カルシウムタンパク質ビタミンマグネシウム


エレメンタリースクールのオレは、髪は結べるくらいに伸ばされて服もフリルとかついたかわいい〜かんじのやつ。ピンクや黄色のワンピースっぽい上着に、レギンス。バカみたいな顔したユニコーンのビーズがついた靴下。もちろん全部親と姉ちゃんたちの趣味。

オレが嫌だっていうと悲しそうな顔するから、だんだん抵抗するのも面倒になってきてなすがままそういう感じに過ごしてた。ほんとはシンプルで格好良い服が着たかったけど、「似合わない」って言われるから悲しいし。あれってちょっとした虐待だよなって今では思う。愛されてるのは確かなはずなのに、センスが合わないせいで苦しかった思い出。
オレがそういう『可愛い』格好ばかりしてたし、家で「けーちゃん」って呼ばれてたから、低学年の頃の一人称が「けーちゃん」になってたせいもあって、オレのことを女の子だと思ってる人が結構いた。だからたぶんナマエくんも、そう思ってる。

マジカルペンを顎に当てて宿題をしてる後ろ姿をこっそり見る。ちょっと跳ねた髪は昔と変わらないなあとか、昔はオレよりずっと小さかったのに今じゃそんなに身長変わらないんだなあとか、見て分かることしかわからない。

ナマエくんはエレメンタリースクールの3年生の頃に引っ越しちゃった。その時、オレを公園に呼んで「俺の恋人になって」って言ってくれたのに、NRCで会えたのに、なんにも言ってくれない。
だからオレはナマエくんの、見える情報しか持ってないの。調べればいくらでもわかるよ。マジカメのアカウントもあるって知ってる。でも教えてくれないから、見れない。

オレ、ナマエくんが引っ越しするっていうのは分かってたけど、転校するなんて知らなかったから「おおきくなったらね」って言ったんだ。「約束だよ」って手をぎゅっとして、次の日にいなくなられるなんて思ってもなくて。
おおきくなったら恋人になろうねって約束したのに、嘘つきってわんわん泣いたことを覚えてる。オレ、ずっと一緒にいると思ってたんだよ。ずっと一緒に、大きくなるって思ってた。それしか想像してなかったから、本当に悲しかったなあ。

ナマエくんはオレのこと、忘れちゃったんだろうなあ……。

だって大きくなったのに何も言ってくれないし、けーちゃんとけーくんはイコールじゃ繋がらないってわけなんだろうな。
好きな子いるっていってたし。
「可愛い子」がいいらしいし。
今のオレ、前と違ってかわいい格好してないし。
嬉しくってずっと待ってたオレがバカみたい。

運命みたいってはしゃいでたオレ、バッカみたい。

もういい加減、こんな黒歴史みたいな初恋を忘れたい。ナマエくんに好きになって貰えるなら、オレ、ずっと『けーちゃん』でも良かったなって。あのバカみたいなユニコーンのビーズがついた靴下。あれ履いたままでも良かったよ。好きになってもらえるなら、なんでも着たよ。おもしろーい、かわいいーって言ってくれたから、あのダサい靴下が一番のお気に入りだったんだよ。全部忘れられてて、意味なんてないけど。


「いま何センチ?」

どこから誰が誰に話しかけたのか、咄嗟に分からなくて突っ伏していた机から慌てて顔を上げた。ナマエくんがオレを見てる。「何センチ?」と重ねて聞かれて、答えなくちゃってあたふたする。

「へ? なにが?」
喉の奥でひっくり返った変な声。すごく恥ずかしいけど、ナマエくんは気にした様子がない。気にするほど、興味が無いのかな。またちょっと胸がギチギチ痛くなる。話しかけられて嬉しいのに、嬉しいだけでいさせてくれないから悲しい。

「身長」
「176だったはずだけど……」
「あと1センチまできた」
「なにが?」

「大きくなるまで」

……?
おおきくなるまで。
ナマエくんが言った言葉を何度も反芻する。まさか、もしかして。
オレがこんなに混乱してるのに、ナマエくんは「あと1センチ」と嬉しそうに節をつけて前を向いた。いや待て勝手に話終わらせないで。肩を掴んで顔を戻す。びっくりした顔は昔と同じなんだ。

「あの……けーくんがけーちゃんだと、お気づきで……?」

何言ってんだという顔で頷くのやめて。まさか。そんな。『大きくなるまで』って、オレの身長よりってことだと思ってたの!?

「ナマエくんオレのことスキ!?」
「うん」
「はいオレも好き付き合おうハッピーエンド」
「え? え? どした?」

両肩を掴んでガタガタと揺する。なに被害者みたいな顔してんの! オレの方が酷い目にあってるからね!?

「学生生活短いんだよ! なにしてんの!オレ、大きくなるまでって年齢の意味で言った!! ナマエくんがでかくてもちいさくてもどっちでもいいよ! 18歳は、大きいです!」
「そうなの〜〜!? 言ってくれよ! 体のいいお断り言葉、掴み取った言質で捩じ伏せてやろうと思ってた!」
「ちょっと、ああもうそっち行く!」
「うおっ!」

机を飛び越えてナマエくんの隣に座る。ノートとスマホを出して、オレの予定が空いてる日を書き出した。「ナマエくんも空いてる日教えて! あとマジカメのアカウントフォローしたからフォロバして今すぐ!」「あいあいさー!」「適当に返事しないで!」ああもう、なんで言ってくれないかなぁ!? オレ、ずっと忘れられてると思ってたしちょっと泣いたりしたのに!

空いてる放課後を全部使って、麓の街から遊園地水族館、三年間無意味に過ごしていた間に行きたかった定番デートをはしごした。シーズン的なやつはできないけど、それ以外は全部。お金があっという間に消えて、マジカメの更新が捗りまくる。デートっていうか、スポーツみたいで、疲れきってぐったりしながら一応の目標を全てクリアした。

「……ナマエくん」
「なにー」
「オレいま可愛くないけど、好みから外れちゃった?」

デートの時も可愛い格好とかしてなかったけど、格好良いけーくんだけど、可愛いけーちゃんじゃなくなったけど、まだ好きでいてくれる?

「何やってて何着てても俺にとっていちばんかわいいよ。ケイトが欲しかったから、早く大きくなりたかった」

「……一言いってくれたら、もっと早くナマエくんのものになれたんだけどね」


結局オレ、格好良いじゃなくて可愛い扱いなんだよなあって思うけど、なんだかんだで子供の頃から評価の根底に『かわいいはさいこう』があるから、全然嫌な気持ちにならない。オレってナマエくんにとって、かわいくてさいこう。


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