第1話 キズパワーパッドくんを探せ!@
「暇だなー……」
「せやなあ……」
俺たちスケット団の最後の依頼は一週間前に遡る。それもまたヤバ沢さんとこのエロ猿……イエティが逃げ出したから捕まえてほしいという内容で、依頼といってもただの身内の雑用だった。それから部室の扉が開いたと思えば、キャプテンや振蔵が差し入れを片手に談笑しに来るだけで、認めたくはないが、俺たちはかなり暇を持て余していた。千羽鶴を6体完成させるくらいには、それはそれは暇でしかたがない。行き場のない色とりどりの千羽鶴を6体も吊るしてあるおかげで、部室が狂気じみた病室のようになっている。それでも、鶴を折る俺の手は止まることを知らない。片手それぞれで同時に一羽ずつ折れるようになったせいで、鶴の生産速度が二倍になった。テーブルに広げられた7体目の千羽鶴も、とうとう完成に近づいている。
「失礼しまー………あれっ?」
ゆっくりと部室の扉が開いた。暖簾のごとく吊るされた千羽鶴が邪魔をして姿は見えなかったが、どうせまたキャプテンか誰かだろうと思って畳の上にふんぞり返っていると、ヒメコがものすんごい形相で俺のほうを見ていた。
「おいボッスン!!依頼人や依頼人!!え どないしよ、久しぶりすぎてアタシ緊張してきた!!アンタはよ出迎えてこい!!」
「マジか!?依頼人の方ーーー!!!!どうぞ入って!!!!」
「え、でもここ折り紙部………」
「スケット団ス!!!!」
千羽鶴を掻い潜って現れたのは、黒髪に天使の輪が光る、ショートヘアの女子生徒だった。俺たちの勢い余る歓迎に、その女子生徒は大分困惑している様子だった。ひとまず向かいのベンチに座らせて、いつものようにヒメコがお茶を淹れ、余ったお茶菓子を差し出した。
「ほんま嬉しいわあ、しかも女の子!名前なんて言うん?何年?何組?」
『相澤美結。2年B組、マジカル卓球部所属。苗字の読みはあい“さわ”なのに担任に“ザワちゃん”と呼ばれているのが悩みだ』
「お前に聞いてないねん!!ほら見てみい!相澤ちゃんガチ引きしてるで!」
「久々の依頼人を怖がらせんな!ていうかマジカル卓球部って何?」
『マジカルバナナをしながら卓球のラリーを行う部活動だ。サーブ権は球を拾った人、球が何回バウンドしても床に落ちても壁にぶつかってもラリーは続けられる。ちなみに、マジカルバナナはしなくてもいい』
「マジカル卓球部の意味!!!!ただのルール無法地帯の卓球部じゃん!!!!」
「……普通の卓球部からの吸収を断ったら廃部の危機なの」
「そりゃそうだよ!」
「ほんで?依頼っちゅうんはマジカル卓球部の存続かなにかなん?」
「今回はそれじゃなくて……」
少し萎縮しているように見える相澤さんは、お茶をひと口飲んで、しばらくして意を決したように口を開いた。
「……その、好きな人を探してほしくて」
「探す?失踪でもしたんかいな」
「ううん。私、一目惚れをして。でも、その人が誰なのか、わからなくて……。同じ学校の生徒なんだけど……」
『なるほど。一目惚れをしたはいいものの、相手の素性がわからない、と』
「うん……。一ヶ月前、放課後に私、転んじゃって。その人が立てるか?って言って、手を差し伸べてくれてね、それで、擦りむいた膝を見て、これをくれたの」
スクールバッグの外側にある小さなポケットから、相澤さんは薄茶色の何かを取り出して、テーブルの上に置いた。ぴっちりとラミネート加工が施されたそれが何なのか、瞬時にはわからなかった。
「……なんだ?それ」
「絆創膏。それからずっとお守りみたいに持ち歩いてるんだ。これを持っていたらいつかまた巡り会える気がして……」
「絆創膏!!!???え、なに、相澤さん、使用済みの絆創膏持ち歩いてんの!?ていうか絆創膏ラミネート加工すんなよ!しかもキズパワーパッドて!キズパワーパッド常備してる人いんの!?!?」
「おかげで早くキレイに治ったの」
「やかましいな!」
『それで、俺たちはそのキズパワーパッドくんを特定すればいいんだな』
相澤さんは丁寧にラミネートされた絆創膏を愛おしそうに眺めた後、ため息をひとつついた。大人しくて真面目そうでまともそうな見た目とは裏腹に、使用済みの絆創膏をラミネート加工して持ち歩く悪趣味の……ちょっとヤバそうな子だけど、ここはひとつ、相澤さんの力になってやりたい。俺たちが必ず、キズパワーパッドくんを見つけてやるからな!