かれのみたもの


審神者になった子供は日本号が拾ってきた変な犬を触りたがったが、しっぽでひらりと躱されてしょんぼりと項垂れていた。
「大丈夫ですよ。あの程度の毛皮、この長谷部がすぐにでも剥いで御覧に入れましょう」と優しく微笑む長谷部は、たぶん何か間違っている。
そうわかっていたけど、見慣れた日本号もまたどこかに行ってしまったので少し心細い。そんな自分に構ってくれる長谷部はとても優しい良い人なのだろう。それはわかる。わかるけど、やっぱり寂しい。

先ほどまでは一人で心細かったこともあり、部屋の探検はしていなかった。しかし今は違う。少し歩けば長谷部がついてきてくれる。
「あっちいこ」と手を引っ張ると、中腰のままついてきてくれる。先生達はやさしかったけどとても忙しそうで、大人のお兄さんが遊びに付き合ってくれるのは初めてだった。だから大喜びで部屋の中を端から端まで見て回り、あれはなにこれはなにと聞く。そのひとつひとつ丁寧に答えてくれることがうれしくて、知っているものすらも聞いてあるいた。

「ねえ長谷部あれはなに?」
「蝶…ですね」
「なんであのちょうちょは逃げないの?」

奥まったところにポツリと置かれていたそれは、鳥籠を模した枠のようなもの。その中に、ゆぅらゆぅらと蝶が羽ばたいている。
多くの虫が絶滅危惧種に指定され、専門の施設内でしかみられなくなったものも多い。
蝶は絵本やテレビで見たことがあったため、その実物が目の前にあると知って眼を輝かせた。さわってみたい!

「長谷部、長谷部、おれ、さわりたい。さわっていい?しなない?」
「大丈夫ですよ、どうぞ触れてください」

死んだら変わりのものを用意しますので。その言葉を飲み込んだ長谷部の優しい微笑みにすっかり騙され、恐る恐る蝶へと手を伸ばした。

「あっ」

触れる瞬間、蝶は舞う。追いかけた足元に滑る何かがあって、そのまま畳へと転がった。
泥人形が一体、その足元に溶けるように寝転がっている。

「あ」

ぐしゃりと、薄紅色の蝶が泥の伸ばした手に潰される。瞬間、視界が桃色に染まった。




「なんですか、不作法ですよ」




本丸内全刀剣42振中ノ2 宗三左文字

解放条件『鳥籠から蝶を出す』 成功  無事呪いが解かれました

おめでとうございます。









「へえ、蝶に触れたかった。お好きになされば良いではありませんか。僕が握りつぶした?存じあげません。
万が一億が一僕に非があったとしても、十把一絡げの虫けらの何が尊いのでしょう?
むしろ僕を手に入れたことを誇るべきでは?」

長い溜息をつきながら器用に言い切った宗三左文字の頭を、主の気持ちを代弁するかのごとく長谷部が横から切るように引っ叩いていた。
「何するんですかへし折りますよ!」と打撃音が聞こえるが、喪った蝶に心を痛める子供の耳には何も届かない。
涙目で蝶が握りつぶされた空中を睨んでいると、天袋が少しだけゆっくりと開いて行った。


『あー、びっ、…し、ょ!』

「…?」

『あーそ、……ま…!』

また泥だ。

泥が一生懸命何かをいってる。


『あー、そ、び、ましょっ』


天袋がしまった。


かくれんぼだ!



「長谷部!長谷部!あれあけて!」
「は、お任せください」

今までつかみ合いをしていたとは思えない態度で粛々と主の命に従う。開けたそこには何もなかった。

「あっ、みーつけた!」

『あは、は、』

長谷部が振り返ると文机の下に顔を突っ込んでいる主の姿がある。あっちを開けてこっちをみてと指示を受け動くも、その後ろで主は何かをみつけているらしい。
宗三左文字は一切の興味をもたず、つかみ合って乱れた髪を文句を言いながら結いなおしている。


かくれんぼは好き。
でも泥のかたまりはあちこちにうまく隠れてしまう。
見つけるたびに、声がはっきりと聞こえるようになった。


「みいつけた!」

「見つかってしまいました!」



本丸内全刀剣42振中ノ3 秋田藤四郎

解放条件『隠れる泥人形を5度見つける』 成功  無事呪いが解かれました

おめでとうございます。






きゃーーっと歓声を上げて抱き合う二人の子供をみて、打刀二振りは首を傾げた。一体どこから出てきたのだろう。
首を傾げるだけで深刻に疑問に思わなかった。この異常事態を、彼らはまったく気にしていなかった。

まったく、これっぽっちも。

これが当たり前だとでもいうほどに。


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