きみしかしらない


レオナがマレウス・ドラコニアを嫌いに嫌いまくっているのはわかっているが、なにぶんクラスが同じな上に「2人組を作れ」系の指示で毎回必ずポツン……と一人ぼっちになってるのを見ると可哀想になってしまってペアを組んでやっていた。
去年までは学年も違ったので、たまに他学年合同で被った時だけだったのが、今年からは学年まで一緒になってしまったせいでほぼ固定ペアだ。これはレオナの責任もあるので俺ばかり責められても困る。レオナが大人しく進学してくれたら、俺も進学できていたんだぞ? 気軽にだぶるな。

「トカゲくせえ」
「そりゃ隣にいるからな」

人の頭に顎を乗せてグルルルルと不機嫌に喉を鳴らしているが、人体の構造上耳にダイレクトでお前の唸り声が届くんだよ。

現在、ペアを作って実験とレポートの最終確認段階だ。俺は何回もやった事だし、ドラコニアは優秀なので誰よりも早く終わらせようかというタイミングで、のそのそとレオナがやってきた。

「キングスカラーはこの授業ではないはずだが」というドラコニアの言葉を完全に無視している。というか、存在を見ていない。ただただ俺の頭に顎を乗せてぐりぐり抉ってきている。

「俺は関わるなって言ったよなぁ? なに逆らってんだ?」
「だってこいつ、2人組作れってやつになるといつもボッチじゃん」
「お優しいなぁオニィチャン?それは俺のもんだろうが、ふざけてんのか」

レオナはドラコニアが嫌いなので、馬鹿にする手段がないうちはわざわざ関わることも少ない。俺がここにいるから渋々出てきたが、ドラコニアから見たら珍しい光景だろう。切れ長の目がいつもより大きく開いて俺たちを見ている。

「悪いなドラコニア、こいつ甘えっ子で」
「てめえ!!」
「いたいいたい」

嫌いな奴の前で子供扱いされたと怒るなら、子供扱いされるようなことをしないで欲しい。いつものようにがぶりがぶりと肩口を噛まれて、あーもう仕方ないやつだなと押さえつけるように頭を撫でる。


「そうか、キングスカラーにも可愛いところがあるな。しかし怪我は痛むだろう、治してやろう」


何かを考えた様子で頷いたドラコニアが指先を振るった。こいつレベルになるとこの程度の魔法はマジカルペンも必要としないんだなと思ったと同時に、俺の身に何が起こったのか分からないがとんでもない『嫌な予感』が本能を突き刺す。

「てめえ!!」

背後から制服を乱暴に捲りあげられて机につんのめった。レオナの絶叫のような怒声が響く。ああ、もしかして、治された?


「やめろやめろやめろ!! 誰かカラスを呼べ!!!」


無差別にレオナのユニーク魔法が飛び交い、首を軽く傾げたドラコニアが「なぜ怒るんだ」と火に油を注ぐ。俺は悲鳴をあげて逃げ惑う生徒たちに防御魔法をかけながら、ここにある貴重な資料達が砂になるのを必死に護り続けた。バカお前、バカ!!

ドラコニアが親切心で俺にかけた魔法は、レオナが今まで俺に刻んできた噛み跡やらなにやらを全部消し去った。善意の気持ちでレオナの地雷を丁寧にひとつずつ踏んでいくのはやめてくれ。その爆発で俺の手足が飛ぶんだ。

ちなみに、学園長は来たがなんの意味もなかったので、今後の人生でこいつに期待するのはやめておくことにした。今まで一度も期待はしてなかったが、本当に役に立たないとは思わなかった。




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今日も今日とてドラコニアはボッチだし、先日のあの事件のせいで俺の両肩も背中も新鮮な傷跡で地獄絵図だ。ラギーからは「これはDVッスよ。出るとこ出て貰えるもんもらいましょ。オレ証言しますよ」と、マドルを示す下品なフィンガーサインで説得されたくらいだ。
俺の傷が跡に残るまで、レオナはずっと拗ねてるし不機嫌でサバナクローの空気はおしまいになっている。ほんの少しの善意のせいで、最悪なことになってしまった。

「ナマエ、あの後調べたんだが」

授業中に珍しく、ドラコニアが小声で話しかけてきた。教師にバレないように「なに?」と続きを促す。

「あれはキングスカラーの『マーキング』というものだったのか? 元に戻すことは出来ないから僕からナマエにつけた方がいいのだろうか」

ドラコニアは口をパカリとあけて俺を見る。副音声で「噛んでいい?」という言葉が聞こえた気がした。このド天然プリンス……戦争を……起こす気か……?

「あれは噛み跡がついてればいいんじゃなくて、誰がつけたかに理由があるからやめとこうな」
「そうなのか。獣人は難しいな」
「妖精ほどじゃないよ」

仮にドラコニアが俺の肩口に噛み跡を残したら、俺は肩ごと肉を抉られるし、その足でレオナがドラコニアを殺しに行くだろう。今でさえ嫌悪が殺意に寄ってるんだからやめて欲しい。宥めるにもテクニックがいるんだ。

ドラコニアの視点がゆっくりと俺の背中に向かう。

「おしゃれか、似合うぞ」
「ありがと」

しっぽを振って、尾の先に結ばれた黒いリボンを揺らす。なんの迷いもなく鷲掴みにしようとしてきたのでサッと避けた。やめろ、チェカ様でさえ勝手には触らないぞ。

10の時に刻まれたおまじないが妖精の王によって解除されてしまったので、また新しく刻まれた。うなじはじくじくと痛むし、俺は今後二度と尾のリボンを外せない。

「あんまりレオナを虐めてくれるなよ」
「む、僕はそんなことをしない」
「はいはい、そうね」

あの傲岸不遜の第二王子が、しっぽをぐるぐるに結んで絡めて、うなじに噛み跡を刻んで、子供のようにみゃあみゃあぐずりながら泣いているなんて誰も知らない。
俺はここにいるのに、どこにも行くなと縋って泣く男のことなんて誰も知らない。
「護ってやるからな」と背中を撫でさすってようやく目を閉じる男のことなんて、誰も知らないんだ。

そんな面倒な男のことを、心底可愛いなと思う俺のことだって、誰も知らない。


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