言えばわかる言わねば分からぬ
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NRCに入って、同じ寮同じ部屋になって、だからと言って俺とシルバーが常に一緒にいるという訳ではなかった。あいつは寮長の護衛だし、護衛っていうのは茨の谷出身のエリートか、ディアソムニアで武功をあげた者しかなれない名誉なものだ。俺のような一般家庭出の平凡な男には縁がない。稀に部屋に帰ってきているシルバーを見て「あ、今日はいるんだ」と驚く程度の遭遇率だった。極々普通の、ルームメイトという距離感だったと思う。
そんな日が続いていたが、ある時から俺の日常に不穏な影が迫るようになった。深夜、誰かが枕元に立って見下ろしてくるのだ。完全にゴーストだと思っていた。怖すぎて目を開くことも出来ない。腐ってもディアソムニア寮生なので、授業外に組み込まれてる鍛錬で多少は武術の心得があるが、殺気のようなものすら感じていた。目を開けたら斬られる。そういう意志を感じた。
気付かず眠れたら良かったんだが、音に敏感なたちだったのでほんの僅かなカーテンをあける音でも目が覚めてしまう。いっそカーテンを開けっ放しにしようか、どうせ隣のベッドのシルバーは夜警だなんだでほとんど帰ってこないのだし。と、思い詰めたあたりで気が付いた。ゴーストはカーテンをあけない。じゃあ誰だとなると、先程言った通りに『隣のベッドのシルバー』しかいないのだ。他の同室者がやるとしたら、一度シルバー側のベッドを通過しないと出来ないから。
余計に怖かった。
警棒を装備したバッキバキの腕と腹筋を持った現役軍人が、殺意を持って夜な夜な俺を見下ろしてる現実。本当に、泣くほど怖かった。寮長に無礼を働いた記憶はない。存在自体が不快だと言われたら終わりだが、あの方は俺のような下々のものにも、鷹揚に存在を見逃してくださる心の広い方だ。たぶんこちらは原因ではない。
本当に分からない。ストレスで食事が喉を通らず、一週間で4キロ痩せたし、授業中に倒れた。命を狙われていると思ったので、退学を視野に入れつつ医務室で久しぶりにすややかに眠った。そして起きた時にシルバーが俺をじっと見下ろしていたので、俺はここではじめてキレた。
「なんなのお前!! いい加減にしてくれないか!?」
「どうした、混乱しているのか」
「混乱ならずっとしてる!! いったいなんで俺の事監視してるんだよ! 二度と近づかないでくれ!」
「いやだ」
「はあ!?」
喧嘩をしても負けるとはわかっていた。趣味鍛錬の人間に勝てるわけが無いだろう。俺がぼんやり生きてる間にもこいつは強くなってるんだぞ、そんなやつとどう戦えばいいんだ。ああもう無理、辞めよう。俺は可愛い末っ子だから、『殺されるかも』と泣きつけばすぐに迎えが来る。やめだやめだ。シルバーと話しててもストレスとブロットが溜まるだけだ。こんなことでオバブロしたら本当に死ぬ。
「いやだ」
俺が何も言わないのに、もう一度重ねられた否定にイラついてシーツを頭から被る。「向こういけ」と言うと、また「いやだ」の言葉がかえってきた。
「俺は、妙なタイミングで寝てしまうから……夜に、眠れないことが多いんだ」
「…………」
突然はじまった自分語りに、なんなんだという気持ちしかわかない。だからどうした。眠れないから隣のベッドの奴がのんきに寝ててムカついたと? 酷すぎないか。そんな八つ当たりされても困る。
シーツの端を軽く摘まれた感触がしたので払いのけると、小さく息を飲む音が聞こえた。
「……嫌な、思いをさせて、すまない。ナマエが起きてると、気付かなくて、すまない」
「…………」
「好き、に、なって、すまな、かった」
「…………は?」
「どう話せばいいか、わから、なくて、せめて、顔がみたくて、クラス、違うし、一緒に、いる、時間……、ない、から。せめて、顔だけでも、……ごめん、ごめんなさい。知らなかったんだ、こうやると、嫌われるって、知らなくて……もう、見ない、から。話しかけ、ないし、見ない、から。……近くにいること、だけ、ゆるしてほしい」
潜り込んだシーツの外で想定外の言葉が並べ立てられる。途切れ途切れの言葉の意味が俺の知っているものと同じなのか理解ができない。何度も心の中で「は?」を繰り返してシーツから顔を出したら、あの綺麗な顔からボタボタと涙が落ちてシーツにシミを作っていた。美人は泣いても美人って嘘なんだなと、どうでもいいことを真っ先に思った。
「……お前、なんで殺気とばしてたんだ」
「とばしてない」
「起きるなって圧かけてたのわかってんだよ」
「……ああ、起きたら、恥ずかしいなって思ってた。寝顔を盗み見てるなんて、おかしいだろ。気持ち悪い、変態だって、思われたく、なくて」
自分で一言いう度にボタボタと大粒の涙が落ちていく。なんだ? つまりシルバーは眠れない夜に好きな人の寝顔をみてうっとりしてただけの重めの男ってことか? なんでその対象が俺なんだ?
