぶれるなんてことはなかったので、俺は随分とこの男に気を許しているらしい。
「俺が寝てる間に何かあったか?」
「おかねぬすまれそうだったから、とめといた」
相変わらずたどたどしい口調で「そこ」と指差す方向に目を向けると、ドワーフみたいなことになっている男たちが積まれていた。なにこれ、どうやった。
パーシヴァルに視線を戻すと、また黙々と酒を飲む作業に戻っている。支払いどれくらいだろうか。いや、金なら無駄にあるけど。魔法使い二人組みだし。
「なんでお前そんなに酒強いんだよ…あー・・・あたまイテエ・・・」
「おかーさんが、おやつにくれた。あたまいたいの、だいじょうぶ?」
「・・・あ、熟れた果物か・・・。だいじょばねーよ・・・クソッ、安い酒だなあ!」
「うん、やすいね」
「あああああイッテエえええ!!」
「くすり、のも?」
「薬嫌い!」
「わがまま」
「ですよ!知らなかった!?」
「しってる」
頭痛に翻弄されて唸っていると、「かえろ」と一本背負いの一歩手前の体勢で担がれた。腕が痛いのでもう少し優しくしていただけませんか!と言いたいが、わけあって俺の右腕は他の魔法使いとはちょっとばかし違う。触れたらスライムのドロドロのように高温で流動する何かか表面を這い回る仕様になっているので仕方ない。
「あー・・・宿とってたな、そういえば」
「べっどでねるの、ひさしぶりだね」
「まあ、そろそろ夜明けなんだけどな」
「名前がおきなかったから」
「すまん」
「いいよ」
基本的に嫌われ者な魔法使いは差別されまくりだ。宿屋も俺たちがきたら急に満室になる。俺の腕は隠せないこともないが、パーシヴァルはもうどうしようもないので実に数ヶ月ぶりの宿屋である。今までは野宿か、魔法使い達がみんなでこつこつ作った隠れ家で寝ていた。あれ、涙が。
「きょうはやすみにしよう。ね?」
「すまねえなあ」
「きにしないで」
聞く気がなかったこいつの過去も事情も、話す気がなかった俺の過去も事情も、二年も経てば包み隠さず全て伝え合っている。酒に飲み込まれていまだはっきりとしない頭で「俺は恵まれている」と思った。右手と違い体温のある背中に、「幸せだ」とも思った。
自分の右腕がどろりと融ける感覚がある。誰かの魂が叫ぶ。「ゆるさない」と、
ああそうだ、幸せになってはいけなかったな。
「名前、ねむい?ねていいよ」
「ありがとよ」
魔法使いってのは、碌な生き物じゃないなあ。
右腕が重い。
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