網走監獄の看守室、ガラス戸の隙間から冷たい風が吹いて首筋を撫でる。
今日は外の監視なのでことさら冷える。北国育ちではない男にとってこの寒さは少々堪えるが、北海道に来て数年も経てば少し慣れてくるものだ。
隣にいる同僚も同じように道外からやってきた男で、かじかむ指先をぎゅっと握りしめている。
「なあ」
「なんだ」
同僚に話しかけられて男は返事をする。
「お前、どうして中尉に報告しない」
男はその一言を聞いた瞬間、ぐるりと同僚の方へ顔を向ける。薄ら笑いを浮かべたその表情に同僚は外気温ではない寒気が背中を走るのを感じる。
同僚はムッとした様子で男になおも語りかける。
「そもそもこの任務をお前がこなせるとは思ってなかったが、中尉はお前が役に立たないから次のお目付け役を送ってくるぞ。宇佐美をな」
男はじっと同僚の顔を見ていたが、また薄ら笑いを浮かべて鼻を鳴らす。
小ばかにされたと思った同僚は少し声を荒げながら告げる。
「到着したら宇佐美にぶん殴られちまえばいいんだ、なあ? 裏切者」
と、男は興奮した様子の同僚に近づくと、そっと己の手で同僚の口をふさいでガラス戸に体ごと押し付ける。
ガジャン、とガラス戸が鈍い音を立てて鳴り響く。
「声が大きいぞ」
男はしーっと子供に言い聞かせるように同僚をなだめた。
その顔はさっきまでの薄ら笑いはなく、全く笑っていない目は細く冷たい色をしていた。