04─新たな出会いは偶然に


 いつものように松下村塾で松陽先生の授業を受け、いつものように周りの弱っちい男どもを“獣の如く”薙ぎ倒し、いつものように隣で寝ている銀時をはっ倒したある日のこと。


 友達や松陽先生、銀時にさよならをして、これまたいつものように、私は家へ帰るべく歩いていた。道すがらにあるお寺から、誰かが言い争う、というか一方的に罵倒されているような声が聞こえてきた。声は私と同い年くらいの子供のもののようだけど、その内容はかなり物騒なだ。
 私は息を潜めて、バレないように社の方にいる声の主の様子を覗いた。

「だから何度も言わせるなって……お前みたいな奴は、うちの塾には邪魔なんだよ!」
「……こっちだって辞められるもんならとっくにやめてるっつってんだろ」
「フン、強がりやがって」

寺の境内では、紫黒の髪を持った、私と同じ年くらいの少年が、いかにも悪ガキですといった風貌の奴等に取り囲まれていた。その中でもリーダー格と思しき奴が、一歩前に出て話をしていた。悪ガキたちは各々が竹刀を手にしているが、一方でその少年は手ぶらのままだ。もしかして、一人相手によってたかってワラワラと襲いかかろうとでもしているんだろうか。

「言っておくけどな、お前みたいな出来損ない、俺の兄上に言いつければ今すぐにでも破門にしてやれるんだぜ!」
「だったらとっとと破門にでも何でもすればいいさ、その出来損ないに一勝もできない雑魚共が。俺みたいなのがいなくなれば、お前らもさぞかしスッキリすることだろうよ」
「く、口の聞き方に気をつけろよ高杉!」

悪ガキたちは竹刀を構えて臨戦態勢に入ったものの、高杉と呼ばれたその彼は、動こうとすらせずにその場に立ったままだ。このままじゃ、あの子が危ない。もしも万が一のことがあれば、私が助太刀しなければ。彼らに視線を向けたまま、私は足元にあった、手頃な大きさの枝を手に取った。

「まさかあの講武館の塾生ともあろう方々が、こんなボンボン一人相手にそんな大勢で戦おうってのか?仮にも同じ塾生として泣けてくるな」
「クソッ!黙れ高杉ィィィィッ!!!!」

悪ガキ達が一斉に竹刀を振り上げて襲いかかろうとする。もうこのまま黙って見ているわけにはいかない。

「アンタら、大勢で一人に襲いかかろうとか恥ずかしくないわけ!?いったいどういう教育受けてきてんのよ!」

私は無意識のうちに陰から飛び出して、彼等に向かって叫んでいた。しかし。

「おい、あれって例の……!」
「あいつまさかあの、“獣女”か」
「ヤバいよ、逃げた方がいいって!」

私の姿を一目見た途端に、悪ガキ達の顔がみるみる青ざめていく。獣、というどこかで聞き覚えのある言葉が、私に対して口々に向けられた。あの白髪天然パーマ、絶対許さない。

「だぁぁぁれが獣女じゃァァァァァ!!!!」
「ひっ、ひぃぃぃっ!!」

ぶつけのようない怒りに身を任せて枝をブンブンと振り回すと、ごめんなさい、すみませんでしたァァァ!と情けない声を上げながら、彼らは一目散に散っていった。残ったのは呆気に取られたような顔をした少年と、ぜえぜえと息を切らした私だけ。

「……お前もしかして、苗字名前か?」
「な、なんで知ってるの、私のこと……?」
「近頃俺の塾でも有名だったんだよ、アホみたいにおっかない、獣みたいな女がいるって」
「ふ、ふーん……そうなんだ」

確かに獣みたいな奴だな、お前。そう言って笑う少年を前に、私はただひたすら、あの天パに対する呪詛ばかりを心の中で唱えていた。
  



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