昨日から晴れて、高校生になった。中学では女子とは無縁の三年間を過ごしたが、おれには心に決めていることがある。高校デビューをして心機一転、おしとやかな文系眼鏡女子の彼女と、純愛スクールライフを送るんだ!

そう意気込んだのも束の間だった。

「よし、とりあえず一人ずつ、名前と、あとは趣味とか特技とか、好きな科目、好きな食べ物、なんでもいいから自己紹介をしてもらおうかな。じゃあ相澤から」

入学式を終えた翌日、最初の授業は「総合」という名のオリエンテーションだ。担任に言われるがまま、おれは窓側最前列の座席から立ち上がり、また担任に促されるまま皆のほうへ振り返った。高校進学と言っても内部生ばかりだというのに、教室を見渡せば顔の知らないヤツらばっかりだった。あがり症のおれは、見慣れない人間から多数の視線を向けられていることが一気に怖くなったが、一生懸命スカして、しりつぼみの、適当でダサい自己紹介を済ませた。担任の無駄にデケェ拍手とは裏腹に、まだ迷いのある生徒たちの疎らな拍手が耳馴染み悪く鳴り響いた。

「テンポよくどんどんいくぞー」

次々と自己紹介が続いて、おれは焦燥感に包まれた。クラスメイトの誰ひとりとして知らないのは無論、すこしばかりヤンチャなヤツらが多い気がする。これ、友達できるか?自己紹介をひと通り聞くなかで友達候補、すなわち自分と近しい人間を見つけたいところだけど、今のところ、仲良くなるにはハードルの高い面々が揃っている。たった今自己紹介を終えた中村くんは、学ランの下にアイドルアニメ一番の巨乳キャラが胸元を強調した絵柄のTシャツを堂々と着ていて、好きなアニメと好きなキャラクターと好きな女性声優と、それぞれの好きなところを光の速さで言い放ち、熱中しているらしいソシャゲのフレンドを募っていた。おれもオタクの類いだけど、彼とは価値観の相違が激しいかもしれない。

……参った。個性の強すぎる生徒たちに囲まれ、どうもクラスに馴染めなさそうな空気を悟ったおれは、意気揚々と掲げた高校デビュー、そして夢見たおしとやかな文系眼鏡女子とのイチャラブスクールライフは没になりそうだと、絶望にも似た感情に苛まれた。それどころか、この一年間、休み時間には友達のクラスに足繁く通うタイプの、虚しきぼっちスクールライフになりかねない。自己紹介も終盤、おれは途方に暮れていた。

「はい、次ー、」
「南健太郎です。趣味はテニスで、去年はテニス部の部長をしていました。一年間、よろしくお願いします」

いかにも真面目そうな声が、おれの耳に際立って聴こえてきた。よかった。人の良さそうな雰囲気を感じて、普通の人もいるのだと、なんだかひと安心した。席が遠いのは残念だけど、この人と友達になれたらいいな。そう思いながらも、突然話しかける勇気なんてあるわけもなく、チュートリアル代わりの半日の授業を終えた。新学期の不安が残ったまま、別のクラスになった友達と帰路につき、翌朝もそいつと待ち合わせて登校した。

「じゃ、オレ四階だから」
「……まじで無理、泣きそう」
「あははっ、頑張れりく!昼飯、うちのクラスで一緒に食お!」

踊り場からじゃあなーと笑顔で手を振る友達を見送って、廊下で孤独を噛み締める。冗談抜きに泣きそうだ。はやく昼休みにならないかなあ……。

「おはよう」

肩を落としてとぼとぼと歩いていると、後ろから真面目そうな声がして、振り向くと南がいた。……おれに挨拶、したっぽい。ポカンとしながらもひとまず挨拶を返して、なんとなく二人の足は一緒に教室に向かって行った。

「相澤、だったよな。よろしくな」
「……よろしく」

窓から差し込む光が反射する南の白い制服が眩しくて、おれは視線を下に逸らした。……奇跡だ。名前まで覚えてくれてるし、南、まじで良いヤツすぎる。それに対しておれは人見知りを存分に発揮して、ぶっきらぼうにしか返答できないのがもどかしい。……けど、このまま絡みづらいやつだと思われてたまるか!

「あのさ、今日の昼休み、一緒に飯食わねー?」

チャンスを逃すまいと勝手に必死になり、テンパった頭で勇気を振り絞って出た言葉がこれだった。テンパってるから語尾も迷子になって、チャラついた言い方をしてしまい大変な恥である。ていうかこういうのって、昼休みになってから自然な感じで「飯食おうぜ」って誘うのが正解なんだろうな、とんだ早漏をかましてしまったかもしれない。

「ああ、いいぜ。どこで食べる?」

おい……南……、良いヤツすぎるだろ!!!!もはやその屈託のない笑顔も眩しいぜ南……。優男にも程がありそうな南と昼飯の約束を取りつけたおれは、この上なく安堵しながら席につき、ホームルームが始まる前に今朝の友達にメッセージを送信した。

『クラスのやつと昼飯食うことになった!』

おしとやかな文系眼鏡女子とのムフフなスクールライフのことなんかすっかり忘れて、おれはクラスに友達ができた喜びに浸っていた。はやく昼休みにならないかなあ……。逃げ道として待ちわびた昼休みが、ただただ楽しみな時間へと変わっていた。




妄談臆解_男×男