名も無き島の、名も無き町で。
若い海賊と女は出会った。
女は、女と呼べる程大人びてはいなかったが、少女と呼ぶ程幼くもなかった。少女と女の境界線、そんな曖昧な位置。
「もう行っちゃうの…?」
「あぁ」
「また会える?」
「…また会えるさ」
『また』これほど不確かな言葉はない。
若い海賊はそれをわかっていたし、女もまた気付いていた。
けれど。
さようならなんて言いたくなくて、聞きたくなくて。
『また』と口にしてしまう。
「…お前が、」
「…うん」
「お前がこれを、美味いと感じる様になる頃に」
「その頃、また会える?」
「あぁ、また会えるさ」
手渡された包みを開いて、焦げ茶色のソレを一口。
女は笑いながら『まずいね』と呟いた。
海賊もまた、笑いながら『不味いだろう』と呟いた。
『必ず迎えに来る』
少しだけ真剣な顔で囁いて、両の手で女の頬を包み込んだなら、幸せそうに目を細めるから胸が詰まった。
『ずっと待ってる』
少しだけ泣きそうな顔で呟いて、頬を包む両手に触れたなら、幸せそうに微笑むから、胸が詰まった。
女は待った。待って待って、待ち続けた。
一月が経ち、三月が経ち、半年経っても迎えは来なかった。
それでも女は待ち続けた。
更に一月が経ち、三月が経ち、半年経っても迎えは来なかった。
それでも、女は待ち続けた。
海賊の残した、苦い苦い焦げ茶色のソレを口にして
『まだ不味い…』そう呟きながら待ち続けた。
コレが美味しく感じる頃には
貴方は迎えに来てくれるの…?
ねえ、教えてよ。
甘味なんて殆どなくて、絡み付く様な舌触り。
なかなか溶けてはくれずに突き刺す苦味に眉を顰める。
それでも口にしていないといけない気がして。
迎えに来た時に気付いて貰えないかも知れないから。
どれくらい待ち続けたのかわからない。
女は、もう女と呼べる程になっていた。
細かっただけの線も丸みを帯びて、少女とは呼べないくらいに。
未だ頬には海賊の温もりが鮮明に残っているのに。
その手の持ち主はここにはいなくて。
女に残されているのは焦げ茶色のソレだけ。
美味しいとは到底言えない
カカオ86%の苦い苦いチョコレート。
一粒つまみ上げたソレをカリリとかじって呟いた。
苦々しく感じるのはチョコなのか、心なのか。
「ねぇ、いつまでも不味いのよ…」
「…奇遇だな、おれも不味いと思う」
「…っ、」
女の首もとに、不意に回された右腕。
その懐かしい温もりに自然と込み上げる甘い痺れ。
ゆっくり振り返る女の瞳に移るその色。
焦がれて焦がれて仕方なかったその色。
燃ゆる緋色が映し出されていた。
「…シャン、クス……!!」
「待たせたな」
待ち続けた海賊が変わらぬ微笑みでこちらを見ていた。
嬉しくて嬉しくて、嬉しくて。
またあの温もりで頬を包み込まれたい、そんな風に考えたけれど違和感に気付いて声をかけた。
「シャンクス、それ…」
「…あぁこれか、新しい時代にかけてきた」
ちょっぴり眉尻を下げながら微笑むシャンクスは、右手で女の左側の頬にそっと触れると空いてる右頬に口付けを落とした。
そのまま離れていた時間を埋める様に、何度も何度も啄む様に女の唇を食みながら深いものへと変えていく。
口腔内に残っていた刺すような苦味が、徐々に甘くなっていったのは、きっとシャンクスのせいなのだろうと、唇を合わせたまま女は小さく口角を吊り上げた。
「…苦い」
「そう?私には甘いけれど」
「まぁな、お前となら甘くもなるだろうさ」
あぁ、神様、願わくば。
14%の甘味はこの緋色でありますように。
『paradox86』(パラドックス 86)
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春卵様から頂きました。
管理人同士盛り上がって共通お題で1本
【そこにチョコレートがあったとして】
春卵::カカオ86%チョコ
オル::Kissチョコ
相互記念:頂き物
Paradox:矛盾