BGM:Thomas Rhett/Life changes
控え室のサンプリングレコード








「コンコーン。貴女のプレゼントマイクがスペシャルボイスをお届けするぜYeaaaaah!」


うるさく流れるように入って来た彼の手には、今日も別の新しいノートがあった。


浮つく心のままに受け取って、ベッドの上に乗る。今日の1ページ目は「わあ!マイクさん!!」で、あとの余白が無くなって2ページ目に飛び出るほど、沢山のビックリマークを並べた。

中々描き終わらないものだから、隣に座った彼は私が書く間、長い髪を耳にかけて、ノートの隅っこにYEAHのロゴを縁取りでデザインしていた。


ふと顔を上げて、目線があって、ニカッと笑いあったのは同時だった。


-合いの手みたいですね!そのYEAH。
-とってもオシャレ。

「盛り上げるのもお役目デース!」

ペンを持ったまま、やたらファンキーなポーズを決めるマイクさんの真似をして指を曲げて見たけれど、私の指はどうにも馬鹿で、僕さんちゃいみたいになってしまう。

「ァ?さんちゃいか?キッズは仕方ねぇな」

頭で考えた事とまるっきり同じ事を言うから、可笑しくて爆笑が止まらない。入室数分でこんなにも笑いを取れる彼は、本当に才能に溢れすぎている。

笑って弾む私の腕を優しく掴んで、指を1本ずつ、曲げて、伸ばして。崩れそうなジェンガを詰むみたいな手つきで、全く同じポーズを再現してくれた。

「ホラやってみな。Yeaaaah!だ」

いえーい!!

胸元に掲げた渾身のいえーいは、今マイクさんが感じている楽しさと絶対に同じだなと、変な説得力と確信がある。

イエーの他に次々とインパクトの濃い顔を決めていくマイクさんは、その辺の洋モノアーティストなんかより随分強い存在感を放っている。
輝いて見えるのは、エンターテイナー気質な人って同調した時の感動が隠しきれないでいるのよね、と知っているから。

私を感じ取って心を動かしているなんて、そんなの嬉しくって、輝いて見えない筈が無い。


「これでユメちゃんもファンキーロッキンガールだな」


ひとしきり笑いあって。
サイドチェストに隠しておいたパステルカラーの12色を取り出す間、彼はずっと満足げに髭を撫でていた。

「何?買ったの?」

うん。可愛いでしょ。

頷いて呟いて。ノートには、可愛いでしょの文字を1文字ずつ色分けして、デコレーションして描く。お花を添えて、猫を描いて、後は木とか葉っぱとか。


「ユメちゃんの方がとんでもなくキュートって知ってる?はい、知ってる良い子はYeaaah。」


そんなまた。笑いながら大袈裟に掌で顔を隠した私の手を引き寄せて、マイクさんは流れるような所作で手の甲にキスをした。


いつも感じていたけど、マイクさんの行動は常々甘い。思い返す程、出会いの日から連れて来た日々が振り返りきれないほど幸せすぎて。

伝えたいな、と思った私は、しあわせと一文字ずつ唇を作って、伝わるように念の為ノートにも書く。幸せすぎて死ぬんじゃないかと思ったー、とも。


でも笑っていたのは私だけで、普段と違ったスピードで重ねられた手が、もう書き終えてしまった文字をぐちゃぐちゃに訂正した。


「それは言うなよ。ナァ。…OK?」


しまったと思ったけど、もう遅かった。あんなにも幸せいっぱいの部屋を作り上げてくれたのに、ツンと詰まる空気に早変わりしてしまった。
視線を落とせば、可愛かった文字も台無しになっている。


「ユメは幸せ、だけでいいだろ。もう」


あんなに。と続けられた言葉はそこで止まってしまって、彼もまた同じように胸を詰まらせてくれている事を知って、うっかり愛おしいと思ってしまった。


「マイクさん、聞こえますか。」

顔を上げた彼の頬を両手で包んだ。訂正します。どうにか届いて欲しいな。


「幸せ。わたし、とっても、しあわせ」


重ねる様に手を被せて微笑んだマイクさんは、とても言い様も無く緩んだ顔をしていた。

「Me tooはよォ。男が言うのはダセェよなぁ……まあでも、先を越された方の負けだけどよ」


幸せなんだわ、俺も。
そう言ってくれた事を、私はこの先一生ずっと忘れないんだと思う。こんな新郎新婦の控え室みたいな、くすぐったい時間をくれるなんて。とんでもないヒーローが居たもんだ。

「で?この変なのは何なの?狐かなんかか?ユメちゃん」

彼が私の落書きに文句を着けたのは間違いなく照れ隠しだった。あぁ愛おしいな。まだ逃がしたくないんだけど。


-それは猫ですよ

「…可哀想に。壊滅的だな」


毎日がこんなので、繰り返しだったらいいな。何の心配もさせてくれなくて、安心しかくれなくて、たくさん笑って泣いちゃうような。もう強くなくてもいいと思わせてくれるような。


-さて。明日の計画を立てようぜ!!


今日は彼に代わって私がその言葉を綴ろうか。彼が見せてくれたフレネルの光みたいに、私も彼の明日を照らしていたらいいな。




【控え室のサンプリングレコード】


 






fix you