03


 無事に、とは言い難いけれども学力テストも終了し、平常日程の時間割が始まった。

 ここ銀魂高校には何故か、イカれてる、もとい非常に個性的な教師が多い。というかそんな人しかいない。やる気のない銀八先生や全く話に一貫性のない坂本先生、常に危険と隣り合わせの実験を強行する源外先生など、バラエティ豊かな教師陣は非常にインパクトのある授業を繰り広げてくれ、それ故に生徒達からの人気も高い。しかし、この3Zにおいて、人気なのは教師だけではない。


 「あっ土方先輩じゃん!」
「やっぱかっこいいよねー先輩……!」

昼休み。下級生の教室の並ぶ廊下を通りすがる最中、女生徒の熱を帯びた視線が私をすり抜けて隣を歩いている男に突き刺さる。ついでにいうと恨みを帯びたような視線は私に突き刺さる。

「やだー土方先輩マジイケメン、惚れる、抱いてー、いやーん」
「その言い方やめろ」

まず抱いてとか言ってないだろ勝手に付け加えるな、と土方は苦々しい顔をしている。

 私を睨むように見つめる一部の女子の方から、ぶつぶつと恨み言のような何かが聞こえてきた。たまたまお互いの目的地が共に購買だったので一緒に歩いていたらこのザマだ。迷惑極まりないモテ男である。彼女じゃないですよー、むしろ誰かいい人紹介して下さいーと高らかに叫びたいものだ。私の今後の平穏な学生生活ためにやめておくけど。


 「いんやあー凄まじいモテっぷりですねー土方先輩」
「先輩っつーな先輩って。……別に俺はチヤホヤされても何も嬉しかねェんだよ」
「流石モテ男は言うことが違いますわ」

モテ自慢にしか聞こえない愚痴をさらりと受け流した。


 何故か我等が3Zには、俗に言う美形と呼ばれる人種の人間が多い。とりわけ男子はそれが顕著で、風紀委員の土方や総悟なんかは、そのルックスと独特な性格のせいか、学年問わず物凄い人気を誇っている。ファンクラブがあるとかないとかいう噂である。あ、ちなみに、近藤さんや山崎にも隠れファンがそこそこいるようだ。
 総悟の方は知らないけれど、土方は去年判明しているだけで十人の女子生徒から告白されている。学年のマドンナ的ポジションの下級生やら卒業真近の先輩やら他クラスの私の友人やら。しかもこの男、それを全部すげなく断っている。何度か告白の場面に出くわしたが、その振り方といったらお前に恋愛感情はないのかと問いただしたくなるレベルのものだ。まずそもそも、何度も告白の場面に出くわしている時点でとち狂っている。

「今年は何人から告白されるかな」
「知るかよ、どうでもいいわ」
「あー本当恋する乙女の気持ちを全く分かってないのね、土方くんは」
「……んだよ、お前好きな奴いんのか?」
「残念、いません!」
「じゃあなんで分かんだよ!」
「恋せずとも何となく分かるものなの!」

そういうところが残念なのだ、この男は。見た目がいいだけで、まるで人の心を何も分かってないような人間だし。

「今キャーキャー言ってる子も仲良くなったら絶対アンタみたいな男好きになんないわ」

購買が近づき、菓子パンやジュースを求めて集まる女子生徒たちがキラキラした目で私──の隣の男を見ている。

「どういう意味だよ」
「知れば知るほど“無い”ってことよ」
「なっ、んだとテメー!」

女心を分からない奴が心から好かれると思わないことよ、と呟く。

「女心なんて別に考えりゃ分かるだろ」
「いいや分かってないね、分かれないよね土方は」

というか別にわかる必要もないじゃん、ということに気づく。何もしなくても寄ってくるし、そもそもお前興味無いじゃん、そういうの。……あれ、もしかして?周りに聞こえぬよう声を潜める。

「ひょっとして貴様……いるな?好きな人が」
「は!?んっなわけねーだろ!いねェって!」

ほうほう、これは図星ですなあ。新学期早々まさかの大スクープを手にしてしまったぞ。

「だーいじょぶ大丈夫、このことは黙っとくから」 
「だからいねーって!」

到着した購買前でわーわーと喚く土方を横目に、お昼ご飯用の菓子パンを選ぶ。

「……まあ誰とは聞かないからさ、何かあったら言いなさいな。任しとけ」
「……信用ならねェな」

土方は観念したように息を吐き、隣で菓子パンの物色を始めた。何も言い返さないということは、即ち好きな人がいると認めたということだ。言ってはみたものの、お前マジで好きな人いるんかい、という衝撃が大きい。あの土方くんに恋の予感、とは。まあ勉強教えてもらうご恩もありますし、ここは私苗字名前がどーんとフォローしてあげようではありませんか。 
 こうして、若干一方的に、土方十四郎の恋路応援大作戦が始まった。


 「──あ、ところでさ、メロンパンとカレーパン、どっち買えばいいかな?」
「どっちも買えばいいだろ」
「いや、ほらカロリーとかあるじゃん。流石に私もちょっとはそういうの気にするし」
「んなの別に太るとか関係なくねェか?」


──やっぱアンタマジで分かってねーな!
そういうとこがダメなのよアンタは、と叫ばずにはいられない私であった。
  



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