偏食のススメ


 ご飯のお供といえば、ふりかけに漬物に佃煮に──もちろん抹茶小豆も捨てがたい──といったものが定番だろう。いや、世の中には少々頭のイカれたトッピングを添える奴もいるのは知っているのだ。近所のお巡りさんにも一人いるし。にしても、だ。

「んー、んまい……っ」
「あー。そりゃ良かったね、うん」

 一緒にご飯を食べに行こうという話になり、俺達はいつもの定食屋へと来ていた。名前の持つどんぶり飯の上には、大量のスナック、スナック、そしてスナック。


「ご飯の上にコーンスターチかけて食べてどうするの名前ちゃん」
「だって美味しいんじゃんスナック丼」

宇治銀時丼とかいうゲテモノより全然イケますしねー、と名前がかき込むそのどんぶりの中では、本来出会うべきではない白米とキャ●ツさん太郎がフュージョンしていた。こないだ食べてた時は玉●ぎさん太郎だった。その前はもろ●しさん太郎だった気がする。……つーか太郎さん大好きか!

「太郎さんも好きだけど、んまい棒とかポテトスナックかけて食べるのも好きですからー」
「勝手に人の頭覗かないでくれます?お願いだから」

 げんなりする俺に全く構うことなく、名前はおかわりを注文した。次はカー●丼でも食べるつもりか。
 いや、俺は別に、ある程度であれば他人の偏った食の嗜好にあれこれ口を出すような器の小さい男ではないのだ。しかし許容できるのにも限度というものがある。付き合っている彼女が味覚バカともなると、流石に頭が痛くなる。
 最初のまだ出会いはじめの頃、こいつはその偏食家っぷりを微塵も見せてはいなかった。そう、思い返せばあの頃の俺は、名前がただのお菓子好きの女の子に見えていたわけだ。しかし、こちらが一世一代の大告白をし、晴れて恋人同士になってから俺が格好つけて言った「俺の前ではありのままの姿でいろ」のひとことが、名前の化けの皮を見事に引っぺがした。初めて一緒に定食屋に来たとき、「恥ずかしくて隠してたんだけど、私本当はこうやってご飯食べるの大好きなんだよね」と、定食屋の親父に“いつもの”ポテチ丼を頼んだ彼女の満面の笑みが未だ忘れられない。


 まあとりあえずそれ以来、名前は俺の前でのみスナック菓子大好き味覚バカと化している。私のが大概なら宇治銀時丼も大概じゃん、と度々言われるのには納得いかない。

 「……銀時ってば自分のこと棚に上げていっつも私の味覚馬鹿にしてくるよね」
「バッカおめー宇治銀時丼は人類の宝だから。そんな妙な飯の食い方すんのお前とどこぞのマヨラー副長さんくらいしかいねーって」
「そのマヨラー副長さんは私の食べ方も良いなって言ってくれたんですけど」
「は?え、マジでか!?」

なんであのマヨラーの前でも味覚バカ披露しちゃってんの?銀さんだけの特権はどこいったのよ!という俺の悲痛なツッコミに、名前は「前ここでたまたまマヨネーズ丼食べてる土方さんと会っちゃってさ」と事もなげに言う。

「むしろマヨネーズスナック丼という新たなるジャンルを切り開いてしまった我々ですからね」
「いや変なとこで意気投合してんじゃねーよ!」

俺は甘い物系、向こう二人はしょっぱい物系──とんでもない盲点だった。俺そっちのけで味覚バカ同士で、よりによってあのマヨラーと盛り上がられるなんて御免だ。

「このまま銀時に色々言われてるんだったら、私土方さんの方が好きになっちゃいそうだなー?」
「わかっ、わかりました俺が悪かったですごめんなさい!」

惚れた弱みか、悲しいかな、俺にはなす術もない。カウンター席で情けなく頭を下げる俺に、名前はしてやったりといった顔で笑った。
  



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