縄愛-攻め主企画サイト- 様 参加 提出作 選択お題【31.明かりをつけよう】(企画様リンクはtopからどうぞ)[7.7.Happy Birthday MiC]
BGM:Play/Jessie J
明かりをつけよう
BGM:Play/Jessie J
明かりをつけよう
理由も解らないまま沈んでいくオフィーリアの様な悪夢から救い出し、それだけに留まらず、共にバスタブに沈んで塗り替えてくれたひざしさんの突飛さは、湿度に包まれた静かな会議室で、酷く爆音を響かせているように思った。
「今日はゆっくり眠ろうな」
そう言って後ろから抱き締めたまま、右耳を塞ぐように擦り寄せられた、ひざしさんの左頬から首筋にかけての曲線からも、早まった音を堪える様な震えが響いて伝わってくる。
想いは、バスルームの中で肩を啄み合うだけの岸壁で、柔く締め付けられた。でもそこに苦しさはなく、息が溢れるほどの心地良さがある。
そんな甘さに耐えられなくなったんだろう、水葬ごっこを先に終わらせたのはひざしさんだった。
「服持ってくるから、呼ぶまで溺れんなよ。OK?」
二度頷くと、立ち上がったひざしさんから、ボタボタと張り付いた服が重たそうに微温湯を零した。
壁を這う蔦のように胸板を流れる髪が、ジャケットを絞るために伏せた瞼が綺麗で、のんびり浴槽の縁から眺めてしまった。
「ナァニ?…もっと?」
顔付きはもう、
羞恥を煽る色を乗せて
口角を上げていた。
普段の温度に引き戻された私は、
裾から両手で勢いよく捲りあげられた一瞬で、アンニュイさとは間逆の剥き出しの筋張ったお腹を見てしまって、暴れる様にすくい上げたお湯をかけた。
「Waaaait!!!!絞ったばっか!!解った解った!」
指先からは個性のシャボン玉まで多目に飛び出してしまって、ひざしさんはそれでも嬉しそうに洗濯されちまったと笑いながら消えていった。
洗濯機を先にお借りする事になり、乾燥が終わるまでひざしさんコーディネートに着替えた私は遠慮がちにリビングへ戻り、姿を探した。
すると、ドライヤーを持ったひざしさんが半開きのドアの向こうから手招きをしていて、次はユメちゃんの番と間延びした声で呼んでいる。
前に乾かしてもらった雨の日を思い出した私は、そんなに前でもないのに、やけに昔の事のように懐かしく感じていた。
呼ばれるままベッドに座り、
ひざしさんの足の間に収まる。
もう隣には準備良く、
私が話すためのノートとペンが置かれていて、余計に、話せもしないのに筆談だけで積み上げてきた、ひざしさんに守られた日々が込み上げた。
声を失って以来、無下にされ続けて真っ暗な日々だったけど、こうして筆談が楽しくなったのはひざしさんのお陰だったなぁ。
なにかいいお礼みたいな事ないかしら、そう考えた所で、視界に飛び込んできた"わくわくセット"に目を奪われて、私はペンを走らせた。
-ねえねえ、ひざしさん!!
-あの箱なに!
デスクの下に寄せられた箱には、沢山のクラッカーが詰まった袋と、俺が主役のタスキ、変な鼻眼鏡、きらきらのモールが幾つも飛び出していた。
「YOYOユメちゃん目の付け所がないっセンスだな、My Birthday セットだよ。派手に祝い歩くんだいつも。楽しいぜェ」
-誕生日いつですか?
「んー、明日」
ええええええええ
ええええええええ!!
驚いてノートに書くより先に振り返った私は、ひざしさんが持っているドライヤーに激しく頭をぶつけて尚、構わずひざしさんの服を引っ捕まえていた。
「アアー!ほら暴れるから!」
ひざしさんは私のおでこを優しく擦りながらも笑っていて、シャウトし過ぎだと肩を抑えられてしまった。
ひざしさんだけに聞こえる、声にならない私の音は、なるほど今回はシャウトに近かったらしい。
-誰かからフライングは?
「ねぇよ?なんで?」
-じゃあ、私が一番貰いますね!
