攻撃開始 一斉掃射
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NRCに入学が決まって、ハーツラビュル寮に入った時には喜んだものだ。お茶会があるっていうなら、きっと俺の好きなおやつもでる! そう無邪気にわくわくしていたが、実際は全然違った。俺の好きな、どこに出しても恥ずかしい素朴すぎるおやつはお茶会の端っこにもない。
端っこにあるのはマカロンだし、クッキーもケーキもプロ顔負けの本格的なものが並んでいる。というか、プロがいた。ケーキ屋の息子が指揮を執って作ってるなら、そりゃこうなるよなあ~~~って諦めたので、俺の食べたい俺の好きなやっすい適当クッキーは、個人的に作って個人的に食べることにした。
ケイトは「甘さ控えめでおいしいよ☆」と褒めてくれるし、最近オバブロを経て優しくなったリドルくんも「君はお菓子作りが上手なんだね、次のお茶会に出してくれるかい?」と社交辞令を言ってくれる。エーデュース with オンボロ寮コンビも「母さんが作ってくれた味です!」「なつかし、たまに食べたくなるやつ」「糖分! 糖分! カロリーうっめ!」「おかわり欲しいんだゾ! あと土産分!」と喜んで食べてくれる。
メインにはならなくても付け合せくらいの立ち位置なら、お茶会に置いてもいいかも……一瞬血迷ったが、目の前にずいっと差し出された見事なビスキュイロールケーキを見て現実に戻った。いやいや、付け合せにもならない。粉砕してもこいつ素材にもならない。
ビスキュイロールケーキの向こうには、にこにこと笑っているトレイがいる。
「ナマエ、俺には?」
「ばっか、本職に食わせられるようなもんじゃねえよ」
「これの最初の一口と交換はどうだ?」
「いやいや、それこそ無理だろ。リドルくんにやりな、楽しみにしてんだから」
お前絶対食べたあと「こんなもんか」って顔するだろ、その肥えまくった舌に対応出来るようなもんじゃないからダメで~~~す。
クッキーの最後の一口を俺が食べて、キッチンから抜け出した。余は満足じゃ。
週に一回くらいこうやって食べたい気持ちになるんだよな、と言っても作って満足するんだけど。
「トレイが風邪ひいた? 誰の恨みを買ったんだよ」
「なんで君はすぐに呪いだと思うんだい? トレイも人の子だよ、弱る時は弱るさ」
「あいつ哺乳類だったんだ……」
「そこから?」
いや、さすがにそれは冗談。何故か今日1日姿を見ないなと思ってリドルくんに聞いてみたら、想定外の言葉が出できてついふざけてしまった。いや、でもあの健康優良児が風邪を引くとは本当に意外だ。
こんな機会そうそうないから見学に行こう。意気揚々と部屋をノックして「トーレーイくーん、あーそーぼっ」と声をかけると、「[D:12436][D:12436]……」と凶悪な唸り声と共に鍵の空いた音がした。キレてるのか調子が悪くてどうでも良くなってるのか分からないな。とりあえず部屋に入る許しは得たのでお邪魔すると、いつもの整頓された部屋と違い、点々と服やらペットボトルやらが落ちてるので、本当に具合が悪いらしい。あらやだ制服シワだらけじゃん。
マジカルペンを振りながら目につくところを片付けたりなおしたりしつつ、ベッドに向かう。布団の中で顔を真っ赤にしたトレイがぐったりしていた。本当に具合が悪いんだ……。こいつも血の通った人間だったんだな……。
俺が覗き込んでいると、うっすら目を開けて口をはくはくと動かしてくる。
「なに? 水持ってくる?」
「くっきー」
「は?」
口の中パッサパサになって死ぬが? 突然どうした。なんの妄言だ。俺が何も言わないでいると、トレイはぐずりだした。マジで? 泣くの?
「クッキー、俺も食べたかったのに」
「お前が作ったやつの方が100万倍うまいってえ」
「当たり前だろ。どれだけ手間隙かけてると思ってるんだ」
「おお……」
「ナマエのクッキー、俺も食べたかったのに。お前はいつも俺だけにつめたいやつだ」
シーツを顔まであげてぐずぐずと泣き言……恨み言? を言われる。ええ……こいつほんとに食べたかったのか? あんなもんを?
