ねむれるもり


「くそう! くそ! ラギー・ブッチめ!」

ここから先見渡す限りぜ〜〜んぶオレの縄張りッス! 土でも食べてりゃミネラルはとれるからお裾分け要ります? シシシ! という、うちの実家周りにいたらちょっと品があるな……くらいの罵倒で餌場を追われ、泣きながら新たな餌場を求めさ迷っていた。あいつ小さいくせに普通に喧嘩強いし、バックに寮長付けてるからほんとタチ悪い! あのたんぽぽは俺が育てたのに!

クソみてえなカスみてーなところで生まれ育って、お坊ちゃんばかりのこの学園で生きていけるか……と思ってたら、まさかの生活水準同程度ライバルの登場で無銭飲食の邪魔をされる。
ひでえよ、俺が何したってんだ。管理者のいないフリーの雑草を食べてるだけなのに。肉食動物なら肉食ってろよ!! こちとら鹿の獣人やぞ草は譲れ! あ〜あ、木の皮でも貪り食ってやろうかな!!

若い木なら煮ればいけるな……と覚悟を決めて、草木が多くて人目につかない場所へ移動する。たまに山菜探しに行くからここら辺には詳しいんだ。ディアソムニア方面はみんな警戒して近寄らないし、食わなくても生きていける系生徒か金持ち生徒しかいないからライバルがいない。
サバナクローだけだぞこんな治安が最悪なのは。たんぽぽを巡って怪我人が出たからな。怪我人ってか俺なんだけど。

誰も手入れをしていない宝の山と化している森を歩くと、目の前をリスが通り過ぎた。やり! 群れだ! きっと餌場が近くにあるか、親子連れだろう。餌場があったら俺のものにするし、巣があるなら今日の飯にタンパク質が増える。有難い。命に感謝。

逃げられないように慎重に、リスが走り去った先へ向かう。少し開けた大きな木の下。そこにリスが数頭いた。それと、みょんと伸びた長い足が目に入る。

「やたらめったら顔のいい男が落ちてる!?」

驚きすぎて普通に叫んでしまったが、みょんと伸びた長い足の持ち主はすやすやと寝息を立てていた。呼吸しているから生きてはいる。何故かリスに囲まれてるが、何故か爆睡してるが、生きてはいる。

「犯罪のない国とかから来た奴……? こんなん俺の実家あたりにいたら一晩でめちゃくちゃにされるぞ……」

この顔で外で寝るとかどういう危機管理能力してるんだよ……。見た感じディアソムニア寮の奴だけど、寝てる時に触られたら反撃するような魔法でも掛けてるのか? 気になってつついてみたが、頬が柔らかいということしか分からなかった。俺がただただ寝ている奴にセクハラしただけの野郎になってしまった。なんてことさせるんだこいつ。本気でなんの魔法もかけてないのか? それで寝てるのか? どんだけお坊ちゃんなんだ……?

揺り起こしてやろうかとも思ったけど、話しかけるのも嫌だけど見捨てるもな……。確かにここはディアソムニアの領域だけど、サバナクローの俺が普通に入ってこれてしまう程度の場所だ。俺が紳士的な草食獣だったからこいつは無事だっただけで、もっとタチの悪い奴がここにいたらもうおしまいだったぞ。なんでこんなお姫様みたいな顔でスヤスヤしてんだよこいつ……。

ああもう、仕方ねえな。本当は肉が食いたかったけど、リスが暴れたら起きそうだし……。他にも食えるものはあるからいいや。
まわりのどんぐりを集めていると、俺が危険ではないと勘違いしたのか
鳥が舞い降り子連れの鹿が寝ている男に寄り添い周囲を兎がはね回った。何なのこいつ。一生食い物に困らなそうでいいな。

どんぐりを305個拾い集めた頃、「……ん、」と声がした。この頃には俺もどんぐりの方に夢中でちょっとビビった。置物のような気がしてたけど、普通に人だったんだなと当たり前のことを考える。

「……誰だ」
「ミョウジ」

起きたからもう1人でも平気だろ。寝ぼけてるのかぼんやりしてる男を放置して、バンダナとポケットをパンパンにして寮に帰った。帰ったらラギー・ブッチがめちゃくちゃたんぽぽ料理作ってたのでどんぐり料理と等価交換して和解した。一時休戦というだけで、これからも俺とラギー・ブッチの戦いは続くだろう。貧困というステージからどちらかが抜け出すまでは……。



まあぜんっぜん抜け出せねえので顔合わせる度に生存競争。そして負ける俺。肉食獣の本気で襲いに来るのほんと最悪。譲れよ、可愛い草食獣ちゃんによ。
そして尻尾巻いて森に食い物を探しに行くと、寝てる寝てる。高確率で爆睡してる白い男がいる。見つけてしまったらもう仕方ないので、しぶしぶ見守ってしまうが、3回くらいそれをしてたら森の動物たちがどんぐりとか果物とかくれるようになった。ほんとなに。ありがとうね? でも肉が食いたい。リスとかでいいんだけどダメか?

一度だけ「お前さ、そこら辺で寝てたら襲われるかもしれないから危ないぞ」と忠告したが、男は眠そうに頷いて「大丈夫だ」と言った。なにも大丈夫じゃないんだよなぁ!? 俺の実家あたりじゃそういう奴から翌日ずた袋に詰められて川に投げ込まれてたんだよ! いや、これは俺の実家あたりがクソみてえなカスみてーなところ過ぎたってだけかもしれない……。
妙な奴だから関わらないでおこうとは思うが、見つけてしまうと俺の精神安定上、大丈夫かどうかを見届けないとストレスが溜まるんだよな……。
最近じゃ鳥が花の冠作って俺の頭に引っ掛けるわ、鹿の親子から草で編んだカゴにいれられたみずみずしい果物を渡されるわで、絶対何らかの魔法がかけられてる。花冠はどうでもいいが、果物はありがたいのでいいんだけどよ……。

そんなある日、ずいぶん下の位置から「おうい」と声をかけられた。なんだコラやるのか。これはサバナクロー寮の方言で「どうしました、なにかご用ですか」の意味。
くっだらないことを考えて現実逃避をしていても、その声をかけた相手がディアソムニア寮のリリアセンパイで、俺を呼び止めてるのは逃れられない現実だった。

「ナマエ・ミョウジじゃろ。いつもシルバーと仲良うしてくれてありがたいのう。わしからの礼じゃこれからもよろしく頼むぞ」

「おや、……っリリア先輩!」

「なんじゃもう来たか。こやつはシャイでな、友達ができるか不安じゃったがナマエが良くしてくれて嬉しいといつも言っておるぞ。なんだったか、『寝てる時にいつも護ってくれる』だったか。見た目に似合わず騎士道精神があって感心感心!」
「やめてください! ああもう、ナマエすまない……」
「なんじゃなんじゃ、わしは挨拶をな」
「いいですから!」
「反抗期じゃの〜〜」

リリアセンパイを担ぎあげて早足で去っていった白い男。俺は今はじめてあいつの名前がシルバーというと知ったんだが、もしかして俺は友達認定されてるのか?

いやだな断りたいな……と思ったが、リリアセンパイに渡された学食三ヶ月無料チケットで全部消えた。シルバーお前、良いセンパイ持ったよ。嫌だったこと全部忘れたわ。次から会ったらにこやかに談笑してもいい。

「今日は肉食〜べよ!」

うきうきで学食に向かったこの時の俺は知る由もない。翌日、マレウス・ドラコニアにも「シルバーの友人か、よろしく。仲良くやってくれ」と声をかけられるなんて……。


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