「ユメちゃん、気が早ェェ」
-この箱、使っていいんですよね
プレゼントをくれる人にプレゼントするなんて、ドキドキする。何をしてやろうかと思うと興奮してきた。
いいよと言ってくれたお言葉に存分に甘えて、ここは盛大に祝わせて貰うとしよう。
「ナァニくれんの?」
そう言えば、周波数みたいに波長が響くって音程は……伝わるのかな。そう思って、ノートにもバースデーソングを書く事にした。
頬が引き攣りそうなほどニコニコするひざしさんは放って置いて、本当に好き放題に箱を漁らせてもらう。
奥の方にキャンドルを1つ見つけて取り出し、金色とショッキングピンクのモールで床にデコレーション。
ひざしさんみたいな髭が付いた眼鏡は、自分がかけた。
「ユメ、ちゃ、、ふっ、似合うぜェ最高に…ふ」
お腹を抑えて笑っているひざしさんにキャンドルを押し付けて、目配せしながらシャボン玉を一つ飛ばせば、ちゃんと伝わった様で火を付けて持っていてくれた。
デスクに置いてあるシーリングライトのリモコンスイッチを切ったら、お洒落なフローリングに魔法がかかった様に、ひざしさんが浮かんで見えた。
三日月の口元から覗く白が眩しい。そのフレネルみたいな瞳が愛しい。あぁ、私はなんて素敵な人に見つけて貰ったんだろうか。
ハッピーバースディトゥーユー
ハッピーバースディトゥーユー
ハッピーバースディ
でぃあ、ひざしさん
ハッピーバースデイ トゥーユー
ノートを広げながら、悪夢後に似合わない、やけにムーディなハミングだな、なんて。キャンドルを持つひざしさんの手を、右手で撫でて、口元にくいっと上げた。
少しでも、
数秒でも今を彩っていたいな。
ふぅ、と吹き消された灯火の残像に、沢山飛ばしておいた、ひざしさんの好きなシャボン玉が、イルミネーションの風合いを残して弾けた。
「え…全部、つか…うの」
真っ暗なまま、クラッカーが詰められた袋を全部ひっくり返した音を聞いて、企みがバレた様だったけどもう遅い。持てるだけ持った私は、思いっきり全部の紐を引いた。それはもう、手当たり次第に。
「イヤァァァァアア!!!!ユメチャン!!!!家燃えるゥ!!Waaaaaaaait!!!!」
ひざしさんの悲鳴みたいな声と、自分では聞こえはしない笑って弾むだけの身体が楽しくって、このまま真っ暗に閉じ込められていたくなる。まだだ。だめだ、あともう少しだけ。
「もういいだろ、ほらユメチャン、電気つけるよ?」
用意周到な暗転からは
君の息遣いがよく聞こえるな。
残念ながら
リモコンは私のポケットだ。
全てを手放して腕を伸ばせば、
ひざしさんの身体に届いたような感触。勝手な本能が連れていく手探りの先に、直ぐに首元が見つかった。
「なっs、…ユメ、」
首元、左頬、耳、髪、くっつく鎖骨。顔を擦り寄せて抱き締めたら、自分だってバスルームで好きに頬ずりしてた癖に、慌てた息遣いが甘さを飲み込んでいった。
あぁ火薬の匂い、いい匂い。
ひざしさんの惑い、いい匂い。
完全に救われるまでは、
まだ駄目なのに。
一口ずつ、
少しずつって言ったのに。
解っているのに、何故だか止められないドキドキと楽しさが、勝手にひざしさんに誘われる。
肩を啄みあったバスルームの鼓動を彷彿させて、脳の隅っこから止まれ止まれと聞こえるのに、捕まえたくて仕方がないな。
「…ユメちゃん、解ってんの?」
甘いどころじゃないな
砂利砂利シュガーじゃなくて粉糖を舐めたような滑らかさと、細やかさと、繊細な、未知で無計画な身体の意志。
それは君を、心臓の傍に
置いて起きたいだけの話なんだ。
例えば、この、ねじって束にしたクラッカーテープで貴方を捕まえたとして、
「止まんなくなったらど……はァ。もうユメちゃんてば」
夢中だった私がハッとした時には、テープでグルグルに捕まえたひざしさんを、ベッドに押し付けて馬乗りになっていた。
わあああああああああぁぁ
大騒ぎしてしまったあああ
こんな事に至るまでを、まるで全部分かったみたいな溜め息が真っ暗から聞こえる。今更になって、止まらなかった羞恥心が込み上げて喉が鳴った。
「ユメチャン、なんで俺の理性、全部持ってこーとすんの?」
呆れて笑ってる。
でも、あれ、
なんか…少し…灰色だな。
「ホント、俺の理性に手加減ないね、ユメちゃん」
「いつもより悪い子ジャン…わがままで聞き分け、全くねェし?」
「今頃照れてんのォ…?叫んじゃって…クッソ可愛いなぁ?…そんなに困るならやンなきゃいいのによ」
笑みを含んで黒さを増す低い声は、今後の仕返しを思わせるには充分な色と圧力があって、わざと甘やかされていたのが解る程の力で、あっという間にクラッカーテープが裂けていった。
「見せ合いっこしようかァ…………どんな顔してっか」
リモコンの在処はとっくに見つかっていて、隠そうとして手を入れたポケットごと握り締められて、羞恥がカットインした。
明かりをつけよう
「俺のなんか着ちゃって、ナァ?………最高に可愛いよ、ユメ」
はしゃいだ鼻眼鏡をがたつかせたまま、最大音量の声で周波数を響かせた私は、満足そうに片眉を上げたひざしさんの両頬を挟みあげるように全力のビンタをした。…何度も。
叫び声に加えて大爆笑
理不尽不可抗力生殺し
色んな声が聞こえたけれど、
私達まだこれから戦いに行くのよ。
だから、やっぱり。
もう少しだけ待ってもらおうかな。
でもさ、走り出したい想いを、余すこと無く聞いてくれてありがとう。私は多分、出会った時から、貴方のそんな所に夢中なのよ。
fix you