「助けて!明石がボッチなの!」 「拝命した」
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三条大橋で同じ来派の愛染国俊率いる部隊に保護された時、まだ審神者の手により顕現される前だったがうっすら覚えている。
短刀である弟分を、ここまで強く育て上げてくれた審神者の元に行けるなら悪くない。自分はそうおもった筈だった。
門をくぐって早々に「お使いしっぱいだー!」と叫んだ愛染に驚き、彼らが三条大橋に向かった理由が「夜しか開いてないすっげえうまい団子屋がある」だった時は、近くにいた巨大てるてるぼうずみたいなお人の布を掻っ攫って丸まって拗ねた。
練度1の己に全力で殴りかかってきた巨大てるてるぼうずとは、これから仲良くできるか不安だ。主である審神者は「まんばちゃんの布は首輪だぞ、それを取ったら解き放たれた土佐犬みたいなもんだから気を付けろ」と、楽しそうに笑っていた。その足元で自分はぼろ屑のようになっていたというのに、非情なお方や。信じられへん。
蛍丸にしても、「あれ?国行居たの?」の一言で流された。あんなに可愛かったほたが…!と思ったが、別に今も昔も変わらない。
どちらかと言うと自分のせいでお使い失敗になった国俊の方があからさまにあたりが強い。「どこだ国行!手合わせで練度30まで引き上げてやる!」とヤンキーのように自分を探して彷徨っている。ただただ怖い。カンストの短刀に手合わせをしてもらった際、練度1の太刀は会心の一撃を喰らって即死するだろう。練度を30まで上げる間に何回重症になればいいのか。誰に似はったん?うちの子怖すぎ…。
この本丸は新参には厳しい、というか。
本来なら親身になってくれるであろう同じ刀派の二振りがあまり関心を向けないために、自分の立ち位置がぐらっぐらになっている。「そろそろ本丸にも馴染んだか?」と聞く主はんの眼ん玉ほじくり返したい。
なんも見てへんやろ。自分今めっっちゃ孤独。自分が刀でよかったですなぁ。人間やったらこんなん、世を儚んで泣き濡れてるとこですわ。
そろそろいいだろうと『内番』というものを命じられた。なにが良いのか言うてほしい。今のところなんの解決もできていないし、最近一番長くはなした他者との会話は、隣に座った燭台切光忠のおかずについてだ。「納豆に砂糖いれるん!?」「見てしまったね、このことは黙っているんだ。さもなくば僕は目撃者を消さなければならない…」「ヒィッ」…。これだ、かわいそうすぎるやろ自分!あと納豆苦手なんでもう朝食に出さんといてほしい。くっさい!
与えられた内番は畑仕事だったので、農具がある場所を教わってそこに向かった。
刀が畑を耕すという事に違和感を覚えるが、人の姿を得てはじめて【食べる】という事を経験してしまったので必要な事だというのはわかる。食事は楽しい。美味いモンはそれだけで正義や。
「自分、食べる専門が理想なんやけどなぁ…」
「まあ、そういうな」
「突然背後から来はんなや!」
「すまんすまん。主に命じられてな、新人研修の教官役として呼ばれた鶯丸だ。
明石が来る前は何故か俺が来派扱いされていた時代があったが、一応今までの刃生で古備前以外を名乗った覚えはない」
「あんさんに何がありましたん…?」
「さあな、細かい事は気にするな。今日は忙しいぞ、水を撒いて雑草を抜いて害虫退治だ。
和泉守がかつての主人に想いを馳せて、丹精込めて育てた野菜だからなあ。俺たちが失敗したらきっと泣いてしまう。あいつはそんな男だ」
短刀に和泉守なんて刀はあっただろうか。
思い出しても何も出てこなかったが、自分はまだ本丸にうまく溶け込んでいないので仕方ないだろう。
ポイポイと渡された軍手や、害虫退治用のピンセットを受け取って、鶯丸と名乗る刀をみた。
明石国行は勘が働く方だが、何故だろうか。すごく、嫌な予感しかしない。
「野良仕事は休み休みやるものだ。つまり、俺に向いている」
嫌な予感しかしないのだ。
近侍の長谷部を引き連れてどこかへ出かけるらしい主が、そっと畑を覗きにきた。
「大丈夫か」
「任せてくれ。俺を信じろ。大丈夫だ」
「お前の言葉、相変わらず信用できないな…。明石も、頑張れよ」
「はぁ、やれるだけやってみますわ」
何度も振り返りながら出ていく背中を見送り、さて仕事をはじめまひょかと横をみた。
先ほどまでここにいたはずの教官役がいない。
「鶯丸はん?」
「どうした、何かあったか」
「いや…ありすぎなんやけど…なんで寝てはんの…」
「気にするな。休憩は総合すると全体の効率をあげる。井戸は右奥にあるからそこから水を持って撒けばいい。簡単だろう?」
「なんてことや!新しい新人いびりやった!嵌められた!」
「おいおい新人いびりなんて酷い事を言うもんじゃない。俺はいつもこうだ」
「最悪や!!」
