お前以外がやったら殺す
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その結果、フロイド・リーチが俺の横でびゃあびゃあ泣きじゃくるに至ったんだが、何がどうした? ええ……芋、食べる? しぶしぶ渡そうとしたのに「いらねぇし!!」と全力で叩き落とされて炎の中に転がり落ちて行った。なんてことするんだこの野郎。
フロイドとは一年の時に突然「歩くの飽きた!! お前、運んで!!」と謎の宣言を受けて、引きずり倒して連れて行ってから懐かれた仲だ。手段の指定はされてなかったので階段も足から逆さまにしてのぼってやったが、こういう奴は多少痛い目にあった方がいい。
「優しくしろよ!!」
「優しいから運んでやってんだありがとうって言え!」
「あんがと!」
「どういたしまして!!」
これで懐かれるとは思わないだろ。いや、本当は飽きたんじゃなくて靴擦れが酷くて動けなくなってたのを、結果的に助けたらしいけど……。
俺としては初対面でワガママぶっ込んできたクラスメイトに対する罰くらいの、気軽な暴力だったんだけどな。
それから一時期、水草ばかり食ってそうな海獣の名前で呼ばれたので全部無視して俺のことは名前で呼ぶように躾けた。俺はナマエ・ミョウジだ二度と適当なあだ名つけるなよ……。と、威嚇したら素直に「ナマエ」と呼んでくるようになった。なんでだろうな、わからん。陸で最初に構ってくれたクラスメイトだから特別に見えたとかそんな感じだろう。
陰謀暴力詐欺傲慢が座右の銘であるオクタヴィネルマフィアの中でトップ張ってる癖に、俺にはそこそこ当たりが柔らかい。正直助かる。フロイド・リーチの気まぐれ不機嫌を完全無視して「俺がお前の機嫌を取ってやる筋合いは無いので……」と置いていっても、「もーー!!! なんでえ!!! どうしたのって聞けよお!!」と追いかけてくるくらいだ。俺と同じ対応をしようとしたやつは全力で蹴り倒されて肋骨持っていかれてたので、本当なら俺は2、3回殺されてたかもしれない。最初にフロイドを逆さで引きずり倒して良かった。
俺はフロイド・リーチにとって、気まぐれに話しかけて楽しい程度の友人寄りの知人なんだろうなあと思っている。これくらいの人間関係の方が気楽でいいよな。たまにススッと寄ってくるジェイド・リーチに「フロイドをよろしくお願いしますね」と言われるのも「荷が重いからイヤ」と普通に断って、それでなんの報復もないからこれでいいんだろう。フロイドもやばいけどジェイドもやばい奴だからな、断ってもニコニコ笑って『盛り上がってまいりました』みたいな顔をしている。
それで、今日の午前だ。
「ねーねー、陸ってこういうのやるんでしょ。ナマエにあげる」
「いらん」
「なんで!! いいから受け取れよ!! ワガママばっかり言うのやめろ!!」
「遺憾の意だわ。なにこれ、こわ……」
「怖くねえから! あげたからな!! じゃあね! 昼は絶対ラウンジ来こいよ!!!」
押し付けるだけ押し付け、言うだけ言ってフロイドは去っていった。足がなげえから速い速い。秒速何キロ?
渡されたのは白い封筒だった。赤いハートのシールとオシャレなレタリングのサインが入ってる。はぁ……? 魔法解析を掛けると微かにだが反応がある。てめえこの野郎、やりやがったな。俺はそこそこ賢いから覚えているが、一年の時に古代呪文語の授業で習った『相手が読んだら発動する』タイプの呪文を思い出していた。ぜって~~~これ。それ以外ない。は? これ死ぬ系のやつじゃん。てめ~~~~!!
という訳で、実家から送られてきた芋を焼く種火にした訳だけど「なんでラウンジ来ねえんだよ!」とブチ切れながら探しに来たフロイドに現場を目撃された。「ひどい」と呟いて俺の隣で体育座りをしながらわんわん泣いてる。火種から芋が焼けるまで、50分くらいかな? ぐすぐすわんわん泣きじゃくってる。なに? やっぱ芋食う? わざわざ隣で泣くあたり慰め待ちだけど、俺は絶対慰めねえからな。
「や、焼かなくて、いいじゃん! 受けとんなきゃ、良かっ、た、じゃん!」
「断る間もなかっただろ」
「断んなよ~~~~!!! わぁーーーん!!」
「ええ……うるさ……」
「わ"ーーーーーーーん"!!!!!」
「やめろやめろわざと人魚の声帯使って音を拡散させるな」
俺頑張って書いたのに、ラブレター、書いたのに。好きって書いたのに。ぐっちゃぐちゃになりながら呟かれる恨み言を拾い集めたら、どうやらあの呪いの手紙はラブレターだったらしい。なんで? お前の俺に対する甘さって好意だったの?
はあ~~~? 知らんかったわ、言えよ。
一度声を張り上げて力尽きたのか、フロイドは体育座りをしてぐずぐずと鼻をすするだけになった。
「ふーん。『ナマエ・ミョウジ様へ、あなたの事が好きです』」
「……は?」
「『卒業したら一緒に海に行きましょう。私のつがいになって、ずっと一緒にいてください』重くね?」
「は、え、なんで、だって燃やしてたじゃん」
「不思議だなあ。うわっちぃ! ギリセーフだったか……」
手の中で燃えてまた灰に変わった手紙を、フロイドが呆然と見ている。たいしたことはないがいろいろ悪用できる素敵なユニーク魔法の効果だ。『物を一時間前の状態に戻す』【今】この瞬間からの一時間前なので、あともう少し遅かったら炎しか出てこなかったな。マジで完全犯罪に巻き込まれそうだから、オクタヴィネルマフィアのこいつには今まで教えていない。
「なんでこれに魔力込められてたんだよ」
「だって、陸の本に、血をインク代わりに使ったら恋が叶うって書いてた……」
「エレメンタリースクールで一度は流行るやべえおまじないの本読んだだろ。捨てろ」
「やべえの?」
「やべえよ、だから芋と一緒に焼かれたんだぞ」
人魚の血を使ったら、そりゃ魔力も篭もるな……。結局とんでもないものを渡されたのは間違いない。
「じゃ、血ぃ使わなかったら、燃やさねぇ?」
「おう」
「俺があげるって言ったら、ありがとうって言ってくれる?」
「言ってやる言ってやる」
「謝って」
「ラブレター燃やしてごめんなさい」
「ぜって~~~~許さねえ!! ばーーか!!!」
「てっめ」
秒速何キロ? の勢いで走り出したフロイドは俺の事をバカバカ言いながら笑っていた。あいつが弱ってるとなんか落ち着かないんだよな……。
足元に不自然に落ちている灰を指で撫でると、すぐに地面に混じって消えた。さっさと部屋に帰ろう。焼けた芋を包んで立ち上がる。
「ええと、『フロイド・リーチ様へ』……」
フロイド・リーチ様へ
あなたの事が
ラブレター燃やしてごめんなさい
ナマエ・ミョウジより
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