01
四月──それは恋の季節……!大切なあの人との別れの裏で、また新たなる仲間との出会いがある。それは即ち運命の王子様と出会うチャンス──
「なわけねーだろ」
「……知ってます」
突如隣から浴びせれられた身も蓋もない言葉に、昂っていたテンションが一気に引き下げられる。声の主は、3年Z組の生徒の一人、土方十四郎だ。
「せめて夢くらい見せてくださいよ土方さん」
「このクラスに夢を見れるお前に尊敬するよ、俺は」
新年度が始まったとはいっても、私たちは今年で三年生。つまりクラス替えなど一切ない。教室には元2年Z組の見知った面々が集い、各々が自由に騒いでいる。去年から誰一人として欠けることはなく、また増えることもなかった。出会いも別れもへったくれもあったもんじゃない。しかもこのクラス、とにかく生徒一人ひとりのキャラが濃すぎるのだ。クラスの奇人を挙げていけば、怪力チャイナ娘の神楽に、ツッコミ眼鏡掛け器の新八、狂乱の奇行種桂に、絶賛停学中冷血硬派高杉、美少女ゴリラの妙やゴリラの近藤さんにドSの王子様こと総悟に特に何も無い山崎に──と、枚挙に暇がない。私の隣で頬杖をついている瞳孔半開きの男も例外ではなく、こいつはこいつでマヨネーズを摂取しないと死んでしまうという可哀想な病気にかかっている。頭の方が。
「ああ、私のきらめく高校生活がこの動物園のようなクラスの中で儚く消えていくよ……」
「んなの二年の時点で分かりきってたろ」
「でももしかしたらって思うじゃん!いきなりイケメンで優しいパーフェクトな転校生が転入してくる可能性がゼロではなかったわけじゃん!?」
考えが非現実的過ぎるんだよ、と無残にも私の熱い演説が一蹴されたとき、教室のドアが開き、予想通りこれまた見知った顔の教師が気怠げに入ってきた。
「あーもう朝っぱらからうるせーんだよお前ら、三年目にもなるのにいちいち騒ぐなや……新八、号令」
「起立、礼。着席ー」
いつも通り咥え煙草──本人曰くペロペロキャンディらしい──にボサボサ頭の我らが担任、銀八先生が教壇に立った。
「えー今日からお前らもいよいよ三年生だ。最上級生として、くれぐれも俺の給りょ──銀魂高校の評価を下げるようなことがないように気をつけろー」
「先生、本音がダダ漏れです」
「いちいち人の揚げ足を取るな総一郎くん」
「先生、総悟です」
ふっと場の空気が緩み、明らかに教室に“スイッチ”が入った。これは、あの時間がくるぞ……。
「今年こそ私の愛に答えてください銀八先生!私もう先生に純潔を捧げる覚悟は出来てま」
「捧げなくていいから黙ってろメス豚」
「お妙さん、俺も貴女に愛を捧げる覚悟は出来てます!今こそ一つになる時ぶべらァっ!」
「あら嬉しいわ。是非捧げてほしいものね、ゴリラの生首を」
やっぱり、というべきか、毎ホームルーム恒例の、先生と生徒の漫才合戦が始まる。新学期一日目で、これが起きないはずがない。この動物園では、こんな喧騒が日常茶飯事なのだ。
収拾のつかなくなった生徒たちが鎮まるのを待って、先生はまた口を開いた。
「はい静かにー──まあ、受験やら何やら大変なことは色々あるけどよ、一番大事なのは残り一年を思いっきり楽しむことだ。高校生活なんて楽しんだもん勝ちだ、やりたいことやらずに後悔しねーようにな」
相変わらずやっぱり最後はいい感じで締めてくれる先生に、流石じゃん先生、わかってるじゃん、と心の中で呟く。
「なんだかんだいって先生って良いこと言うよね」
「これで悪いこと言わなきゃ一番いいんだけどな」
「アハハ、それ言えてるわ」
先生の言う通り、私たちは残り一年でこの高校から巣立っていく。考えてみれば、まだまだ高校生活でやっておきたいことはたくさんあった。
朝のSHRを終え、十分程度の休憩の時間。先生の言葉を思い出して、私はぼんやりと呟いた。
「確かに、まだやり残してることたくさんあるんだよねー」
夏祭りに海水浴に修学旅行に、あとそれからなにより──!
「彼氏作ることとかか?」
まるで心の中を見透かされたように土方に言い当てられた。
「な、なぜわかった……!?」
「お前去年からずっとそれ言ってるだろ。未だ達成してねーみてェだが」
「う、うるさいな、今年こそ作ってみせます!彼氏作って花火行って修学旅行一緒に回ってクリスマスを共に迎えます!」
──絶対今までで一番幸せな一年間を送ってやる……!
どうだか、と鼻で笑う土方を無視して、私は高校生活最後の一年へ向けての決意を固めた。