BGM:Shawn Mendes/24 Hours
その信号は灯台を掴む確かな日の出







「ユメー!こっち向いてー!」

「え?待って待って、いいポーズするから!……ハイっ」

「いや、…ごめん、これムービー」

「ええええ!?ちょっと!早く言ってよ、凄く気合い入れたのに」

-それでは、かねてからのご友人であるユメさんに-

「そのまま記念に撮っといて!ちょっと行ってくる。うわぁ…出番来ちゃった…緊張する、どうしようどうしよう…心臓がさっきのフレンチごと出てきそう」





そっと差し出された映像は、
手紙を読み終えて拍手を浴び、新婦への祝福の抱擁までを映していた。


死んでいた、ある種“生前”のとも言えるユメの声を初めて聞いたひざしは、開き切った目で画面の中のユメを追い、真相に差し掛かる片鱗に触れて、ただ言葉を失っていた。


ひざしの腕から離れ、ノートを延々と書き始めたユメは、1ページを書き終える事にちぎり取り、ひざしの前に並べていった。





-経緯を聞いて下さい


元々話せます。声出ます。
先天的ではありません。
私は病気ではありません。
私は、元気です。


元々は喉の不調で通院していて、良くなる筈でした。


あのガードさんは元から病院にいた人です。通院を始めた頃から付きまとわれていました。強引に話をしたり、話を聞かなかったり、困ってる間に勝手な解釈をしたりもずっとです。

そんな中ますます声が出なくなり、再検査で、ただの不調だった物が、ストレス性の声帯異常に変わっていると診断を受けました。

心当たりを聞かれて、
診察で泣いて話しました。

妙なスキンシップが始まり、無理矢理キスされた事をきっかけに警察へ相談に行った事、病院を変える考えがある事、解決しないなら婦女暴行で訴えてでも、出るところへ出る意思がある事。強気なことを随分言いました。


すると、その日のうちに入院になりました。後で電話を折り返すと言った警察から連絡はありませんでした。

私はその後で、彼が院長のご子息である事を、この病院に守られている事を知りました。


両親は他界しています。兄弟もいません。行く所も帰る所も無かった事を利用されました、しばらくして事務から「長期入院に加えて、症状研究への貢献の名目で家賃の支払いが病院側へ移った。良かったですね」と言われて、不祥事の揉み消し、完全隠蔽をする気なんだと理解しました。


あの人が妙な距離感で引いていくのは、諦めさせるためです。

無駄だと折れて、もう無理だと大人しく自ら降伏させるためです。そうすれば囲った後も、あの人達は不祥事がバレる事はありません。

意味の無い薬を私に飲ませるのも、意味の無い検査診察も全部、閉じ込める体裁です。病人にしておかねば都合が悪い、それだけです。本当は元気なんです。私、とっても。




-ここからは、ひざしさんへ。

病院もあの男もそれらしい事を言って、ニコニコねじ伏せてくるので、出会う前はいつ諦めて楽になるか、そんな戦いでした。

出会ってからギリギリのラインを保ってこられたのは、ひざしさんが毎日会いに来てくれたからです。それでも連れ出してくれた日の、ご飯が食べられなくなった時みたいに、ずっと揺らぐ毎日でした。


でもずっとひざしさんが、
諦めないで笑っててくれたので、ずっと腹を立ててくれたので、貴方が毎日私を強くしてくれたので、毎日幸せにしてくれたので、意味がないって解ってるけど証拠を撮る事にしました。


貴方に言えなかった理由は、
どこかで無駄かもしれないと諦めてたから、相手が病院と警察とか組織なんて勝てるわけが無いから、今まで何をしても無駄だったから。
下手に動いてより悪く加速するなら、やり過ごしながら減速させて、日々を引き伸ばすしか方法が浮かばなかったからです。
まだ折れてないって言い聞かせながら、本当はもう心折れてたんだと思います。

ひざしさんが幸せな思いをさせてくれる程、明日を囁く程、ひざしさんが世界から無くなるのが怖くなりました。


でも今は、辛い時いつも助けに来てくれたから、いつも心救われたから、居なくなってもラジオがあるし、次にラジオが奪われたとしても、心には沢山ひざしさんが持たせてくれたものがあるって、さっき襲われて戦った時に確信しました。なんにも怖いものがなくなりました。

助けたいと願い続けてくれてありがとう。出会った日をやり直させてくれて、ありがとう。覚悟ならできました。もう負けないから、
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ひざしの周りが紙海で溢れた頃、
座り込むひざしは、レンズを隠してしまった灯台の様に、掌でその瞳を覆っていた。

ユメは、光を遮る様に邪魔をする固く閉じられた腕をひとつずつ摘むと、徐々に腕を預けるさまに感動しながらしばし遅れた事を謝り、ひざしは、海を渡って迎えに来た、助けて下さいと記された掌にそっと手を重ね、そして願わくばずっとその瞬きをと微笑んだユメに、波紋のように広がる余韻を感じていた。




その信号は
灯台を掴む確かな日の出






 






fix you