何とかして働かせようと引っ張ったが、石のようにピクリともしない。しまいには「俺の練度は87だ」と真っ直ぐ脅された。なに…こん人…こわい…。
もうこいつに期待したらアカン。慣れない道具を持ってヒィコラ言いながら畑に水を撒いたが、「右側にかかりきっていないぞ、平等に頼む」と縁側から指示だけが来た。自分の練度が上がったら、絶対こいつボコボコにしてやりますわ。絶対にや。
一通り水をかけ終わったら、次は雑草抜き。こちらも慣れない手で必死に毟る。
「ご 精 が 出 ま す ね … 」
「はあ…ええっと、左文字の」
「江 雪 左 文 字 と 申 し ます … 。 雑 草 は 、 根 か ら 毟 ら な け れ ば 意 味が あ り ま せ ん よ 。 根 元 を 持 つ と 、 抜 き や す い の で す … 。手 伝 い ま す よ … 」
「あ、ありがとさんです…。すいまへんなぁ、自分、こんなん初めてで」
「誰 に で も 初 め て は あ り ま す 。 少 し ず つ 学 ん で い け ば よ い の で す よ 」
ああ、この世には良い人もいるものだ。
江雪左文字が手伝ってくれたおかげで、なんとか主が帰ってくるまでに雑草を抜き切る事が出来た。
主の帰還を知らせる鐘が鳴り、手が空いている者は門へ向かい、作業をしていた者も一旦手を止めて主を迎える準備を始める。その中を、泥だらけの明石は駆けて行った。
「自分あん人と一緒の内番嫌や!あん人ほんまなーんもせーへんで!主はんが出てった瞬間茶ァ飲んで寝よった!水もかけん雑草も抜かん、土はカラッカラにな るし、自分がやるしかのうなりましたわ!自分、やる気ないんが売りなんやで、こんな働いたらただの働きもんのメガネやん!日本人やん!」
「博多とキャラ被るな」
「せやろ?だから自分、明日は他の刀と一緒の内番にしてや。な?頼んます。このとーり」
「内番やる気はあるのか…良い子だなあ…」
「はあ?何言うてはるん。わけわかりませんわ」
「帰ったか。畑仕事は終わったぞ」
「あんたが言いはんなや!茶ァ飲んで新聞読んで飯食って便所行って茶ァ飲んでただけやろ!そんあいだ働いてたのは自分や!!雑草抜いたんも水撒いたんも収穫したんもぜええんぶ自分と、手伝ってくれた江雪はんや!!」
「おお、よく喋るな」
「もう、こん人嫌や!」
しかし、翌日もまた明石の内番の相方は鶯丸だった。
「あいつはあいつで上手くやるさ。甘やかすだけが育て方じゃない…見守ることも大切なことだ」と言いながら、トマト作りの内番をサボり、寝っ転がりながら新聞の天声人語を虫眼鏡で読む鶯丸。その横で必死に泥塗れになりながらトマトの世話をする自分。
「なんで今日もあんさんと内番なん!?自分、嫌や言うたやん!なんでなん主さん!いけず!あほう!」
内番が終わると同時にもう一度直訴をしたが、それでもまた翌日、内番の相方は鶯丸のままだった。
アサナンデスの再放送待ちをしながら茶ァを飲む鶯丸は、ついに縁側で寝るレベルを超えて部屋の中に入ってしまった。
「無農薬神話なんてドブに捨てろ。農薬は人の作った生きる術だぞ、それを今更捨ててどうする。虫に喰わせるために作ったんじゃない。駆逐だ駆逐」
そして爆笑。テレビで面白いトークでもあったのだろうか、こちらではヒーヒー言いながらピンセットで害虫駆除をしている。
「も"ー!なんでやねんほんまああ!嫌や言うてんのに!」
この頃には明石は、練度カンストした自分が鶯丸をボコボコにする妄想をして心を落ち着かせるしか己を保つ手段がなかった。愛染の「手合わせだー!」に鬼気迫る顔で勝負を受け付け、その気迫とやる気に自称保護者を見直した来派との関係は以前よりもだいぶ良好になったし、さぼりたいやる気ないと言いながらも必死に地面にはいつくばって仕事をしている明石の姿は本丸の皆が見ていた。
「明石さん、お手伝いしますよ」
「仕方ねえな、鶯丸はああいう奴だから」
「お前、思ったよりよくやるな。おら梅干し、口に入れとけ。熱中症はこええぞ」
手合わせが一段落ついたらしい、短刀の平野に打刀の和泉守(短刀ではなかった。こいつが泣くのか…?)と同田貫が明石の元にやってくる。喋りながら素手で害虫を退治している和泉守に引きながら立ち上がった。
自分の仕事が終わったのだろう。手が空いているものから集まって、手伝ってくれている。
「…ありがとさん」
「おお、みんなと仲良くなったか。よかったな」
「あんさんなあ……」
「明石はまだ馴染めてなさそうだから、よく見てあげてくれよ」夜中にこっそりとそう頼まれて、鶯丸は「拝命した」と頷いた。ほら見てみろ、こんなかんじでどうだ。
嵌められたとばかりに苦い顔をしている明石を指さして、鶯丸は笑った。
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