相互理解は難しい


ぎゃははははは!



うるさい……。不快な気持ちで目覚めると、視界の端にサバナクローの寮服が見えた。ああ、また寝てしまったのか。
運良く影になるところで倒れていたので、彼らにはバレていないようだ。このまま起き上がって出ていくと絡まれるだろうか。寝起きのぼんやりとした頭では手加減が難しい。警棒を手に、上体を起こす。

「ばっか、抜かず三発くらいは余裕だろ〜!」
「早漏なんじゃねー? そんなん3時間くらいかかるじゃん」
「お前が遅漏なんだろ、なんだよ3時間って! どんだけ腰振ってんだよ!」

「…………」

「うおっ、てめえディアソムニアの……」

「一晩で5回、4時間強はお前たちから見ても多い方なのだろうか」

「それは……やべえよ」
「可哀想だよ、やめてやれよ……」

そんなに絶望的な目をする程の事なのか……。「やめない」とだけこたえて立ち去ろうとすると、背後から「擦り切れちゃう!」「虐待だぞそれは!」という悲鳴じみた声が聞こえた。こういうのは部外者ではなく、当事者の意見を聞かないといけないだろう。ローションという文明の利器のおかげで擦り切れたことは無いし、彼ら獣人と人間の肉体の作りが違うのかもしれない。




「……というわけで、このような意見を聞いたんだがナマエはどう思う?」

俺が聞くと、恋人はゆっくりと頭を抱えた。苦悩しているとわかりやすい動きだ。どうしたんだろうか。

「お前は自分がかなりの性豪という自覚が無かったのか……?」

その目は信じられないものを見るように俺をみつめる。そんなに見られると恥ずかしい。胸が高鳴るし、腹の奥が切なくなる。

「……不都合があるのか?」
「俺が大変」
「嫌なのか……」
「嫌ではない」
「では不都合はないな」
「まあね」

気持ち良いことは好きだ。ナマエの中身が俺の中に溶ける感覚は他に変えがない。普段言葉の少ない男が、愛してると言葉に出してくれる。痛みよりも快感の方が勝って、頭の中身がぜんぶぐちゃぐちゃになっていく。
強く抱きしめられる度に、俺はナマエの大切なものなんだと理解させられる。これの何が悪いんだろうか。気付けば時計の針が勝手にぐるぐる回って、使われたゴムの残骸が足元に落ちている。1、2、3、4、俺の中に、5。

きもちいい、うごけない、そうやって甘えるとナマエが甘やかしてくれると学んでしまった。俺はナマエにダメにされた。身体を清められて、あちこちにキスをされて、幸せだなあと思いながら睡魔に引き摺られる。

「ねむい」
「俺も。よーちよち、ねんねしなあ」
「ナマエ、うるさい」
「てっめ」

ナマエの脇腹に頭を押し付けて安定感のある場所を探す。あちこち撫でられるとまた身体が熱くなるから、もう眠いから、触らないで欲しい。

「ベッド扱いじゃん。お前もしかして俺とヤること、効率的な全身運動とか筋トレとかだと思ってないか……?」

……その発想は無かった。言われたら、全身運動だ。筋トレにもなるだろう。しかも気持ちいいし、ナマエが愛してると言ってくれる。俺だけでは思いつかなかった良い考えだ。

「そうか……区切りよく10回はどうだ?」
「え、今『お前を殺す』って言った?」
「言ってない」
「要約するとそうなるんだよ。お前マジで人間? 八割くらい妖精混じってたりしない?」
「純人間だ」
「いや〜10回は無理です物理的に。5回以降道具使うんなら手伝えるけど」

手伝えるってなんだ。突然突き放すように酷いことを言われて悲しくなった。腹いせに脇腹を軽く噛むと「いてえがよ」と軽く叩かれる。ひどい。お前が悪いのに。

「……俺はお前とだから、こういう行為をしているんだ」
「うそ……なんで被害者ヅラしてるんだこいつ……お前レベルの性豪にここまで合わせてるのは俺の愛だぞ……」

擦り切れちゃう、虐待だぞそれは。昼間にあった彼らの言葉が蘇る。もしかしたら、俺はナマエの言っている通り他の人より性欲が強いのかもしれない。あまりこれ以上を求めたら、疲れてしまって嫌われてしまうかもしれない。本当は嫌だが、とても嫌だが、ナマエの提案だ。いつもわがままを聞いてもらっている身、俺もナマエのわがままを飲み込もう。

「作るとなると本気で挑みたい。ものづくりの妖精に依頼するからサイズを測らせてくれ」
「強メンタルモンスターか? 定規を持って俺の股間に近づくな」
「ナマエが言ったんだろう……!」
「言ったけどさあ! なんでお前五回戦後に機敏に動けんだよ! プロの捕縛術で襲うな! あーー!!」
「勃起させてくれ、正しいサイズが分からない。困る」
「この状態で!? 勃起!!? 無理ですが!」
「困らせるな」
「お前ほんともはや早朝だぞ! 俺の献身と愛を自覚して良い子に寝てろ!!」

失礼だ。俺はナマエの献身も愛もしっかり自覚している。その上でナマエの提案に乗っただけだと言うのに、なぜ抵抗するんだ。

眠れと言われたからか、また睡魔が手招きしてくる。あと少し起きていられたら、正しいサイズが測れそうだったのに。


ぐらりと揺れた身体はしっかりとした腕に支えられた。それに安心して、目を閉じる。


「とんでもないやつだけど、好きなんだよなあ……」というナマエの困ったような声。俺が起きてる時に言ってくれたらいいのに。「俺も好きだ」とこたえたいのに、続きは全て夢の中に消えていった。


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