「一枚もくれなかった。俺だけ……」
「そんな気にしてたの? ホットケーキなら焼いたからそれ食う?」
「クッキーがいい」
「ホットケーキミックスもうないよ」
「振るいにかけた薄力粉 160g、砂糖 40g、ベーキングパウダー 小さじ2、塩 小さじ1/4。順番にボウルにいれる」
「待って待ってメモるから」
なんで分量がスラスラ出てくるんだよ。これが副寮長の力か? 言われた分量をメモに取り、立ち上がる。風邪ひいてる奴は全ての願いが叶えられるからな。仕方ない。
「クッキー……」
「おけおけ、1時間待てる?」
「まつ」
「トレイが好きななんの砂糖漬けだっけ、あの紫の」
「スミレ……」
「おけおけ、じゃあ良い子で待ってろよ」
「クッキー……」
「そんな気にしてたんならその時言ってえ!?」
「おれはいってた……ナマエが聞かなかった……」
「すげえ執念深いな……」
微妙な時間からオーブンをひとつ占拠し急いで焼き上げたクッキーは、いつも通り普通の素朴な味で、なんでこんなもんをほぼプロのパティシエであるトレイがぐずるほど食べたがるのかはわからない。せっかく出来たてを持ってきてやっても、ひとつ食べて「ふつう」と笑って寝たしな。
せめて「うまい」って言えよ、そこはよ。
人の服掴んで爆睡してるから逃げられないし、なんなんだコイツ。
仕方なく俺も隣に潜り込んで寝ることになったけど、俺が風邪うつされたらトレイは責任をとってくれるんだろうか。……とってくれなさそ~~~! 絶対ニコッと笑って流す。こいつ、めんどくさいこと全部嫌いだから……。
「ナマエ、俺に何かしたか……?」
「俺がお前に拘束されてんだよ。嘘だろ、人の腰に抱きついた姿勢で俺の過失疑う?」
「…………」
「やめろやめろ折れる!」
起きたら寝る前よりもガッツリ捕まっててビビった。ほぼゼロ距離じゃないか、なんだこの距離感。
「あ"!」
「いってえ折れるって! 力入れんな!」
「歯磨きしてない……!」
「俺のクッキー食って寝落ちしたからね!」
なんとかこの両腕ムキムキゴリラから脱出しようとするが、足まで絡んできて逃げられない。普通に重いんだよな~~~! なんだコイツはよ~~~!
「ショックだ……物心ついてから一度も歯磨きを怠ったことがないのに……ナマエのせいで……」
「てめーー。心配して見舞いにきてやった俺に対して無礼な」
「面白いから見学に来たんだろう?」
「賢いかよ」
「賢いんでな」
ぎゅむぎゅむと腹を押されて「吐くぞ」と唸ると、パッと手を離された。そのままゴリラから退避。
顔色は元に戻って、さっきまでくっついていた感じ熱も下がってる。いつもはなにか企んでいるような悪い笑い方なのに、今日は珍しく両眉を下げて緩く笑っていた。
「見舞い嬉しかったよ、ナマエは俺の事が嫌いだと思ってたから」
「クッキーを渡さないだけで!?」
「俺だけにくれなかったら、普通そう思うだろ」
毎回理由言ってたのに、それでも!? 繊細さんか? いや、ちょっと繊細なところもあるか……。
「俺、トレイのこと嫌いじゃないよ」
「今日わかった」
「おい三年間同級生。確認すら面倒だったのかお前」
「怖かったんだよ。嫌いと言われたら泣いてしまうから」
「はあ?」
「俺の気のせいだったみたいで良かったよ」
どうしてだろう、朝なのに。窓から陽の光が入って部屋は明るいはずなのに。
「これで安心して、攻め込める」
マスタード色の瞳がギラギラと暗く輝いていた。
「こええよ!!!」
「ははは」
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