わたしあなたのしにがみ
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ちなみに下手人の首はとんだ。それだけ重要かつ名誉なお仕事ということだ。
母は生後3ヶ月の俺と産まれたばかりのレオナを交互に抱いて乳を与え、俺もレオナももりもり成長した。生きた女の乳に毒をいれることは不可能でも、それに呪いを付与することは出来る。ある程度解呪に長けた家柄だったが故に、俺も大きくなれたんだと思う。
ファレナ様の乳兄弟は赤子の時点で毒で死んでるらしいしな。こうやって同時に乳を与える事により、王族にのみ与えられる守護の守りがない乳兄弟が先に死ぬ。それを見て毒か呪いか判断ができるってことだ。俺は運が良かった。
ガキの頃の3ヶ月差ってのは大きくて、レオナは俺より小さかったし、俺は頭があまり良くなかったので『乳兄弟』という言葉の『きょうだい』だけ聞いて、完全に自分の弟だと思い込んでいた。一方レオナは生まれた瞬間から賢かったので全部わかってた上で、ファレナ様に対する意趣返しのように俺のことを「オニイチャン」と生意気な口調で呼ぶこともあった。騙すな、無垢な俺を。
さすがにしばらくしたらレオナの兄はファレナ様、しかし俺の兄はファレナ様では無い。なぜ……? という疑問から真実が分かったが、もう少し俺が大きかったら何らかの罪に問われていたからな?
本来用意されていた高位貴族の乳母ではなく、乳兄弟も丈夫なだけが取り柄の頭も良くない位も低いガキ。レオナ本人は賢く美しく強くという目立つ弱点のない人間だったので、見える弱点の俺はそれはもう攻撃された。貴族特有の回りくどいネチネチした感じの批判にハイハイお勉強になりますどうもありがとうございますと頭を下げて、毒や呪いでちょっと死にかけてはレオナにバレないように治して。
レオナを疎んじる奴らだけではなく、ファレナ様も戴冠前でワンチャン狙いのギャンブラー共が俺の立ち位置を妬んで純粋に嫌がらせをしてくることもあった。「王族って大変だよな」とレオナにいうと「クソみてえなもんだろ」と王子様らしからぬ発言で笑っていたっけ。
で、王立エレメンタリースクールの二年生になった頃。レオナは家庭教師で勉強をしているので、俺だけで通っていた。
そしてここでも一部で俺の扱いはあまり良くなかった。嫌われ者の第二王子の乳兄弟だからか、爵位も低いくせに第二王子の乳兄弟だなんて生意気だからか。どちらかは分からないが、毎日地味にイヤミを言われて俺もくさくさしていた。
その時言われたのは「随分立派な鬣をしているが、第二王子を立てる気は無いのか」とか、そういうかんじ。
血筋的に髪がすぐ伸びるせいで、その時の俺はレオナよりも髪が長かった。この髪を鬣というあたりも、自分で言うならまだしも他人が言えば獣人へ対するある種の差別なんだが、同じ獣人が言ってるあたり品性がねえなあと思ったくらいだ。
なーんも気にしてなかったが、確かに乳兄弟である俺が、一部と言えどもレオナより目立つ部分があってはいけないだろう。お道具箱からハサミを出してその場で切り落とした。涼しくて首元がスースーして最高! もっと早くやっとけば良かった! って家に帰り、兄は卒倒して、父母は泣いた。俺がエレメンタリースクールで虐められてると思ったらしい。
いつものように俺を王城へ呼び出したレオナも、同じ感想を持ったようだ。
ここで初めて知ったんだが、俺にはレオナが個人的に付けた影の護衛がいたらしい。もちろん影なので、よほど命の危険がないと出てこない。だが、俺が何を言われどういうことをされているかは基本的にレオナのところに情報がまわっていた。基本的に、というのは、毒や呪い関係のことは秘匿されているからだ。それはもっと上、国王のところにまわされて処理される。
何が言いたいかと言うと、俺が自分の手で自分の髪を切り落としたってことを『レオナは知っていた』という事だ。
第二王子の為の離宮にある、とてつもない厚遇でほぼ俺の部屋と化してる一室。そこでいつものように寝ていたら、腹のあたりをまさぐられて目が覚めた。また人のベッドに潜り込んで来たのかと思ったが、いつもの事なので気にせず布団の中に招き入れようとした。みゃあう、んにゃ、みゃーみゃ。子供だけが出す甘ったれた声と、ぐるぐると喉を鳴らす音。随分ご機嫌だなあと思って、寝ぼけまなこで「いいことあった?」と聞くと「どうでもいいことならあった」と言葉遊びのようなものを返される。あれ、風呂上がりか? 王族が使うシャンプーの香料が鮮やかに香って、なんでこんな時間に風呂に入ったんだろうと疑問を感じたが、眠かったから寝た。レオナのご機嫌なぐるぐる音が丁度いい振動でよく眠れた。
で、朝。
自室にいなかったから当然ここだろうとレオナを起こしに来たメイドの悲鳴で覚醒。腹の上ですやすや寝ていたレオナを抱き抱えるようにしてタオルケットを巻き込んでベッドから墜落。自分の腹の下に隠して「グルルル!!」と唸り散らかしていたら、その腹の下から「ははっ、暴れんなよオニイチャン」と楽しそうな声をあげられた。
メイドが呼んできた兵士の声がある程度信頼している人のものだったので、レオナを隠したままゆっくりと顔をあげる。俺たちじゃなくて、テーブルの上を見ていた。また毒蛇とか嫌がらせのプレゼントかもしれない。改めてレオナをタオルケットで包んで抱え込んで、「何があるんですか」と声を掛ける。
メイドはともかく、後から来た兵士は俺たちに気付いていなかったらしく驚いていた。その手の中に、灰に近い茶色いものが見える。
「俺からのプレゼントだ。喜んで受け取れよ」
満足気なレオナの言葉に、気の弱そうなメイドが卒倒した。ああまた嫌われ者の第二王子列伝が色をつけまくって流布される……。
兵士が持っていたのは、耳と尾だった。すごく見覚えがある。俺に嫌味を言った、あの教師のものだ。
「嫌がらせのプレゼントの方か……」
「可愛いオトウトの愛だろうが」
甘ったれた、みゃおうという甲高い声で胸に耳を擦り付けてくる。におい付けしてる場合か。
人間で言うところの実質的な死刑だぞこれ……。
「お前は俺のものだろう? 王族の、第二王子様の私物を勝手に壊すなんて、許されねえよなあ? 王家に対する反逆の意志ありだ。
悲しいなあ。悲しくて悲しくて涙が出そうだ。俺はそんなに、舐められて良い存在か?」
タオルケットぐるぐる巻きで俺に抱えられてみゃんみゃん言ってるくせに、兵やメイドに対してうっそり笑って圧をかける。だから怖がられるんだぞとため息をついて、「あーーー……これはレオナ様から頂いたものだ。驚かせて申し訳ない」と、俺が頭を下げた。
レオナ一人でこれができるわけは無い。これは王の許可が降りている、見せしめの制裁だ。それは頭の悪い俺にもわかったので、この世の大多数の俺より賢い皆様にも伝わったらしい。それから俺は表立って嫌がらせを受けることも無くなり、俺より頭の悪い珍しいやつに何かを言われたらノータイムでレオナにぶん投げるようになった。あれは俺に対する制裁でもあったので甘んじて受け入れておく。
俺が我慢すると、俺のせいで誰かが死ぬというシステムを作ったレオナは、今日も俺の腹を枕にして寝ている。可愛いやつだよ。まったく。
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