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アカウントを見ては戻り、画面をタップしようとしては指をはなすを繰り返して「あ〜〜!」と可愛くない声が出た。
マジカメの、ナマエくんの、いいね欄が、見たい! 怖い!それから三年経ちました!
俺のアップした写真をいいねしてくれる人ってけっこういるんだけど、通知が来る度になんとなく『いつもの人』っていう相手が出来る。毎回じゃないけど、この写真気に入ってくれたんだあとか、やっぱり流行りものって映えるなあとか、そういう傾向ってわかるんだけど。俺の通知にナマエくんのアイコンが流れたことが、無い!
一緒に写ってるものもあるし、デート先の写真もあるし、可愛く盛れたけーくんもたくさんアップされてるのに、ナマエくんはいいねしてくれない!
でも、もしかして俺が寝てる間とか通知が流れちゃっただけとか、可能性はあるじゃん? だからそう信じてたけど、でも、やっぱり気になる。
うだうだ悩みながら、迷う指先を叱りつけてタップして、やっぱりねと机に突っ伏した。
「一枚くらいは俺の自撮りにいいねしててくれてもいいじゃん……俺はナマエくんのぶれぶれの手首だけ写ってるやつも、ちゃんとアルバムに鍵つけて保存してるのに……」
やっぱり。やっぱりね。
いいね欄には俺の写真一枚無くてがっかりしたけど、かわりに美味しそうな料理の画像が沢山並んでいた。色気より食い気って事でしょ。俺に興味が無いわけじゃなくて、マジカメの使い方が俺と違うだけだもんね。
「このラーメン美味しそ」
今度のデート、ここに行こう。いいねしてるってことはナマエくんも食べたいだろうし。でも、いいね欄見てるのバレるかな? 気持ち悪いかな。ナマエくんから誘ってくれればいいのに。
俺の渾身の写真をスルーして増えていく食べ物の画像がちょっとだけ憎くなってきた頃、変化が起こった。ミドルスクール生っぽい男の子が、笑ってる写真。間違っていいねを押しちゃったのかな? と思う事にした。
次の日も牛丼とパスタの画像の間にその子がスケボーをやっている画像が入っていた。次の日も、その子が友達とふざけあっている写真があった。食べ物の画像はなかった。その子だけ、いいねをしていた。
いいね欄を見るだけであんなに躊躇していたのに、指先から迷いが消えてナマエくんとこの子のアカウントを確認する。「相互なんだ」俺は相互になろうって言うの、すごくドキドキして頑張ってお願いしたのに、この子のことは自分でフォローしたんだ。俺の写真には興味無いのに、この子の自撮りは全部いいねするんだ。
甘ったるくて食べたくない綺麗で可愛い映えるケーキも、何十枚も撮って一番可愛いけーくんも、ナマエくんにとっては、ぜんぶいいねに値しない、よくないやつだったのかな。
「ナマエくん」
かなしいがいっぱいになって、いつもはちゃんと事前に連絡して邪魔にならないようにしようって思ってたのに、勝手に会いに行ってしまった。ナマエくんは驚いてる。当然だ、だって俺はちゃんと良い子でいようとしてたんだ。好きだから、いいねってしてもらいたくて。
「どうしたケイト、珍しいな」
「ナマエくん、あの、あのね」
「どした? なんか暗い?」
「ナマエくん、は、な、なんで俺に、いいねしてくれない、の……」
「待って泣くほど!?」
「うええん」
「泣くほどなのか!!?」
ああもう全部どうにでもなれ。俺の泣き顔はぜんぜん可愛くないし、ぜんぶおしまいだ。うええん、わーーん、ガキみたいな声が勝手に喉から出るし、しゃくりあげるせいでまともに喋ることができない。最悪だ。もうおしまいだ。ずっと我慢してれば良かったのに、なんで余計なことをしてしまったんだろう。
「俺のは、一枚もなかった!アカウント作ってから、一枚も!」
「アカウント作ってから三年分チェックしたのか……」
「ここに俺の写真一枚もないのに! この子は十四枚ある!」
「数えてる……」