「シルバーに好きになられる意味がわからない」
「一目惚れに意味がいるのか」
「なんで俺なんかに?」
「俺だって知らない。好きになってしまうのは、そういう事だと親父殿は言っていた」
こいつ俺の事親にも言ってるの? どういうことなんだよ。重い溜息を吐いて起き上がると、びくりと震えてわかりやすく怯えられた。
こいつがこんな風に簡単に泣くとは思っていなかったし、泣いた理由が俺に嫌われたからだというのが未だに信じられない。流れるまま放置されて涙で濡れそぼった頬を強めに挟む。
「んみゅ」
「お前は、言葉が足りない! 無言でやるな、怖い!」
「ひゅみゃみゃい」
「今言ったら許すから言え」
頬から手をはなすと、シルバーはハッとした顔をして、いつものように凛々しい表情を作った。
「好きだ。俺のものになれ」
「まずは謝れ!!!!」
「すまなかった」
「明日は休みなのでセックスをしたいと思う」
「おお…………?」
紆余曲折あって誤解がとけ、色々絆されて付き合うことになった中で「お前自己完結大概にしろよ、全部言え」と言いまくった結果が今に至る。
「俺は他者との性交はしたことが無いがナマエはどうだろうか」
「ミドルスクールで付き合ってた子と3回ほど……」
「すごくかなしい」
「いやそれは仕方ないだろう、許してくれよ」
「怒ってはいない。勝手に悲しんでるだけだ」
表情があまり動かない自覚はあるだろ。お前が言わないと誰にも分からないし俺も勝手に誤解するぞ。そう言い聞かせてたら、こんなにも素直に感情を吐露する男になってしまった。
そうなると「ああ、可愛いな。こいつ俺の事こんなに好きなんだ、愛おしいな」と思ってしまうのは自然の流れだろう。シルバーの願いなら叶えられるだけ叶えてやりたいが、過去に戻って童貞を守るのはちょっと難しいな。過去は過ぎてしまったものなので……。
「ある程度の拡張、腸内清掃は済ませている。これはローション、必要かどうか分からないが使えと書いていたのでスキン、同室者二名は夜警を担当して貰っているので今晩は帰ってこない。消音魔法は取得済みだ。やろう」
「全ての準備を終える前に一言事前連絡は出来なかったか?」
「恥ずかしくて……」
「そっか……脱ぐの早いな……」
「ナマエも脱いでくれ。俺だけだはいやだ」
男らしさの権化か? というスピードでさっさと脱いだくせに、俺が呆然と眺めてるとだんだん赤くなってシーツで身体を隠してくる。今更そんな初心な仕草をされてもなあ……と頭の奥の冷静な部分で思うけど、頭の手前の煩悩が「据え膳は有難く頂きましょう」と諭してくるので有難くちょうだいする為、俺も服を脱いだ。
あのね、正常位だめ。
1回目が終わったと思った瞬間に背中と腰を両手両足で拘束されて、俺が死ぬかシルバーをダウンさせるかの瀬戸際でギリ勝った。ミドルスクールでの経験が功を奏したんだと思う。俺が童貞だったら殺されていた。なにこのパワー・モンスター・ゴリラ。もはやバトル。だってあいつ「もっと」「来て」「欲しい」しか言ってないぞ。
性豪。
その言葉が脳裏を埋めつくした俺の横で、突然の睡魔にいつものように負けてスヤスヤと天使の寝顔を晒してる男。途中スキンを付け替える余裕……というか、拘束を解く力がなくて意味を成してないから、後始末してやらないと……。どこまでも、手間をかける……。
ああでも、好きになっちゃったから仕方ないかあ。まさかこういうことに使うなんてなと苦笑いをして、マジカルペンを振るった。
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