BGM:eppure Sentire(un senso di te)
水葬の花婿







俺には花を届けに通う、
あの子供の気持ちが解る。

理由が無いと会えないんだろ
だから怒られても花を持っていく
ユメを喜ばせて
ユメを笑わせて
ユメの、
ヒーローになりたいんだ。

子供ながらに、ユメと積み上げた思い出にあてられて、何度も通って愛を囁いてんだよ


子供と同じ思考だなんて思うと笑いが堪えきれないが、さすが同じ男だなと思う。あれは小さい俺だ。
理由なら虫除けでは無く、守るヒーローでいたいんだが、まあ会える口実になるなら今となっては虫除けでも構わない。


だから、知らない子供と簡単に結婚してしまって、愛しくて仕方のない生き物だなと思った。罪作りと言われて、込み上げた感情を汲むように誰かの花嫁になってくれたもんだから。

罪人同士仲良くなんて、極みだ。
俺も心から、この触れられる距離さえ愛しいと思った。

まるで暗号みたいな会話が成立するのは、きっと互いの手が胸の皮膚をすり抜けて、五本の指で撫で摩るように心臓を掴みあっているせいだろう。どうりで、微笑みながら瞬きをするユメは、美しいはずだ。


幸せな時を閉じ込めるように眠ってしまったユメをそのままにしてやりたくて、病室を後にした後、ユメが一番美しく見える花なんてあるのか知りたくなって、こんな時間に開いてる店を探していた。



-ひざしさん、

-部屋にあの人が来ました。
-入れ違いで居なくなったら、
-系列の病院に必ず居ます。
-私を、探してくれますか。


さがす?なにを?

…来ました?

幸せそうだろうが
邪魔すんじゃねぇよ


静かな電話は無事と言う。状況を理解できないまま、明確な怒りだけで切るハンドルは、やや荒ぶって街の灯りを流していく。そんなわけが無いのに、自分の足の方が速い様な気がしてきて、妙なタイミングで引っ掛かる信号に、ヒーローらしからぬ衝動がよぎりそうになった。

いつもの駐車場に車を停めると、抑えていた分だけ、場所もわきまえず自由に足が動いた。無茶な疾走は何も整える暇を与えない。夜間出入口を抜けた瞬間嫌な匂いがして、静まり返った廊下に、やけに爆音が響いている気がした。

最後の階段は、容赦なく呼吸を無かったことにする。

無事か。なら間に合えと、
俺は全力で走り出したのに。

無事なんだろ
じゃあなんで、なんだよ。


何故、

響くの は


俺は、
悲しげなクジラの声を聞いて

…居なくなる?


駄目だ、酸素が足り
思考が 途切れ


水葬の花婿

 






fix you