引いてるナマエくんの声が遠くに聞こえる。俺だって馬鹿らしいと思うよ。こんなのいちいち気にしてる方がおかしいじゃん。くだらねえなーって、ちゃんとわかってるよ。
「なんで、この子だけ。なんで、……けーくんのことも大事にしてほしい、です」
ナマエくんは俺がマジカメ好きなの知ってるじゃん。大事にしてるって、知ってたじゃん。俺の好きなものに興味持ってよ、俺のことよく見てよ、見てもらいたいから、映えるもの探して、好きでもない甘いもの頑張って食べて、素人なりにポーズとか表情考えて、一番良い俺を見て貰えたら嬉しいなって、そう思ってるのに、なんで無視するの。見てくれるだけでよかったのに。
不細工にぐすぐす泣いてる俺のまわりをオロオロ歩き回ってるナマエくんに「触んないで」と八つ当たりする。自分ながら厄介だし、こんな面倒くさいやつ一緒にいたくなんてない。いやだなあ。俺、やだなあ。
「あの……ほんと、ごめん……弟……弟です……よく見て、似てるから……」
「弟はいいねしてるのに、俺のは一枚もいいねくれない~~~!」
「告白します個人使用として別個保管してました。全部見せるから泣くなよ~~~、俺はケイトに泣かれるのがいっとう辛いんだ。
これから全部いいねするから、な? ごめんな。不安にさせたな」
触るなって言ったのに、ナマエくんは俺の頭をめちゃくちゃに撫でる。髪がぐちゃぐちゃにされた。手のひらがあたたかい。「おいで」と言われたので、ナマエくんの胸に顔を押し当てて目を閉じた。つかれた。俺はずっとつかれてた。「ごめんな、俺が悪かったよ。ケイトはなんにも悪くないからな」抱き上げられてベッドに転がされたなとは分かったけど、もう目を開けていたくなかったからしがみついたままこたえなかった。うん、俺は悪くない。悪いのはナマエくんだ。
朝。
「…………はっず」
死にて~~~。
いやほんと死にたい。なにした? うわ〜〜最悪〜〜。ベッドの上で項垂れてると、ナマエくんが珈琲をいれてきてくれた。サイドテーブルに置かれたそれを横目で見て、ナマエくんに向き直る。
「最悪メンヘラムーヴしましたすいませんでした」
「いえいえ、こちらこそ申し訳ありませんでした。こちら俺の秘蔵非公開アルバムでございますご査収ください」
深々と頭を下げあった俺たちは、お互い情けない顔で笑ってスマホの交換をした。俺の非公開アルバムも見せてあげる。ナマエくんの写真、気持ち悪いくらい入ってるから存分に引いてれば良いよ。
ナマエくんの非公開アルバムのパスワードは、俺が一番わかっている数字だった。それだけで嬉しくなるから、単純だ。びっくりするくらいたくさんの写真。十四枚なんて、1ページ目で追い越してる。
「俺ばっかりだ」
「他人のマジカメからの見切れもございます」
「うわあ」
「引くな引くな」
他の人のアップした写真に偶然写りこんだだけの、なにも盛れてない俺が何枚もあった。当然のように、俺の渾身の一枚たちもたくさん。
「これ、俺もナマエくんもぶれぶれの手首しか映ってないのに保存してるんだ?」
ドリンクのカップを写すだけの素っ気ない写真。はじめて遊びに行った時、この時はまだ友達だったのに。
「俺もね、これ忘れてないよ。大事にしてる」
甘えたい気持ちになってナマエくんに体重を預けたら、ベッドが軋む。
「あーあ! けーくん、ナマエくんと付き合ってからベッドの上でしか泣いたこと無かったのにな~~~」
「えっ、泣いてたの? ごめんな、もっと大事にするな?」
「充分大事にされてるから泣いたんです~~~……」
これ以上大事にされて甘やかされちゃうと、可愛くなくなっちゃうかもしれない。でもナマエくんはそんな俺でも鍵付き非公開で全部大事に保管してくれるんだろうな。
アルバムのタイトルが嬉しくて、何度も指で撫でた。『すき』。俺の一番盛れてる写真も、俺とナマエくんのブレてる手首も、全部『すき』のアルバムの中にある。嬉しくてまたちょっと泣いたから、ナマエくんの服で拭いた。今日は一日、いちゃいちゃする日にするんだ。
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